風変わりな来訪者・後編

「……あっはははははは!」


 ──予想通り。


 アズロは声を上げて笑った。

 瞳には、涙まで浮かべている。


 それみたことか。

 ……喋るんじゃなかった。


 シェーナがうなだれかけた時、アズロは再び声を発する。


「そうか──じゃあ、君は同類なんだね」


 大きくも、小さくもない声。

 アズロの呟く声は、深く、柔らかかった。

 違う反応を想定していたシェーナは、小首を傾げる。


「へ?」


 目を丸くしているシェーナに向かって、アズロは言った。


「苦手なんだ、僕も。あの臭いには……反吐が出る。なのに僕のしていることといったら……」


 苦手で嫌いというところまでは聞き取れたが、その後の言葉は、声が小さすぎて聞き取ることができない。

 続きを促そうと、シェーナが再びアズロを見つめると、そこにあったのは真っ暗な闇だった。


 いつの間に場を去ったのだろう。

 拘束されていた左手も、今は自由に動く。


 辺りを見回すと、上のほうから声がした。


「ありがとう、会えて嬉しかった!」


 深い墨色の空から、太陽のように明るい声が響く。


「また、来るから! 待ってて!」

「じゃあね、さよなら!」


 何度も何度も、言葉がかけられる。

 別れを告げる声はしだいに小さくなり、すぐに夜の闇へと融けていった。


 シェーナは長いこと固められてじんじんと痛む左手を何度か振り、それから軽く頭を振ると、深い深い溜息をついた。


「……解せない奴」


 誰にも聞かれることのない囁きは、茂みの奥深くへと沈んでいった。

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