第43話 報告

 次の日の昼休み。


 俺、桜さん、皐月で、中庭で弁当を食べながら、聞き込みについて意見を交わす。


「それじゃ二人とも、首尾はどうだった?」

「うーん、小中の同級生にあたったりしたんだけど、二人を見かけたって奴はいなかったよ」

「私も……」

「そっか……」


 昨日俺達は、遼と花崎さんの画像を元同級生に手当たり次第に送ったんだけど……。


「ひょっとして、遼の画像が悪かったのかなあ」

「? どうして?」

「いや、これ去年の夏休みに海行った時のやつなんだけど、写ってるのは遼の前髪が上がってるからさ。元々、長い前髪がトレードマークだったから、気づいてないんじゃないかと思って」

「へ、へえー、海行ったんだ」


 あれ? 桜さん、そこに食いついたぞ?


「ね、ねえ、皐月も一緒に行ったの?」

「私? ううん、行ってない」

「じゃあ、男二人で行ったの?」

「うん……あ、そういや、海で花崎さんに会ったな」

「え!? 奏音!?」


 花崎さんの名前を出したら、桜さんが驚いた表情を見せた。


「そうそう。なんでも海のすぐ近くに別荘があるらしくて、毎年来てるって、葛西さんが言ってた」

「「「「葛西さん!?」」」」

「そう、運転手の葛西さん」


 そう言うと、なぜかみんなはキョトンとしていた。


「? どうしたの?」

「え、ええと……なんで凛くんは奏音からじゃなくて、その運転手の葛西さんて人から聞いてるのかな……?」

「いやほら、花崎さんは遼にばかり話しかけて、俺とはほとんど口聞いてくれなかったってのもあるんだけど、それより葛西さんと仲良くなっちゃったんだよねえ。だから、今でも校門で葛西さんが花崎さん待ちの時に話したりするよ」

「そ、そうなんだ……」


 アレ? 桜さん、なんでそんな顔で俺を見るの!?


「と、とにかく、今は如月遼も髪型変えてるし、むしろ前髪上げたこの画像のほうがちょうどいいと思うから、このままで」

「そうか……引き続き知り合いにあたるしかないな……」

「うん……」


 ふう、どうにも暗くなっちゃうな……。


「ところで、今日は如月遼の様子はどうだったの?」

「今日も朝から絡まれた。『姉さんの責任取れ』だって」

「……私も絡まれた。『もう顔も見たくない』だって」

「はあー……ボクはあの男がボク達に責任取って学校来ないでほしい」


 うん、激しく同意。


「ただ、待ってるだけじゃダメだから、ボク達も今日の放課後聞き込みをしてみよう!」

「おう! なんつっても、大輔兄と楓先輩から、解決するまでバイトのシフト外して構わないって言ってくれたしな!」

「……それ、楓先輩がそうしたいだけなんじゃ……」


 ◇


 放課後になり、俺達は近所の知り合いに聞き込みを続ける。


 だけど、これといった情報は得られず、もうすぐ夕方の六時頃になるところだった。


「ふう……誰も見てない、か……」

「ま、まだ分からないよ! だって考えてごらんよ、この住宅街で歩いてたら、普通はどこかで目につくよ! さすがに隠れようもないし!」


 そうなんだよなあ。

 ゆず姉にキスされた時間帯に俺の家の周辺にいたら、誰かしら目につくはずなんだよなあ。


 ……遼と花崎さん以外の第三者が撮影していたって可能性は? 例えば取り巻きの女子の一人とか……。


「ね、ねえ桜。例えばだけど、遼と花崎さん以外の線が考えられないかな? それだったら、私達がスクショ見せても反応がないのは頷けるし……」

「うん。それは俺も思った。そうじゃなければ、絶対分かるはずだし」

「うーん、でも、例えば変装してたり、ってことはない?」

「変装してウロウロしてたら、一発で通報されるよ……」


 うーん……八方ふさがり、だなあ。


「あ、あれ? 理香ちゃんのお兄さんと、桜さん?」


 後ろから誰かが俺達に声を掛ける。


 振り返ると、理香の友達の結衣ちゃんだった。

 だけど、兄である俺の名前は覚えずに、一番縁遠い桜さんの名前は覚えてるなんて……。


「あ、結衣ちゃん! こんにち……って時間でもないか。こんばんは!」

「は、はい! こ、こんばんは! ……ところでみなさんは何をされてるんですか?」

「ああ、うん。ちょっと情報収集というか……」

「? 何かあったんですか?」


 うーん、説明する訳にもなあ……あ、そうだ。


「結衣ちゃん、教えて欲しいんだけど、この前家に遊びに来た時、不審な人とか見かけなかったかな。例えば、この画像の人物とか」


 そう言って、俺は遼と奏音のスマホ画像を見せる。


「えーと……見覚えないですね……」

「そっか……」

「す、すいません……お役に立てなかったみたいで……」

「いやいや、俺達こそごめんね?」

「い、いえ!」


 そう言って、彼女は申し訳なさそうな表情で俺達と別れた。


「うーん、だめだ。もうこんな時間だし、また明日にしよう」

「そうだね……はあ、手掛かりなしか……」

「うん……」


 二人の顔に、落胆と疲れの色が見える。

 よし。


「とにかく! 落ち込んだってしょうがないんだ! 明日こそ絶対手掛かりを見つけよう!」


 俺は少しでも二人を元気づけようと、わざとカラ元気で振舞った。


「う、うん、そうだね! よーし、明日こそ!」

「うん! ……だけど、二人ともホントいいコンビだね」

「ふあ!? きゅ、急に何言い出すの!?」

「ううん……ま、私も次は失敗しないようにしないと!」


 皐月は俺達を柔らかい表情で見つめながら、自分自身を納得させるように言った。


 ◇


 俺は二人を送ったあと、家に帰って今は自分の部屋で考えごとをしている。


 しかし、少しくらい情報が入ってもよさそうなモンだけど、何もないなんてなあ……。

 ダメだ、分からん。


「お兄! 結衣から電話なんだけど!?」


 バーンと勢いよく扉を開け、理香が入って来ると、俺の目の前にスマホを突き出す。


「お兄……分かってると思うけど、私の友達に手を出したら……」

「するかバカ……もしもし、結衣ちゃん?」


 俺は理香からスマホをひったくると、電話に出る。


『あ、お兄さんですか? 先程は失礼しました』

「あ、うん、それで急にどうしたの?」

『はい……そ、その、画像に写ってた人は見てないんですけど、そういえば、怪しい車を見たんです』

「怪しい車?」

『そうなんです。その……理香ちゃんの家の周りって、別に高級住宅街ってわけじゃないですよね?』


 いや、そうだけども……何だか複雑な気分。


「ええと、それで?」

『はい、なのに、すごい高級車が走ってたんです。ええと、黒塗りの……あれ? なんて車なのかな……テレビとかでよく見る外国の』


 ……確かに、この辺で高級外車に乗ってる家はない。

 だけど……そうか……。


「ありがとう結衣ちゃん。すごく助かったよ」

『ホントですか? 良かったです!』


 俺は通話を切り、スマホを理香へと渡す。


「お、お兄……何かあったの?」

「ん? 何で?」

「だってお兄、すごく怖い顔してるよ……?」

「え? そ、そうか? ……や、大したことじゃないよ」

「そう……」


 理香は不安そうな顔をしながら、部屋を出て行った。


「桜さん……」

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