昼を嫌う彼女と逆さ文字の交換日記

成瀬なる

プロローグ

 唐突だが、僕は、話すのが苦手だ。

 難しいことを説明するのが不得意、というわけではない。なんなら、理論的な話をするのは、得意な方だ。事実のみを語ればいい。

 僕が苦手なのは『なんてことのない日常』を話すことだ。

「今日は、いい天気ですね」

 だから、何だというのだ。

 先の見えない――いや、先を考えていない話の切り口なんて、無意味だ。

 僕が、捻くれていることなんて、僕自身が知っている。

 知っているからこそ、コンプレックスでもある。

 はっきりいって、友人は少ない。僕にとって、友達ができるのは「必然」ではないのだ。あくまで「偶然」なんだ。

 ここでいう必然と偶然の違いは、結局「口下手である」ことに関係してくる。

 小学生――6年間、今日こそ「おはよう」と隣の席のAくんに言うぞ、と思っただけで終了。

 中学生――部活に入れば友人ができるだろう、と思い「生物部」の部室の前に来たが「すみません、部活見学に来ました」が言えずに終了。でも、生物部が飼っていた魚の名前は、全部覚えた。

 高校――諦めた。友人はいない。いるのは、卒業後に連絡先が消えた「元知人」が数人。

 つまり、僕にとって「席が隣になれば友達になれる」は、――訂正、、と同じくらい現実の身のないセリフなのだ。

 ただ、友人がいないわけではない。僕にとって、必然ではないだけで、偶然できた友人が2人……いや、1人と1匹いる。

 友人ができることが「偶然」であるのなら、恋人ができるなんて「奇跡」と言ってもいい。

  これから話す事は、全部事実であり、嘘偽りないを知る前の物語だ。

 

 僕は、新品のノートの1ページ目にそう、日記を書いた。

 

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