第44話

「えっと、無理やりソーマさんから領内の仕事を取って来ちゃいましたけど、何をしたらいいのでしょうか?」



 クルシュはいつもソーマがしていたみたいに領内を見て回っていた。

 ただ、そこから先が全く思いつかない。


 ――確かソーマさんはいつも領民の方々とお話をされていましたよね。

 それでえっと……。


 水晶をのぞき込んで、色々なものを作ったり、的確な指示を出したりしていた。


 そんなことが自分にできるのだろうか?

 そんな不安に襲われれるが、自分がやらないとソーマさんがゆっくり休めない。

 気合いを入れて領民たちと会話をしていく。



「あっ、バルグさん、おはようございます」

「……す」



 軽く頭を下げるとそそくさとバルグは去って行った。


 ――うん、へこたれない。これもいつもソーマさんが体験していることなんだから。


 まともな返事が来なかったことに少し落ち込みながらも気合いを入れ直し、別の人に挨拶して回ることにする。






 ――これで全員挨拶して回れたでしょうか?


 領内を一通り回りきったクルシュ。

 ただ、この領地にいる人たちはみんな優しい人たちばかりでクルシュの手には大量の野菜が持たされていた。

 なんでも、明日にはできているみたいなので、余って仕方ないらしいです。


 でも、私もソーマさんの畑から十分すぎるほどの野菜が取れる……というのは黙っておくことにしました。

 今夜は温かい野菜スープでも作りましょうか?

 うまく味付けができる自信はありませんけど……。


 そんなことを思いながら倉庫に野菜をしまっておく。


 ――そういえば素材集めもしないとダメだね。

 単なる木の枝が木材になるんだし、ソーマさんの能力はすごいですよね。


 いつものように森の中に入って、木の枝を集めていく。


 あまり遠くまで行くと魔物に襲われるかもしれない。

 そんなことを思っていると、がさごそと草むらが揺れているのを見かける。


 ――ま、魔物!?


 ギュッと水晶の杖を握りしめる。


 そして、恐る恐る草むらの方に近づいてみる。

 しかし、そこには特に何もいなかった……。


「はぁ……、風でしたか……」


 少しホッと息を漏らす。

 すると、その瞬間に後ろから口元を防がれる。


 ――えっ、な、なに……?


 驚いて後ろを見ようとするが、そのままクルシュは気を失っていた。

 そして、辺りには今まで拾った木の枝や手に持っていた水晶の杖がばらまかれるのだった。







「こんな小娘が領主だったとはな」



 眠らせたクルシュを腕に抱き留めている男は呆れ顔を浮かべていた。



「領主だったらこんな所に一人でいたらダメだろ。俺みたいなやつに殺されても何も言えないだろう」



 そっと首元にナイフを近づける。

 しかし、すぐにそれをしまい込んでいた。



「依頼人たっての願いだ。今は殺さないでおいてやる」



 とりあえず領主さえ連れていれば問題ないはずだ。

 男はそのままクルシュを運んでいく。







 しばらく眠っていたおかげでずいぶんと体調が良くなった気がする。

 これもクルシュのおかげだな。


 ゆっくり体を起こすと体の調子を確かめる。



「よし、これならもう大丈夫だな」



 ベッドから久々に離れる。

 立ち上がってもふらついたり、よろけたり、といったことは起こらなかった。



「さて、それじゃあクルシュに杖を返してもらって、また領地の開拓度上げにいそしむか」



 そんなことを思っていると慌てた様子のラーレが部屋に入ってくる。



「た、大変よ! ソーマ」

「……何かあったのか?」



 その尋常じゃないようすからトラブルがあったのだろうと察する。

 そして、それが間違いじゃないことがわかった。



「クルシュがどこにも居ないのよ。いつもならもうとっくに戻ってきて、料理を作ってくれている時間でしょ?」



 窓から外を見ると日が沈み始めている。

 さすがに、真っ暗になったら探しようがない。



「わかった。すぐに探す……いや、ちょっとまて。盗賊たちとバルグを呼んでくれ。俺はアルバンとエーファに声を掛ける」

「わ、わかったわ」



 さすがにここ最近ずっと素材採取していたクルシュが道に迷ったとは考えにくい。

 それと、クルシュにはあまり危険な場所まで移動させていない。

 ほとんど領内で、かろうじて外に出るかどうかの所で採取させていた。


 つまり、魔物に襲われた可能性もないとは言えないが、ゼロに近いだろう。

 そうなると考えられるのは誘拐の類いだ。


 そうなってくると必要になるのは戦力だ。

 それにクルシュがどこに居るか探すために人手も必要になる。


 そうなってくると一番頼りになるのが盗賊たちかもしれない。


 そんなことを考えながら、俺もエーファたちを探しに慌てて部屋を出て行った。

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