特殊捜査チーム、活動開始!

「さて、実はワタシ、すでに発生原因の目星をつけてあるのです」

 メイスンは、三人の前で唐突に言い放った。

「時雨サン、貴方には事件現場近くのダイコン農家が取引していた種苗会社を調べてください」

「種苗会社?」

「そうです。種苗会社」

 その時、時雨はメイスンなる男の考えを察した。ダイコンの種子の方に、何かある。そういうことであろう。


 時雨はメイスンに言われた通りに調査を開始した。案の定、「お化けダイコン事件」の現場近くのダイコン農家は、全てもれなく同じ種苗会社の種子を使用していた。ビンゴである。

 時雨はこの調査結果をすぐさまメイスンに報告した。そして、山梨県のとある村に置かれた研究所に、調査潜入することとなった。


「……で、何で私がこんな格好しなきゃいけないのよ!」

 桜はダイコンの着ぐるみを着せられていた。それが不満なようで、ワゴン車で現場に向かっている最中ずっと不満を垂れていた。

「そうは言ってもですね……その潜入用ダイコンスーツ、時雨サンには小さすぎるし、千秋クンには大きすぎるんですよ。ワタシはギリギリ着られなくもないですが、ここで指揮を執る役目があるので」

 メイスンはそのように理由を話したが、やはり不服であるのは変わらないようだ。


 メイスンが運転し、時雨以下三人の乗り込むワゴン車は、研究所から少しばかり離れた小高い丘の上に停車した。

 研究所の敷地内は、無数のダイコンがごろごろと転がっていた。しかもその中には、全長五メートル以上はあろうかという巨大なダイコンも三本ほどあった。通常サイズのダイコンも、目視できるだけで百本以上はある。

「さて、桜サン、これを五本、あの敷地の真ん中へとセットしてきてください。起爆はこちらで行いますので」

 メイスンが桜に手渡したのは、空気ボンベのようなものであった。

「これには千秋クン特製の除草剤が詰まっております。セットしたら戻ってきてください」

 桜はむくれっ面をしながらボンベを受け取ると、車を出て研究所の中庭へと入っていった。

 敷地内のアスファルトの上を、大小様々なダイコンが転がっている。丘の上から見た時よりも、ダイコンの数は多いように感じられた。敷地の正面玄関口以外は松の林に囲まれており、そこより外にダイコンは飛び出していないようだ。

 ダイコンたちは、桜を完全に無視していた。ダイコンの着ぐるみを着ただけの人間に騙されるとは、何とも滑稽である。

「これでよし……と」

 桜はボンベをセットすると、足早にその場を離れた。やはり、ダイコンは追ってこない。桜は車と中庭を往復し、五本全てを置き終えた。

「よし、ポチッとな」

 車の外で敷地内の様子を眺めていたメイスンは、桜が正面玄関口から外に出たタイミングを見計らって、何かの計器のボタンを押した。

 ボンベから白い煙が噴出し、それは瞬く間に研究所の敷地内に散って広がっていった。ダイコンたちの姿は、すっかり煙に覆い隠されてしまっている。


 やがて、煙が晴れた。そこには、力なくしおれたダイコンが、無数に転がっていた。もう動き出す気配はない。

「どうだ。ボクの発明品は大したもんだろう」

 萎れていくダイコンを見ながら、千秋は如何にも誇らしげに言った。

「これでもうダイコンに襲われはしないでしょう。よし、行きますよ」

 メイスンは研究所に向かって駆け出した。時雨、千秋も、それに続いていく。

 メイスンは、恐ろしく走るのが速かった。時雨も若い頃は体力自慢であったが、年を経て流石に身体能力は落ちてきており、息を切らしながら何とかついていっている状態であった。

「ち、ちょっと待ってくれよ」

 千秋は、完全に置いていかれていた。天才発明家の彼も、身体能力の方は流石に秀でていないようである。


 三人はダイコンの着ぐるみを脱ぎ捨てた桜と合流すると、研究所の建物のドアの前に立った。

「爆破!」

 メイスンは研究所の建物のドアに爆弾を取りつけると、リモコンの起爆スイッチを押した。凄まじい爆音とともに、銀色の扉は木っ端みじんにはじけ飛んだ。明らかに、この手の作業に慣れていそうな手つきである。

 四人は研究所内に侵入した。真っ直ぐ続く廊下に。人の姿はない。無機質な白い壁が、ただ続くだけである。

 突入後は、慎重に進んでいった。あのお化けダイコン事件の黒幕最有力候補の企業の拠点である。四人は敵の懐に飛び込んだも同然なのだ。

 メイスンが扉を開け、奥に入ろうとした、その時であった。


「えっ……」


 時雨は、足を踏みしめる感覚が急に消失したのを感じた。次の瞬間には、もう体は空中に投げ出され、空を切って落下していることに気づいた。

 四人の足下の床が下向きにぱかっと開き、そのまま口を開けた暗闇の中に落下したのである。

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