第34話 鉄

「ねー、おじーちゃーん!」


 マダレの声が響き渡る。


 声のする方へ向かうと、そこには立派な製鉄炉があった。



「これ、なーに?」


「これはと言って、鉄を取り出すための作業場じゃよ」


 人里離れた山の上に似つかわしくないその大きさに、レンもノツも圧倒される。



「こいつはすげぇ……じーさん、かつては名の知れた職人だったんじゃ?」


「さてな、もう名前すら無くした老いぼれじゃよ」



 そのやり取りを見て、マダレが名案とばかりに手を叩く。


「じゃあぼくがおじちゃんになまえを。んー……このコがクロだから。そうだ、クロガネ!」


「おいおい、なんだそりゃ」



「ふむ……良い。実に良い」


「良いのかよ!?」


「もはや名前を呼ばれる必要もない、ただの無名の鍛冶師に意義が与えられた。過ぎたることよ」


「はぁ」


 やはりこの老人の言葉はいまいち掴めない、とレンはため息をつく。



「さて、お主ら。先程『倒すべき相手がいる』と言っておったな」


「ああ。それは――」



「ふむ。人間の女剣士にも勝てぬ腕前で悪魔を追いかけてきた、と」


 声の調子も変わらぬ、表情も見えぬクロガネだが、それがノツには小馬鹿にされているように感じられた。



「おいこら、人間に負けたことまで馬鹿正直に話す必要ないだろ」


「い、いやほら、話の成り行きで」


 レンがノツに詰め寄られている様子をじっと見つめ、何か決意したようにクロガネは口を開く。



「お主ら、強くなりたいかね」


「あ? 当然だろ」


 間髪入れずにノツが答える。



「ならば主らの『奥の刃』を打ち直してやっても良い――とある条件付きでな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る