第26話

 歓迎会のあとは、しばらく開拓度を上げることを優先することにした。


 特に一番上げやすい工業を重点的に上げていく。


 まぁ、上げやすい分、見返り的なものは今のところないのだが――。


 でも、その甲斐もあって領地レベルは三になっていた。



【領地称号】 弱小領地

【領地レベル】 2→3(0/16)[庭レベル]

『戦力』 2→4(0/25)

『農業』 2→3(6/20)

『商業』 2→3(6/20)

『工業』 3→6(6/35)



 領地レベルを上げる討伐クエストもアルバンとラーレがいれば全く問題なく、むしろ俺やクルシュはただ眺めているだけで終わってしまった。


 基本、領地を魔物が襲ってくるだけなので、討伐して終わり……という形になるようだ。

 そして、襲ってくる魔物はボス的な魔物が一体と雑魚が多数。


 今のところボス魔物の強さはCランク級なのだが、これも一定以上領地レベルが上がると強くなっていくのだろう。



 そして、領地強化の選択画面だが――。



「今度こそ領地を広げるべきよ! せめて村レベルになりましょう」

「いえ、神の声に従いましょう。『???(ランダムで何かが起きる)』を選ぶべきです!」



 ラーレとアルバンが真っ向から対立していた。



「クルシュはどう思う?」

「えっと、新しい施設を作ってみませんか? もしかしたらそれで凄いものが作れるようになるのかも――」



 見事に全員が別意見だな。


 ただ、今回は『???(ランダムで何かが起きる)』以外のものを選んでおきたい。


 他のやつがどういった効果があって、どのようなものが出てくるのか調べておきたい。



 そう考えると効果がまだわかる領地を広げる方より、どんな施設が出てくるかわからない新しい施設を作るべきか。


 もし、使えない施設が出たとしても序盤ならまだ被害は少ない。



「クルシュ様が施設と仰るのならそれにすべきです!」

「そうね、アルバンがその施設を管理してくれるならいいわよ」



 クルシュが意見を言うと皆が同意してくれ、今回は新しい施設を作ることが決まった。



 何が出てくるのか……。



 『新しい施設を作る』を選択するといつも通り、素材が出てくるのかと覚悟したのだが突然何もない場所に一軒の建物が現れる。


 建物自体は木造の家なのだが、煙突がつき、何かを作る施設なのだろうと予測はできる。



「これは鍛冶場ですね」



 アルバンが教えてくれる。



 鍛冶……か。

 でも、俺の場合は素材から作れるから特に必要な施設じゃないよな……。



 そんなことを思っていると水晶に新しい文字が表示される。



『鍛冶場ができました。鍛冶スキルが強化されました』



 ……えっ?

 まさか領内に施設ができると俺のスキルが強化されるのか?

 鍛冶スキルが強化されたってことは新しい武器とかが作れるようになったのか?



 水晶を眺めると『建築』スキルのときと同じように作れる武器が出てくるようになった。



『現在作れる武器になります。なにを作りますか?』


→木の棒

 石の槍

 鉄の短剣

 白銀の剣

 水晶の杖



 いくつかは見たこともない武器が表示されていた。

 鉄の短剣はラーレが使っていたものか? 白銀の剣はアルバンの剣のことかもしれない。



 ただ、水晶の杖……。

 って、もしかして――。



 俺は速攻水晶の杖を選択する。



【名前】 水晶の杖

【必要材料】 水晶(1/1)+D級木材(215/100)

【詳細】 水晶を持ち運びしやすくするために杖の形にしたもの。


『水晶の杖を作りますか?』

→はい

 いいえ



 素材は木材だけか……。

 それならばちょうど良いかもしれないな。


 ただ、これって作るのに失敗したら水晶がなくなったりしない……よな?

 そもそも鍛冶の場合は自分で何かする……ということはなかった。


 素材さえ揃えば勝手に武器が生み出されていた。

 おそらく今回もそれと同じはず……。


 俺は少し悩んだ末に『はい』のボタンを押していた。


 すると、目の前に窪みができた木の棒が現れる。

 そして、水晶はまだ俺の手元にあった。



 えっと、これを組み合わせろってことか……。



 水晶を窪みに填めてみるとちょうど収まってくれる。

 そして、水晶の画面に新しい表示ができていた。



【名前】 水晶の杖

【品質】 D [武器]

【損傷度】 ―/―

【必要素材】 C級木材(0/100)

【能力】 魔力+1 『威圧』1(0/1000)



 この威圧ってもしかして、スキルか?


 どうやら武器の中には装備すると新しいスキルを得ることができるものがあるようだ。



「あっ、ソーマさん、ついに杖を作ったのですか?」



 今更俺が鍛冶で何かを生み出しても驚かなくなったクルシュ。

 まぁ、毎日目の前でポンポンと作っているわけだからそうなるよな。



「どうだ、似合うか?」

「はいっ、とってもお似合いだと思いますよ」



 笑みを浮かべて答えてくれるクルシュに俺も思わず頬が緩む。



「そうだな、クルシュも何か作って武器とかあるか?」

「えっと、そうですね……。武器ではないのですけど、その、包丁とかがそろそろほしいかな……と――」



 そういえば調理をするときもラーレの短剣を使うことが多かった。

 すっかり抜け落ちていたが、必要な物だよな。


 でも、さっきの表示には出てなかったからまだ作れないのだろうか。



『現在作れる生活用品になります。なにを作りますか?』

→箸

 皿

 スプーン

 フォーク

 ナイフ

 包丁

 鍋



 マジか……。

 どうやら新しく強化された鍛冶スキルだと武器以外のものも作れるようだ。


 ちょっと待て……。

 これって、他にも色んなものが作れるんじゃないか?

 この世界にないような武器とかも……。

 例えば銃とかは――?



『工業開拓度が足りません』



 どうやら銃はまだ作れないようだった。

 でも、工業の開拓度を上げるといつかは作れるようになるらしい。


 なるほど、工業開拓度は鍛冶スキルが強化されてから作用するものだったようだ。


 ――もしかして、他の開拓度も同様に新しい施設ができたときに作用するものがあるかも知れない。

 これはやはり色々と調べていかないといけなさそうだ。



 とりあえずクルシュの要望通りに包丁を作ったのだが、出来上がったのはランクEのボロボロの包丁だった



【名前】 ボロボロの包丁

【品質】 E [生活用品]

【損傷度】 0/100

【必要素材】 E級魔石(71/5)



「えっと……、さすがにこれは使い物にはならないか……」

「そ、そうですね……」

「それなら……」



 更に俺は包丁の品質を上げてみる。

 すると、少し切れ味は悪いものの、ちゃんとした包丁が出来上がった。



【名前】 包丁

【品質】 D [生活用品]

【損傷度】 0/100

【必要素材】 D級魔石(0/5)



「これでどうだ?」

「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」



 クルシュは大事に包丁を抱え、嬉しそうに微笑む。



「いや、俺の方こそすっかり抜け落ちていた。何か他にいるものがあったら言ってくれ」

「わかりました。本当にありがとうございます」



 何度も頭を下げてお礼を言ってくるクルシュ。

 すると、そんなタイミングでラーレが大声を上げてくる。



「ソーマ、大変よ! 殺気を出した人の集団がこの領地に向かっているわ!!」

「な、何だと!?」



 一体どこの誰が攻めてきたんだ?

 いや、まだ攻められるとはわからないか。



「大丈夫です。私がソーマ様とクルシュ様は守ります故……」

「あぁ、頼んだ――。それでラーレ、この領地に来るまではどのくらいかかりそうだ?」

「えっと、まだ一時間ほどはかかりそう……」



 ラーレが気配察知を持っていてよかったが、それでもほとんど何もできない。


 やれることは薬の錬金失敗による爆発くらいか?


 いや、あれは威力が強すぎる。

 さすがに人相手に使うと大量に殺しかねない。


 侵略するために来ている相手ならいざ知らず、まだここに来た理由がわからない以上、いきなり大量虐殺はよくない。


 いや、それなら――。


 俺は水晶に新たな表示をさせる。



『現在作れる罠になります。なにを作りますか?』


→落とし穴

 網罠

 くくり罠



 よし、狙い通りいくつか罠が表示された。

 鍛治とはだいぶかけ離れているような気がするが――。


 ただ、今はそんなことを気にしている余裕はない。あとは素材があれば良いのだけど――。

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