第13話

 魔石を集め続け、ようやく畑の開拓度が上がるタイミングになった。


 それと同時に回復薬を作り続けた結果、『工業』もあと一本作れば上がる段階まで来ていた。


 どちらを上げても領地レベルが上がってくれる。


 思ったより工業が早く上がったのはD級素材で鍛治すると数字が二上がったからにほかならない。

 やはり、難易度が高い分、数字の上がり方もより大きいのだろう。



「ソーマさぁーん、朝食の準備ができましたよー!」

「あぁ、今行くよ」



 クルシュのミスも本人が緊張していたせいだった。

 今では立派に朝食を準備してくれるところにまで成長していた。



「あははっ……、ちょ、ちょっと焦げちゃいましたけど、大丈夫ですか……?」

「あぁ、焦げた部分は避けて食べるよ……」



 まだまだ完璧とまではいかないが、そこはどんどん順応してもらおう。

 それに調理といっても焼くくらいしかできないわけだし……。



「塩とか欲しいですよね……」

「そうだな。次に商人ビーンが来たときに頼んでみるか」

「でも、お金は……」

「回復薬を売れば多少はできるはずだからな。他に欲しいものがあるか?」

「……そうですね。そろそろ新しい人が来て欲しいですよね。やっぱり人数が少ないのは寂しいですから」

「そうだな……」



 確かにこの人数だと未だに隠れ家の域を出ない。

 せめて村……くらいに思われるだけの人数は欲しいところだけど、いきなり集めることもできないよな。


 それにクルシュを戦いに連れて行くわけにもいかないので、周囲の散策はスライムの森以上の場所には行けてない。


 品質を上げるのにD級魔石を要求されることが多いが、とてもじゃないがスライム以上の魔物を倒せる気がしない。


 戦闘面も強化したいところだ。


 そんなことを思っていたタイミングで商人ビーンがやってくる。






「お久しぶりです。今日も武器の鑑定をお願いしたくて来させていただきました」



 朝食の後、家の外に出るとビーンが来たことに気づく。

 そして、ビーンは恭しく頭を下げていた。



「ちょうどよかった。俺からも頼みたいことがあるんだ」

「ほう……、なんでございましょうか?」

「ここには料理に使う調味料がない。それを購入させていただきたい」

「それならお持ちさせていただいております。おそらく必要になるかなと思いまして……」



 俺の領地の状況を調べて、調味料を持ってきてくれたようだ。



「それは助かる。あと、この回復薬を売りたいのだが、いくらになる?」



 俺は鍛冶で作った回復薬をビーンに見せる。



「ほう、こちらはD級の回復薬ですか」

「……見ただけでわかるのか?」

「えぇ、商人は目が命ですから――」



 もしかすると、物を調べるような鑑定を持っているのだろうか?

 回復薬の品質まで当ててきたので、持っていると仮定した方が良いだろうな。


 そうなると俺の水晶についてもおおよその能力は把握しているわけか。


 まぁ、俺を騙す気なら最初の求人募集のときに盗賊でも紛れ込ませて水晶を盗めばよかったんだけどな。


 それをしなかったと言うことは、今のところは信用してもいい……ということだろう。

 それに領民になればその能力を調べることができる。



「D級の回復薬でしたら一本、銀貨一枚と交換させていただきますが、いかがでしょうか?」



 銀貨一枚!?

 いや、その価値がわからないから妥当かどうかもわからない。


 これは先に調味料の値段を聞くべきか。



「回復薬何本で調味料が買える?」

「そうでしたね。えっと、そうですね。調味料は全て合わせたら大銀貨一枚はくだらないほどの額になるのですが――」



 また新しい貨幣が出てくる。

 大……がつくくらいだから銀貨の上の貨幣なのだろうが、やはり値段がわからない。



「それじゃあ手持ちの回復薬じゃ足りなさそうだな」



 予備で三本は家の中に置いてある。

 商人に見せていた分と合わせて合計四本。


 最低でも一本は置いておかないといざというときに困るので、売ることが出来るのは最大三本だ。


 つまり銀貨三枚。

 さすがにそれで大銀貨に変えることはできないだろうな……。


 少し残念に思うが、商人は手をすりあわせて笑みを浮かべる。



「いえ、今日はちょっと頼みたい武器の量が多く、よろしければそちらの代金を当てさせてもらって、銀貨一枚で構いませんよ」



 商人がチラッと自身が乗ってきた馬車に目をやる。

 そこには隙間がないほどびっちりと乗せられた武器の山があった。



「あぁ、それは俺としてもありがたいが良いのか? 元々武器鑑定の礼に領民を募集してもらっていただろう?」

「えぇ、もちろんにございます。それと本日も領民になりたいと言ってる方をお連れしました。なんと、自称Cランク冒険者ですよ!」



 商人はニコニコと答えていた。

 ただ、俺は『自称』の部分が凄く気になってしまう。

 実際は違う職業……とかも十分あり得るのじゃないだろうか?


 でも、冒険者を名乗っている……ということは戦える職業ということだ。

 それならば十分戦力になってくれる。



「それは助かるな。それで一体どこにいるんだ?」

「えっと、ちょっと待っていてください。ラーレさん、到着しましたよ」



 商人が馬車に戻っていく。

 そして、一緒にやってきたのは獣人族の少女だった。


 猫っぽい耳や尻尾があり、髪の色は黒で腰くらいまでの長さがあった。

 背丈は俺より低いもののクルシュよりは高い。更に目は少しつり上がり、気が強そうに見える。腕を組んでじっと見ているから余計そう見えるのかも知れないが。


 体型はスレンダー……という言葉が合いそうだな。


 腰には短剣が二本と小さなポーチが携えられ、いかにも冒険者と思える容姿をしている。


 女性ばかり来るな……。

 できれば男手も欲しいのだけど……、すでに働いている人たちがこの辺境に興味を持つことがほとんどないから仕方ないのかも知れない。



「ラーレよ。適当によろしくしてあげるわ」

「ちょっ……、ラーレさん!? も、申し訳ありません、少々口は悪いところがありますが、実力は本物だと聞いておりますので――」



 ラーレの口調に慌てたビーンが言いつくろってくる。



「いや、俺は気にしないから良いぞ。俺はソーマ。あと、こっちはクルシュだ。今は領民が二人しかいないが、よろしく頼む」

「クルシュです。よろしくお願いします」



 クルシュが頭を下げるが、ラーレの反応は鈍かった。



「全く……、なんで私がこんな仕事を……」



 ラーレはそっぽ向いて恨み言を吐いていた。

 ただ、もう領民になってくれたので、早速水晶でラーレの能力を調べようとしてみる。

 しかし――。



「……あれっ?」



 水晶にラーレの能力が表示されることはなかった。

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