強くてニューゲームができるらしいから ガキに戻って好き勝手にやり直すことにした 

カイガ

プロローグ 「俺は強くてニューゲームを始める」


 202×年秋の某日。 

 現在俺は、無職の引きこもりをやっている。彼女いない歴=自分の年齢(25)だ。家族と一緒に暮らしてはいない。完全に独り身だ。

 名前?名乗る必要も価値も無いだろ。テキトーにNNSナナシとでも呼んでくれ。


 そんな引きニートな俺は今、平日の昼時間にも関わらず敷布団に寝そべっている。世の25才の男性と言えば大抵は働き盛りと言っていいだろう。まぁ俺はこうして働きもしないで寝そべっているけどな。

 まぁこんな俺でもかつては一応社会人をやっていた...とはいってもやっていたのはヒラのアルバイトだったが。

 まぁあれだ。大学生の時に就活やって、エントリーした会社全部落とされて(10社くらい行って全部ダメだった。クソゲーだ)、見事に就職浪人した俺はかつてアルバイト生活を送ってたんだっけ。

 でもそのアルバイトも色々...主に人間関係とか残業強いられるとかが理由で全部辞めて、こうしてニート引きこもり生活をかれこれ半年以上続けているというわけだ。


 そして俺は今...とうとう貯金が尽きてしまって、財布にも千円札が3枚くらいしかない。来月の家賃など払えるわけない。それ以前に1週間後には食い物すら買えなくなる。


 つまり詰みだ。


 あーあ。また今のクソな社会に戻るのは嫌だし、クソな人間がいるからどこにも働きたくないし、かといってこのままだと破滅するし...生活保護にでも受けに行こうかな。といっても五体満足で20代の男が生活保護なんて通るわけないよなぁ。「鬱です」「精神病んでいて働けるような状態じゃありません」とか言って通そうかなー......通れないかー。

 家族もなー。あれだけ独りでやっていくって啖呵を切って出て行ったからなー。こんな状態で帰っても追い出されそうだよなー。無理だ。

 やっぱ詰んだくさいなー。俺の人生もうお終いかなー。


 このまま引きこもりニートを続けると何もかも終わる=死ぬというのに、まるで他人事だ。頑張ってもどうしようもないと分かり避けられないと知った俺にとって、迫り来る自身の破滅...死にさえもどうでもよくなってしまっているのだ。

 とは言ってもこんな俺にも未練はもちろんある。ずっと読み集めている漫画やラノベ作品の完結を見届けたい、セフレ一人くらいつくりたい、学校時代で俺に嫌な目に遭わせやがったあのクソ野郎どもの顔面に数発拳や蹴りをぶち込みたい、また陸上競技のレースに出たい等々...。

 どれも小さな、簡単そうなものだ。まぁセフレは...ムズイか。あーあ、童貞のまま死ぬのか俺は...。


 この状況を打開する方法はただ一つ金を得ること。ではその方法は...働くこと、以上。

 しかし俺はもう働きたくない、だから為す術無し、以上。

 働かずに金を得る方法はまだある。例えば株トレードやFⅩ。だがそれらを始める為には結局ある程度金が無いと出来ない。よって無理。というか金があった時に株やってみたんだけど、数十万溶かして止めたわクソちくしょう。あれマジでクソゲーだわ。俺には全くセンス無いと悟ったね。

 他にも競馬や宝くじなんかもあるが...まぁ運ゲーだわな。よって無理。


 というわけで俺はもう詰んだ。来月には俺はきっと破滅する。この失敗だらけの人生に終わりが来る。来世が確約されているのならこのまま何もしないで今すぐ死ぬこともやぶさかではない。地獄行きとかすげー嫌だなぁ。

 働いて生きる気力が皆無の俺は夜になってからやっと布団から出て、どうせ終わるなら最後はパァ~と散財してやろうと思い、自転車に乗って近くのスーパーへ買い物に出る。



 しかしその道中、



 「え――――――」ドカァ......ッ



 暴走した車が(飲酒?それとも薬?)歩道に突っ込んできて、しかもよりにもよって俺のところへ来て......俺はおもいっきり跳ね飛ばされた。衝突のダメージがヤバ過ぎたせいで受け身を取ることが出来なかった俺は、無防備のまま後頭部から地面に落下する。胴体と頭がヤバい。意識が遠ざかる...。誰かが俺のところへ来て声をかけるが反応できるわけない。

 ......おいおい。いくら人生諦めてるとはいえ、せめて最後にやりたいことやらせてくれたって良いじゃんかよぉ?


 は?俺死ぬのか?最後に大散財することも出来ず、こんなところで終わるのか?死んでも良いとは思ってたけど、コレは......無しだろ~。

 あ、ヤバい......意識が沈んでいく............詰んだ―――







 「 はいようこそ 」




 ......ん?


 さっきまで満身創痍で今にも死にそうだったのが一転、俺の体から傷がきれいさっぱり消えていて痛みも無くなっている。

 変わったのは自分の体だけじゃない...さっきまではスーパー近くの歩道にいたのに、ここは何もない真っ暗な空間。ポケモンで言うと謎の場所か?

 で残る疑問は......俺以外誰もいないはずのこの場所から誰かの声が聞こえたわけだが...


 「危ないところだったねー。君もう少しで死ぬとこだったよー」

 

 また聞こえた。一体何者なのか。


 「僕?まー神的な存在ってことで。ちなみに僕には姿が無いよ。この真っ黒い空間そのものが僕だと思ってくれ」


 などと雑な自己紹介をする神的な何かは、「突然凄いこと言うんだけどー」と続けて、




 「君に 今の君が持つを与えましょう!」




 本当に突然凄いことを言ってきやがった。


 「どういうことかというと、まぁ僕の気まぐれで君に良い思いをさせようと思ってねー。退屈しのぎに色んな人間の人生覗いてたら偶然君の“終わってる”人生が出てきたから少し見て見たんだー。んで分かってると思うけど君が死にそうだったんでここへ引き上げたってわけ」


 終ってる人生で悪かったな。自覚してるとはいえ他人に言われるとムカつくわなんか。で?あんたは俺を死の淵から助けて人生やり直す機会まで与えて、一体俺に何を求めてるわけ?最後には魂とか要求するのか?


 「そんな悪魔なことしないし、君の魂なんてどうでもいいよ。オークションに出しても全く売れないだろうしね。僕が求めてることは簡単だよ。

 君が過去に戻って人生を色々やり直していく様を見せてくれればそれで良い。僕の退屈を紛らわす為って感じ」


 さらっと色々ディスりやがって。要はあんたの退屈しのぎの為に俺を利用したというわけか。過去に戻るってことはこの体のままでか?


 「違うよ。君は過去の自分そのものに戻る。例えば高校生の頃に戻れば君は高校生って感じにね」


 なるほど...年齢・体格は当時のままか。それで、さっき全てを引き継がせるとか言ってたけど...マジで全て?


 「そう、全て!君の魂、記憶、精神、知識、知恵、技術、運動能力、筋力、走力、人生経験...外見を除く全てを引き継がせる!

 しかも過去に戻ってそこからの日々を追うごとに当時の記憶も自動再生される。当時の君が勉強していれば学校のテストの答えなんかすぐ分かるよ!他にも例えば君がトラブルに巻き込まれた事件がかつてあったのなら、その日になったら思い出せるはずだ」


 マジかよ...ゲームでよくある引継ぎ機能。それをリアルにやるってことか...。今の自分現データ過去の自分ニューデータに引き継がせる。しかも当時の出来事・記憶も思い出せて実体験できるとか...やべぇな。

 とはいえ、出来事を呼び起こすなんてことは必要無いな。俺は過去を振り返ってばかりいたから、小学生時代にあった出来事も今でも思い出せるぜ。勉強は流石に無理だが。


 「ふぅんそうかい。随分と回顧厨な日々だったんだね。

 それはそうともう一つ君に特別なものをあげようと思ってるんだ」


 回顧厨で悪かったな。もう一つとは?


 「君は過去の時代へ戻ってもらうんだけど...。僕や君にとってその時代はだよね。過去に何が起きたのかは調べれば誰でも分かるよね?まぁ人間の君達には限度があるみたいだけど。

 でも僕は過去のことなら何でも瞬時に知ることができる。あの試合で誰が勝ってなんで勝てたのか、あの年で誰が宝くじ一等を当てたのかなんかも、世界中のあらゆる過去の事象が全て知ることができるんだ」


 それってつまり......


 「その能力があれば君は賭け事やトレードなんかで大儲けできるってことさ!

 どの宝くじ券をどのタイミングで買えば大金が当たるかとか、どの銘柄が急騰して保有株が育つかとか、どの馬が勝てるかとか、どれも過去に起こったことなら、たとえ君がその当時関わってなかったとしても瞬時に答えが分かるようになっているんだ!

 そういう能力を君に授けよう!」

 

 俺が知りもしない宝くじの当選番号だけじゃなくその番号が出る場所とタイミングまでも知ることが出来る...。株なんかもっと分かりやすい。過去ならどの株も安い。そのうちに買って抑えて、おけばいずれ花が咲く...。

 大儲けが出来る...!

 引継ぎに加え過去のどんなことに対する答えが分かる能力がもらえるとか、完全にチートじゃねーか!


 まさに、「強くてニューゲーム」だ...!


 「僕があげると言った能力、お気に召したようだねー。他にも他人の対応に関しても答えが分かるよー。どう振舞えば正解か。どう対処すれば正解か。どう接すれば異性の子と親しくなれるかとか、ね。」


 スゲェ。マジで何でも有りじゃねーか。そんなチート能力を俺に渡すなんて、良いのかよ。


 「良いよー。君に渡したところで僕の能力が消えることは無いし。それに言ったでしょ?

 僕の退屈が紛れるならそれで良いと。君なら人生を面白くやり直してくれる、何となくそう思ったんだよねー。だからこうしてここに連れてきたわけだし」


 そうか...ありがたい。成人してからクソゲーな人生を送ってた俺にまさかこんな転機が訪れるとは。それもズルし放題のチート能力までくれるなんて、最高過ぎる...!

 ありがとう。あんたの期待に添えるように面白くやり直してみせよう。人生を...俺の失敗ばかりだった過去の歴史を思い通りに塗り変えて修正しまくって、俺が望む人生に改造してやるから!


 「はははー。やる気満々でよろしい。じゃあチュートリアルはこれくらいにして、そろそろ君を過去の時代へ送って、そこからやり直しさせてもらうね?

 最後に、いつの時代からやり直すかだけど...それは君が決めることだ」

 

 俺が決める?いつの時代へ飛ばしてくれって言えば良いのか?


 「口に出す必要は無いよ。念じるんだ。君が望む時代を浮かべていれば、後は勝手にそこへ君を送ってくれる。僕のプレゼントを得た状態でね。

 さぁ念じるんだ。君が戻りたい時代へ。そして僕を楽しませてくれ――」


 神的な何かが最後にそう説明し終えると同時に俺の体が淡く輝き始める。これから俺は過去の時代へ送られるらしい。なら、念じるか...。


 俺が行きたい過去の時代は―――――






 こうして俺の強くてニューゲームな人生が始まった。








*短い間になるかもしれませんがよろしくお願いします!

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