あたま

あたまゆるふわ系オムライス脳漿

1 De



今日も早起きしてお弁当を作ってあげた。娘が喜ぶように、女の子に人気のキャラクターの顔を模したカット海苔をトッピングして、華やかに見えるようにパプリカも入れてあげる。プチトマトで栄養も彩りもばっちり、ピラフの隣に並ぶタコさんウインナーも誇らしげだ。可愛いクロスでお弁当箱を包んで、リボンを結んだら完成。いつも通り、鞄に入れて持たせてあげた。

お弁当を作る際に余った微妙な大きさの卵焼きを菜箸で口に入れ、残った材料を冷蔵庫にしまって油の残ったフライパンをシンクに置いた。自分の朝食は、いつもこんなものだ。


娘が出来てからも仕事は辞めていないから、毎日があわただしく息つく暇も無いほど忙しい。だけど結花は聞き分けもよくて、とても優しい良い子なので助かっている。大人しく引っ込み思案過ぎるのが少し気になるけれど、かといって激しく人見知りをするような様子もないし、今から無理に直そうと思うようなものでもないだろう。娘の結花は幼稚園に行くのをいつもとても楽しみにしている。友達と遊んで、お気に入りの人形でおままごとをして、歌を歌うのが好きなのだ。


夜は家で、今日一日何をしたか聞いたり、布団で本を読んだりしてあげる。結花は賢くて、もう平仮名は自分でぜんぶ読めるから、絵本だってたくさん持っているのだ。散らかしたおもちゃを一緒に片付けながら、昼間はどんなことをして遊んだか聞く。今日は友達と隠れんぼをして、結花はすぐ見つかってしまって悔しかったらしい。不満そうな結花のためにお気に入りの絵本をまた読んであげて、結花が眠そうにしたところでそっと自分は布団から出る。目を閉じた結花の顔があまりに可愛いので、そっとキスをした。いつもある程度片付いた状態にしているこの部屋の、ふかふかのカーペットの上、おもちゃ箱から落ちてしまった人形と、しまい忘れたクレヨンをもとの場所に戻し、電気を落とした。






「結花?結花、結花?」

廊下を進みながら、やけに伸びる声で呼び掛けても反応がない。今は何時だったか、どこからも明かりがしみださず、目をこらしてようやく壁がわかるほど真っ暗な中を、結花の部屋に向かって進む。

「ゆか、ゆか、」

いくら名前を呼んでも、返事がかえって来ない。身じろぎの音1つしない。

嫌な予感がして急いで部屋へ入ると、さっきまで元気そうだったのに、結花の身体はぐったりと床に転がっている。キャップをどこかに飛ばしてしまったのだろうか、足元にペットボトルが転がって、まるで結花は水たまりに横たわっているようだ。

「結花、結花、結花、結花、」

何度もその愛おしい名前を呼んで、強く抱いた。返事も反応もない。どうして、どうして、まさか誤嚥か窒息か何かだろうか、発作、怪我、口を開いても何も見えない、息は、息は、結花、結花、





「りーちゃん?」

いつも通りテレビを見させているうちに急いで洗い物を片付け、一緒にお風呂に入る。新しく出来たお友達の名前を、結花はそう言った。目がいたいからと嫌がる普通のシャンプーをつい取りかけて、キャラクターのプリントされたしみないシャンプーを掌に出し、髪を洗ってあげる。結花は頷いて、きのうもいっしょにねた、と言った。おめめギュッとして、と声をかけてお湯で泡を流しながら、一緒に寝る友達なんか居るのかと一瞬思ったが、すぐに最近結花がいたく大事にしている人形のことだとわかった。

いかにも大切そうに結花の枕で布団をかけて寝かされている人形を指差し、これ?と聞くと、結花は頷いて、りーちゃん、と言いその人形をぎゅっと抱きしめた。

ふわふわのフリルのドレスに頭飾りがついた、塩ビの人形。確かこの間高めのおもちゃの詰め合わせを買った時に入っていたのだったか。結花が気に入ったのなら良かった、と思いつつ、もう寝るからお人形さんしまおうね、と結花の腕から人形を取り上げ、山になっているおもちゃ箱の上へ置いた。

結花はやだ、いっしょがいいと思いのほか強い力でぐずったが、寝て貰わなければ困ってしまう。なだめすかしてちゅっとキスをし、今日も明かりを落とした。


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