チート霊媒師なら、心霊スポットに出会いを期待してもいいよね「旧題:杉の木の下には杉沢村が埋まっている」

天津 虹

杉の木の下には杉沢村が埋まっている

第1話 ここは、山々が連なり谷に囲まれた山間の

杉の木の下には、杉沢村が埋まっている


 ここは、山々が連なり谷に囲まれた山間の若干開けた場所にある小さな盆地。盆地には沢が集まり、清流となって流れている川がある。その盆地のややはずれ、傾斜部と盆地の境目辺りに幹の周りは二〇メートル以上、高さ一〇〇メートルあまりの巨大な杉の木がそびえ立っている。

 この杉の木は、中ほどから折れていて、その幹は先の方から縦に真っ二つに裂け、幹の表面は煤にまみれ、焦げ跡が残っている。この杉の木が昔に火災があったことは容易に想像できるが、この大木が火災に遭う前は、どのくらいの樹高があり、どのくらい昔からここに立っていたのかは全く想像することができない佇まいを見せている。

 しかし、その巨木は未だに生命を維持して、その青々とした枝葉が風に揺れ、大量の花粉を飛ばしているのだ。


 その巨木を根元から怪訝そうに見上げる男がいた。男の外見は、およそ二十歳を超えたぐらい、伸び放題の髪を後ろで一つにくくり、古風な顔立ちはどこか品があるにもかかわらず、胡散臭い雰囲気が男からは漂っている。

 胡散臭さの原因は、彼の着ている物にあった。およそこの時代にはそぐわない年季の入ったボロボロの旧日本軍軍服を着崩し、過去からやって来たとしか思えない出で立ちだった。


 その男が、大木を仰ぎながら呟いた横顔は、男の心情を反映するように影を落としてしる。

「今年の杉花粉は、禍々しいほどに瘴気をまとっているな。これは……、一〇〇年ほど前に遭った惨劇を繰り替えさなければよいのだが……。それにしても、いずれにしても恨みはまだまだ晴れることはないということか。

以前と同じく北斗七星の輔星(ほせい)も、はっきりわかるほど明るく見える星回りの年のようだし……」

 そういうと、男はやれやれというように、首を振って長く見上げるもの首が疲れるというように首を大きく回すと、杉の根元にある掘立小屋の中に入っていった。


 そこで俺は夢から覚める。一体あの場所はどこなんだろう? それにあの男に、俺はどこかで遇っているのか?

 内容はほとんど覚えてないけど、この一か月ほどの間に何度もよく見た夢だ。そう、杉花粉が猛威を振るいだした三月ごろからだ。


 ******************


「錬(れん)、ハンカチは持った? 財布は? 昼は学食で食べるんでしょ」

「ああっ、夜も遅くなると思う。晩飯はいらないから」


 俺は、ここからバイクで30分ほどの距離にある地元の地方国立大学に、通うために家を出た。

 真新しいジャケットは、一応ブランド。大学は個性のない学生服と違うわけだし、おしゃれに気を使っている。もちろん大学デビューを意識しているわけだ。しかも、乗っているのは、お気に入りのオフロードタイプのバイク。スマートなスポーツタイプにはない無骨さが気に入って乗っている。しかし、このタイプのバイク、女の子からは受けが悪く、あこがれのタンデムは実現しそうにないことに、俺はこの時点ではまだ気づいていない。


 今日は大学の入学式。俺の通っていた高校は、この地域では、そこそこの進学校で、文武両道で通っている高校だった。俺も野球部に入って、日が暮れるまで白球を追いかけ、くたくたになって家に帰ると膨大な宿題に追われ、およそ青春というものとは無縁な生活を過ごしてきた。

 そこで一発奮起して、俺はこの日のために、坊主だった髪を伸ばし、現在は長めのスポーツ刈りにして、ファッションを研究し(ただし、俺の性格ゆえに、今どきのファッションを受け入れることができず、やくざのような恰好になっていたらしい?)、この大学デビューに備えてきたのだ。

 俺は今までのストイックな自分を捨て、積極的に女の子に声をかけるチャラ男になる一大決心をしたのだ。

 ただ、俺が高校時代、モテなかったのは、汗臭い坊主頭だったことや、首から上が真っ黒な土方やけだったからではなく、進学校にはふさわしくない細い眉毛と目つきの悪さだったことは誰も教えてくれなかった。

 こんな男にいきなり声をかけられたら、そりゃ女の子はビビるよな。


 俺は、退屈な入学式を終え、体育館から学食に向かう途中、通路の両側から派手な女の子が、まるで飲み屋の呼び込みのように新入生の腕をつかんで、サークルに勧誘する場面が展開されていた。

俺もあんな風に声を掛けられないかとドキドキしながら、人混みでごった返す中進んでいくのだが、誰一人声をかけてくる者がいない。

 俺の行く手を阻む縁日のような喧噪と人混みにだんだんイライラしてきていた。このバカ騒ぎの現場にいるのに全く部外者のような取り扱い、俺は不機嫌さがマックスで、好戦度ゲージが限界点を超えた時、俺の正面のチャラい恰好をした男とぶつかった。


「てめえ、どこ見て歩いとるんじゃ、ボケ!!」

 おっと、勢いで上級生に向かってとんでもないことを口走ったと反省したが、俺の大嫌いなタレントと同じような恰好をしているこいつをみれば、もう止まることなんてできない。

「なにぬかし……」

 言葉途中の上級生の胸倉を掴み、俺は高校時代の上級性たちの理不尽なシゴキの恨みをこの男にぶつける。

「コ・ロ・す・ぞ! 」

 ドスの聞いた低い声で男に向かって言い放つ。その時、「きゃ」と言う小さな叫びを左に聞き、その声の方を向くと、整った顔立ちに大きな瞳が印象的な女の子がいた。そして、その女の子の手は、今俺が胸倉を掴んでいる男に手を引かれていた。

(なに? なんで? 俺ってカップルの男の方を脅しているの? なんで、こんなナンパ野郎に、清楚を絵に描いたような彼女が居るの? 自分がモテない憂さ晴らしにリア充に八つ当たり?)

 俺の頭の中は混乱をしていた。これはめっちゃ恥ずかしい。どうする? 不信感を持たれないようにこの場は、何もなかったように立ち去るしかない。

 俺は、胸倉を掴んだ手を振って、道を開けるように男を右に突き飛ばして何事もなかったように、急ぎ足で学食に入っていくしかなかった。


 男が恨みを持った憎しみの視線を俺に向けているのさえ気が付かずに……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 一話切りをしようとしたあなた!

 ちょっとお待ちください。習熟効果で段々文章が上手くなって面白くなってきているという感想もあります。

 第1書 杉沢村編がイマイチの場合、第2章 犬鳴村編や、第3章 キサラギ駅編、から読んでみてください。

 どの章から読んでも話が分かるように読み切りになっています。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る