第4話 迷宮攻略と前世

 数時間後、ローは遂に宿敵のカマキリの魔物を見つけ出した。それと同時にカマキリの魔物もローに気付いたようだ。


「やっと見つけたよ。俺の腕は美味しかったかな? お前に会うためにたくさん魔物に出くわしてよお。大変だったよ(笑)みんな殺したけどさあ」


「ギイイイイイイイ?」


 憎しみと喜びを込めて語るその話は事実である。ローはこれまでに、蛇の魔物を魔法で焼き殺し、虫のような蝙蝠を魔法で撃ち落とし、大きな蜘蛛を踏みつぶし、トラ模様の狼を魔法の刃で切り刻み、角の生えたウサギを魔法の剣で真っ二つにしたり、ひたすら殺し続けてきた。


 カマキリの魔物を強敵と考えたローは、魔法を使いこなす必要と魔物との実戦が必要だと判断し、出会った魔物は必ず殺すと決めていた。殺す手段を変えながら戦ったこともあり、魔法も十分使いこなしてきた。


 ただ、ローの魔法の真の力はまだ発揮できているとは言えないのだが、それは後の話になる。


 そして、ローの最初の復讐が始まる。右手の指先が光りだす。カマキリの魔物は警戒したのか、鎌を構えて羽を広げ始める。


「お前を殺して俺は本当に復讐者となる! まずはあいさつ代わりだ! くらえー!!」


 投げつけるかのように腕を振るった瞬間、指から光の斬撃が飛び出した。それは真っすぐにカマキリの魔物に向かった。


「ギイッ!?」


 カマキリの魔物は驚いたようだが、すぐに広げた羽で防ぐ姿勢になった。すると、


ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!


 光の斬撃は全て防がれてしまった。広げた羽は蜥蜴や蛇のような硬い鱗で覆われているため、それを盾のように扱ったのだ。


「マジかよ、そいつは予想外だったな。まあ、そううまくはいかないだろうな」


 ローの経験から迷宮の魔物には、2種類の生物を足して2で割ったような姿をしているという共通の特徴がある。当然、カマキリの魔物にも別の生物の能力があるだろうと考えていた。そのため、すぐに対応できるようにカマキリの魔物の能力をいくつか考えていた。


「ふん、盾を持ってるってんなら、ぶち破るだけだ」


「ギイイ……」


 カマキリの魔物が羽の隙間から様子を見てみると、ローの両手から大きな光の輪が形成されていた。ブウンッ


 そして、その輪はものすごい速さで回転し始めた。


「ッ!! ギイ!!」


 何か嫌なものを感じ取ったカマキリの魔物は羽を後ろに戻して迫ってきた。攻撃される前に殺してしまおうとしたのだろう。だがもう遅い。ローはその輪をカマキリの魔物に向かって投げつけた。カマキリの魔物はすぐに反応して、再び羽で防ごうとした。


「さっきと同じようにいくかな?」


バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバ!!


「ッ!? ギッギイイイ!?」


 光の輪は弾かれることなく、回転し続けながら、カマキリの魔物の堅い羽を削り続けていた。


 そして、 ジャキンッ ドサッ 


「ッギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!?」


「くくく、切れたようだな」


「ギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!?」


 光の輪が堅い羽を削り貫いた。そして、そのままカマキリの魔物の右目と右の鎌を切断した。カマキリの魔物は生まれて初めて受けた痛みに苦しみながら暴れだした。カマキリの魔物の絶叫が響く。ローはこの隙に更なる攻撃を仕掛け始める。


ブウンッブウン


「ダブル!」


 ローは光の輪を二つ出して高速回転させながら、再びカマキリの魔物に投げつけた。カマキリの魔物は痛みで冷静になれないせいでそのことに気付いていない。そして、


ジャキンッジャキンッ ドサッドサッ


 カマキリの魔物の首と左の鎌が切断された。


「………………」


「……終わりか。意外とあっけなかったな。いや、それだけ俺が強くなったんだ! くふふふっふふふあはははははははははあっはははは!」


 ローとカマキリの魔物の戦いは、というよりもローのカマキリの魔物に対する復讐は成功した。それを実感したローは喜びに打ち震えた。生まれて初めてかもしれないほどの感情が頭を支配し、涙さえ流しながら絶え間なく笑い続けた。


「やったんだ! 俺はやったんだ! 俺の腕を奪ったやつを殺したんだ! ぶっ殺したんだ! 復讐は果たされたんだ! ははははははははっ! あっはははははは!」


(なんて感覚だ! こんなの初めてだ! これからも復讐を続けたら、こんな感覚をもっと味わえるんだろう! 楽しみでしょうがない!)


 元々優しい人格だったローが復讐心にかられるだけでも豹変したといってもいいが、これを機にさらに酷くなった。復讐を楽しむ人格が形成されたのだ。


「殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! あっははははははははははははははははは!!」


 これからしばらく後の出来事でさらに性格が変わる出来事が起こるのだが、それは先の話になる。


「はははははははは……」


 しばらくして、落ち着いてきたローは笑うのを止めた。どうやら笑い声に気付いた魔物が近づいてきたようだ。視認できる限りでも複数で囲んできているのが分かる。そんな状況を確認してローは喜んだ。ただ笑うだけでは喜び足りなかったのだ。


「丁度いいや。あまりに嬉しかったんでな、大暴れしたかったんだよ。こんな風にな!!」


「「「「「ギイァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」」」


 多くの魔物が寄ってきていたが、もはやローの敵ではなかった。蛇の魔物の時のように周りに力を放出しただけで全滅させることができた。このときのローは楽しんでいた、復讐以外でも殺すという行為を。


「はははははは! 楽しかったー! さてさて、この先にあるのはなんだ~」


 そして、ローは魔物の死骸を踏みつけながら迷宮の奥へ進みだした。




 ローは出くわした魔物たちを笑って殺しながら迷宮を進み続けていたが、その道に変化が生じた。今までと雰囲気が違う広間にたどり着いたのだ。


「何だここは? まるで……神殿みたいだ」


 両親が生きていたころに見た神殿のような場所が迷宮の中にあることに、ローは困惑した。もしかしたら何かの罠がある可能性を考えて、警戒しながら調べてみることにした。


「あれはなんだ?」


 奥の方は行き止まりだったが、奇妙な形をした台座があった。魔法陣が描かれているところを見ると何か仕掛けがあるようだ。ここから先に進めないようなのでローはわざと魔法陣の仕掛けを動かすために、台座の上に立ってみた。


「この仕掛けを動かせば先に進めるかもしれないけど、ただ立つだけじゃダメなのか? そうだ、俺の魔法を流したらどうなるんだ?」


 台座に立つだけじゃ何も起こらないと分かったので、魔法を流すことにしたところ、変化が起こった。魔法陣が光りだしたのだ。そして、部屋全体も光りだし、ローの立つ台座が形を変え始めた。


「な、何だ、何が起こっているんだ? 俺、何したんだ!?」


 動揺するローだったが、更に奇妙なことが起こった。


『迷宮の攻略者を確認しました』


「な、何!? 誰だ!? どこにいるんだ!?」


 突然、声が聞こえ始めたのだ。さっきまでロー以外は誰もいなかったはずなのにだ。


『迷宮攻略、おめでとうございます』


「どこにいやがる! 出てきやがれ!」


『これより迷宮の特典を授与します』


「何を言ってやがる! どこにいるんだ! くそ!」


 奇妙なことを言う声に、さすがにローも混乱してしまいそうになる。台座の上に大きな魔法陣が出来上がっていたのが気付かないほどに。


「くそ! ってなんだこれは!? いつの間に!?」


『どうぞお受け取りください。攻略者様に良き未来がありますように』


「はあ!? 受け取る? 攻略者様? 良き未来だと? 本当に何を言って……」


 その時だった。魔法陣からローに向けて強い光が放たれた。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!」


『あなたが受け取る特典は『前世の自分』です。攻略、ありがとうございました。迷宮の外に出る場合は、これから出現する魔法陣をお使いください』




数時間後。


「うう……」


 少年は目を覚ました。迷宮の奥で。どうやらさっきの光の衝撃で気を失ったらしい。見た目は何ともないようだが……。


「ここは……? なんだ? 俺はどうして? 研究所の崩落に巻き込まれて……あれ? なんだ、これは? ってなんだこの体は!? これが俺!? 背が縮んでる!?」


 変化があった。少年はもうロー・ライトではなかった。いや、というよりも……


「俺に一体何が!? 落ち着け! 俺はナイトウ・ログだ!……え? ロー・ライト?……これは別の誰かの記憶か!?」


 少年はもうロー・ライトだけではなかった。


「さっきまで何があったんだ!? 確か迷宮が前世のとか言ってたけど……! この記憶がそうか! ……ナイトウ・ログは死んだ俺だ……ナイトウ・ログが『前世の自分』か!!」


こうして彼は再び変わった。ロー・ライトとナイトウ・ログ、二人分の記憶を持つ者として。

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