第6話 えぇ……じゃあ何でここに居るんですか

 町に付けば兵隊達が忙しそうになにか準備をしている。演習準備だろう。そろそろ一帯の村や町に部隊が移動して来たのだろう。


「おはようございます」


 忙しそうな兵士達を脇目に教会に向かう。

 教会に入ると参謀の一人がやってくる。


「今日は特にやることは無い。

 町で待機しろ」

「分かりました」

「それと、何か変わったことはなかったか?」

「いえ?

 特に気になったことはないです」

「わかった」


 外に出ると、町の外れからズンズンと音が聞こえてきた。何の音だ?

 見に行けば、其処には巨人がいた。

 8メートル程の角張った装甲を持つロボだ。


「え、何あれ?」


 ロボが3体。

 ロボはそのまま町の入口まで来ると門を潜って入って来た。周りの兵士達はまわりに足元に近付くなと注意を促し、集まって来た町人達を捌き出す。


「あらパック。貴方も見に来たの?」


 気が付いたらマルティナが僕の隣に立っていた。


「あ、マルティナ。

 うん、あれ、何?」

「アレが機動甲冑だよ」


 僕の質問に答えたのはマルティナではなく昨日の大砲を担いだ兵士、アルベルタだ。


「アルベルタさん、おはようございます」

「あ、お、おはようございます」

「パック知り合い?」


 マルティナに昨日の出会いを説明する。


「ふぅん」


 マルティナは品定めする様にアルベルタを見ると、アルベルタは恐縮した様子だ。僕等のほうが年下なのにね。


「アルベルタさんはアレを倒せるんですか?」

「どうなんでしょう?

 でも、倒す訓練をしてますよ」

「へー……どうやって倒すんですか?」


 胸部は避弾経始を考えているのか船の舳先の様に突き出ている。

 逆に人間の関節に当たる場所はキャンバスで隠されており攻撃するならそこだろう。膝は正面からは攻撃は難しそうだが側面や後方などは楽に行けるはずだ。

 ズンズンと歩く機動甲冑の背中は巨大な箱を背負い、其処から機関銃の弾薬ベルトらしきものが伸びていた。

 腕に付いている機関銃の弾だろう。

 また、左手には体の半分ほどの盾、腰には剣やメイスみたいなもの、斧などが付けてある。


「基本的には胸の操縦席に対して複数組で一斉射撃だよ」


 なる程。戦法は確立されてないのか。数撃ちゃ当たる戦法だろう。愚かな。もっとやり方はある筈だ。から


「おーい、伍長!アルベルタ・カーン伍長!何処行ったあのノロマ」


 アルベルタと会話をしていたら人混みを掻き分け一際大きな声が聞こえてきた。


「あ!こっちです軍曹殿!」


 アルベルタは両手を挙げてフリフリした。その微笑ましい行動に頬が緩む。

 その時、ギュッと右手を掴まれる。見るとマルティナが何やら不服そうに僕の手を握っていた。


「どうしたの?」

「どうもしてないわ!」

「そう」


 機動甲冑を見る群衆が甲冑の行進と共に移動するので、声の主とは比較的簡単に出会えた。


「ここに居たか伍長」


 現れたのは無精髭を生やした男だ。軍服を着てはいるが少しだらし無い。


「何だ?デートの邪魔してたのかお前?」


 軍曹は僕とマルティナを見てから関心せんぞという顔でアルベルタを睨む。アルベルタは違いますと慌てて首を振る。


「アルベルタ伍長は僕等に機動甲冑とその戦い方を教えてくれていたんです」

「そうか。

 坊主、機動甲冑に興味あるのか?」


 軍曹は珍しいと言う感じに僕を見た。


「機動甲冑と言うよりは対機動甲冑銃の方ですね。

 あんなデカイ奴を倒すのが生身の人間でしかも偉大なる魔女の魔法や賢者のくれた剣じゃなくて、工業ラインに依って生産された量産品の銃ですよ?

 最高に痺れますよ。憧れます」

「ッカァー!聞いたかテメェ等!そうだよそう!そういうこったよ!俺の言いてぇことは!」


 軍曹は大いに頷くと僕の肩をバシンバシン叩く。


「ウィルヘルム・ガーランド二等軍曹だ」


 軍曹はそう言うと僕の方に手を差し出した。


「パトリック・マガトです」

「よろしくなパック。

 お前がその気なら軍に入る手助けしてやるぜ」

「駄目よ!」


 そう言うのはマルティナだ。


「なんだ?将来は裁縫か?」


 マルティナの家が其処の縫物屋なのは知っているのだろう。


「まだ決まってません。

 どっちにしろ、誰も良しとは言わないと思いますけど」


 特にきな臭くなってる最近は。

 直ちに開戦となるのだろうか?でも動員令とか掛かってないし。


「パックは軍隊に入るつもりなの?」

「どうかな?

 でもとても興味深いよ。あの巨人を自分の手で倒せるんだ。見てご覧よあのスカした態度の操縦手達を。

 同じ女のくせにあの巨人をちょろっと動かせるだけであんなに威張れるんだよ?

 なら、あの巨人を倒すのが量産品の銃に男だったらどんなに愉快なことになるか」


 言うとマルティナは信じられないという顔で首を振り、それから軍曹を見る。


「パックは軍隊に行きませんから。

 それと、今晩はうちに泊まって。パパがあの服を軍隊の人に見せたら興味持って話を聞きたいって」

「分かったよ」


 ギリースーツの歴史はどうだったかな?記憶にない。

 ま、話が聞きたいと言うなら話そう。今日は楽しい日になるだろう。

 この世界、西暦で言えば1900年代初頭だろう。活版はもちろん自動車もあればラジオも出始めているらしい。

 電信通信もあるらしく、工兵隊が態々線を引っ張っている。まぁ、工兵ではなく工作支援兵と言うらしいが。

 この世界、本当に自衛隊の様に軍隊の言葉を使わない。所謂歩兵に機動甲冑、魔女以外は全て支援連隊に配属される。

 砲兵は火力支援連隊、工兵は工作支援連隊、迫撃砲や対機動甲冑銃、対空砲は特別火力支援連隊だ。

 火支連隊に対空砲が入らないのは火支連隊よりも前で戦うかららしい。まぁ、前線に近い位置でワイバーンやら気球やらを撃ち落とすそうなので火支連隊よりは前に出るな。

 因みにこの世界にはまだ航空機は居ない。概念は有るらしいが、ワイバーンと魔女が邪魔で実用にはまだ程遠いらしい。

 今はグライダーが関の山らしく、試しに紙を折って紙飛行機を作って飛ばしたら大層驚かれ、セリナのお父さんがペーパーダートだなと感心していた。

 試しに折ってもらうと紙飛行機ににたそれは確かに投げ槍のようだった。グライダーとかは有るらしい。

 しかし、それは空を飛ぶ魔女や高位の魔術師が安定して空を飛ぶ為に使う物で、別の推進力を利用して空を飛ぶという発想には思い至っていないらしい。

 エンジンが普及してるし、気球もあるのに。

 ま、正直航空機にはあまり興味はないから良いか。


 そんな訳で一日中機動甲冑や対機動甲冑銃を見たり、兵士と話していたら終わっていた。

 タダ飯万歳。一旦家に戻って干し肉を手土産にしよう。自家製ベーコン。地下の倉庫に入れてある。


「うわ!」


 地下倉庫に行くと何かがモゾモゾしていてビックリした。そう言えば怪しいエルフを捕まえたんだった。

 僕の存在に気が付いたエルフは一際大きくモゾモゾし始める。何か臭い。見ればおしっこを漏らしたような跡がある。


「師団長に報告するの忘れてたよ」


 どーすっかな?


「君、どーするのかな?

 エルフ族がこんな場所に居るのもおかしな話だよねぇ?君等エルフ族の国はフランソワ王国と中々に親密な関係にあるよね?」


 ふむ。


「師団長の暗殺かな?

 何か、変な薬物持ってたし。師団長、一番下の皇位継承者だけど皇族だし。帝国の法律だと皇族への暗殺は死刑だよ。知ってた?」


 モガモガ。


「モガモガしか言えないからね〜

 取ってあげよう」


 轡を取ってあげると一気に何か見知らぬ言語で叫びだしたので、引っ叩いておく。


「静かにおしよ」


 今度は黙りだ。


「明日の夜にお話しよう。

 はい、ご飯」


 ご飯はベーコン。さて、お土産を持ってマルティナの家に。

 家に向えば兵隊達は揃っていた。将校と下士官しかいない。


「遅れました。

 これ、お土産」

「ありがとう。

 主役は君だ。さぁ、座って」


 当たり前のようにマルティナの隣に座らされ、料理が出てくるのでまずはそれを。


「マガト君。

 君のあの服はなんだい?」


 料理が進み上辺だけの世間話をある程度したあとの本題。皆、ワインやらビールやらを飲んでいるの状態だ。


「ギリースーツですか?」

「そういうのかね?」


 将校が下士官に確認取り、下士官は頷いた。


「あれは見ての通り偽装の為の服ですよ。

 あれを着て、顔にドーランを塗り、身を潜めるんです」

「それで獲物が取れるのか」

「ええ、此れでなら楽に獲れます。

 戦争に使うのも余裕ですよ。人間は野生動物より馬鹿なんで余計ですね」


 明日試してみますか?と尋ねると全員が頷いた。

 楽しいだろな。

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