第8話‐雪女‐

 一同の怖がるようなリアクションに、修也は満足そうに笑みを浮かべた。

 どうも修也は、ただ話を聞いているよりも自分が話す方が楽しいらしい。


「じゃあ次は樹だな」

 企画主であり司会進行役の啓介が、次の話を始めるよう促す。

 好奇心旺盛ながらも落ち着いている啓介は、四人のまとめ役になることが多く、啓介→涼→修也→樹というローテーションも、啓介が話を進める中で自然と形成された。


「ああ、僕か。ええと、じゃあ……」

 穏やかで大人しい樹は、話し好きの修也とは逆で、聞き役に回ることが多い。

 そのせいか、自分の番となってもすぐには言葉が出てこないようだった。


「そうだ、雪女の話なんてどうかな……?」



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 父さんから聞いた話なんだけど。

 大学生の頃にサークルの友達六人でスキーに行ったらしい。

 男子が三人、女子が三人って言う面子で、そのころよく遊んでた六人なんだって。


 昼頃から滑って、途中休憩も挟みながら夕方までずっと滑ってた。

 で、そろそろバスの時間もあるからってことで最後の人滑りをして帰ろうってことになったんだ。


 二人乗りのリフトだったから二人ずつ乗ってゲレンデの上まで登っていく。

 まず最初に父さん以外の男子二人が乗って、その後に女子二人。残りは父さんともう一人の女子のはずだったんだけど、父さんがリフトの列に並んでる時にトイレに行っちゃってさ。

 戻ってきたころには順番が来ちゃったんで、友達はもうみんなリフトに乗っちゃってたんだ。


 遅れたら上で待っててくれるって話になってたからそのままリフトに乗って登って行ったんだ。


 上では父さん以外の五人が待ってたはずなんだけど、上に来てみたら六人、父さんのことを待ってたらしいんだよね。

 あれ?と思って数えてみてもやっぱり六人。

 何回か数えてみて気付いたんだけど、どうやら女子が四人いたらしい。


 皆スキーをしに来てるからゴーグルと防寒具で顔はかなり隠れてる。

 それでもウェアの色とかで判別できてたみたいなんだけど、いくら考えてみても、誰が増えてるのか分からないんだ。


 一緒に来ていたメンバーが誰かは分かる。

 誰がどのウェアを着ていたかも一日中一緒にいたからわかる。

 でも、じゃあ誰が仲間外れだったのかを思い出そうとすると、それ以上は嗜好にブロックがかかったようになって全く思い出せない。


 そんな風に悩んでたら、仲間にせかされて、とうとう父さんも気にせずに滑ることにしたらしい。

 他のみんなも気にして無いみたいだし、きっと勘違いか何かだろう。

 滑って下りてみたら間違いに気づいてスッキリするはずだって。


 皆の実力を考えて一緒に降りるのは中級者コースに決まった。初心者コースほど真っ直ぐじゃないけど、そこまで複雑でもない。で、途中から上級者コースに枝分かれするような構造になってた。


 皆で滑っていると、女子の中の一人、白いウェアの子が一人で上級者コースの方に滑って行ったんだ。でも誰もそれに気が付いてないから、このままじゃはぐれちゃうと思って父さんもそっちについていくことにしたんだって。


 上級者コースはグネグネ曲がってて、所々に軽くジャンプできるように雪が盛ってある。コースの中腹まで行ったとき、その女子がジャンプ台に乗って思いっきりジャンプした。

 そして、そのまま消えてしまったって。


 父さんは中級車コースを滑るだけでいっぱいいっぱいだったから、そのあと一人で降りるのには苦労したらしい。

 ボロボロになって下りたら先に仲間が待ってて、どうしたんだって心配されて。

 父さんの方でもあの白いウェアの子が誰だったのか全く思い出せなくて混乱してるし、仲間に確認してみてもやっぱり六人しかいなかったって言われるし。


 あんまり様子がおかしかったから頭がおかしくなったんじゃないかって心配されたんだって。


 この話をしてくれた時、自分でもどうかしてるんじゃない飼って苦笑してたよ。でもこうも言ってたんだ。

 山に住んでた雪女が、楽しそうに遊んでる自分たちに交じりたかったんじゃないかって。

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