第28話 アミューズメントパーク魔王城

「16時42分勇者カミヤ、公務執行妨害により逮捕する」


「なんで俺が逮捕されないといけないのよ! あいつら逮捕しろよ! 魔族だろ」


「ええい、うるさい。まだ、そんなこと言ってるのか! さっさと連行しろ」


「はい」



 こうして、勇者カミヤは逮捕され、連行された。翌日釈放されたものの、勇者カミヤの心の傷は深かった。その日はキャットハウスに来なかった。








 話は昨日にさかのぼる。キャットハウスのカウンターで、カミヤさんと2人で話していた。最近出来た美味しいラーメン屋の話をしていた。その時、奥のテーブル席には勇者アオ達が、いたのだが、



「行った、魔王城?」


「もち」


「あそこは楽しいよな。脱出出来なかったけどさ」


「俺も脱出は無理だった」


「タクの頭じゃ絶対に無理じゃん」


「そんなことないです〜。俺でもやる時はやるんです〜」


「はいはい」




 なんて話してが聞こえてきた。なんの話してるんだ? と、カミヤさんが大声で勇者アオ達に声をかけた。



「おいアオ! なんの話してんの?」


「ああ、カミヤさん最近できたアミューズメントパーク魔王城の話です」


「カミヤは、知らね〜だろうけど、リアル脱出ゲームの話です〜」


「リアル脱出ゲーム?」


「あれよ、謎を解いたり、迷宮を攻略したり、最後魔王を倒して、脱出出来れば良いの」


「ヘー。魔王城ねー。魔王も大胆なことすんな〜」


「えーと、カミヤさん理解してます? リアル脱出ゲームですからね」


「わかってんよ先生! 魔王を倒して脱出するんだろ?」


「そうですね」



 珍しくちゃんと理解しているようで、安心したのだが、わたしは後に後悔することとなる。




 そして、翌日ザーマ神殿にてそろそろ、キャットハウスに行くために片付けをしていると、向こうから凄い勢いでシスターが、走ってきた。シスターは、白の前身を覆うシスター服を着て、ベールを被っているのだが、100mランナーのように走っているので、ベールは後ろになびいて、スカートは捲り上がり白い太ももが、見えていた。そして、わたしの前に来ると、全力で止まる。



「陳腐、陳腐、陳腐。変態です」


「わかりました。わたしは、変態陳腐でかまいませんが、シスターがはしたないですよ。急いでいても、全力で走るのはやめなさい」


「変態陳腐。そんなことより」


 わたしは、変態陳腐のままで、しかもわたしの注意は無視された。



「勇者カミヤが、魔王城で暴れてます」


「勇者カミヤが、魔王城で暴れるのは、当たり前じゃないですか?」


「じゃなくて、ザーマシティに出来た、アミューズメントパーク魔王城でです」


「なんですって!」



 わたしは、カミヤさんを甘くみていた。そんなに理解力がなかったとは!



 わたしは、慌てて走り出す。すると、


「神父! 走っちゃ駄目ですよ!」




 わたしは、とりあえず無視して、ザーマ神殿を飛び出すと、アミューズメントパーク魔王城を目指した。飛び出した後、場所を聞いていなかったので、後悔したが。警官隊が向かっていて、それについていくとアミューズメントパーク魔王城に到着した。



 アミューズメントパーク魔王城。見た目普通の4階建てのビルであったが、ドクロだったり、枯れた蔦だったりで装飾して、頑張って禍々しさを演出していた。そして、屋上には、デカデカとアミューズメントパーク魔王城の文字。それをピンクのライトで照らされていた。



 う〜ん? 見た目ラブホテルだぞ。まあ、どうでも良いかな。



 わたしは、周囲を見回す。子供を連れた家族連れ、カップル、そして、友人同士複数のグループが、怯えた表情で上を見上げていた。そして、警官隊は、完全包囲を完了していた。



「ああ、ああ、ん。勇者カミヤ、勇者カミヤに告ぐ。完全に包囲した。抵抗をやめ、人質を開放して出てきなさい!」


「うるせー! こいつは魔王だぞ、なんで倒しちゃいけねーんだよ!」


「勇者カミヤに告ぐ。あなたは確かにかつて、魔王を倒し、我々を、いや、この世界を救ってくれた。だが! ここは、魔王城ではない! アミューズメントパーク魔王城なのだ! 魔王も本物ではない!」


「ああん! 何言ってんだ。こいつら魔族だぜ!」



 警官隊と、勇者カミヤの視線がわたしに向く。わたしは、その視線から逃れるように、負傷したスタッフの治療するために移動する。



 近づくと、ん? 人間に化けているが、本当に魔族と魔物だぞ? すると、一体の魔族が、話かけてきた。



「神父様、魔王様を助けてください! 俺は、魔族のミッタです」


「えっ、いや、さすがにそれは」


「俺達、大魔王の配下で、魔王カミヤの侵攻の時に、あまりにブラックな、魔王軍から離脱したんです」


「そうだったんですか」


「その時の一番偉かったのが、今の魔王様で、俺達を人間殺さなくても、ちゃんと働いて満足な生活出来るように導いてくれたんです」


「偉いですね」


「はい。魔王様は、完全週休2日制。シフト制の導入により、ゆとりのある、勤務時間。そして、手厚い福利厚生等を実現して、アミューズメントパーク魔王城を作りあげたんです。皆で一緒に考えた、毎月変わる脱出ゲームで、人間にも人気で収入も安定していたのに。カミヤめ!」


「許せませんね。平和に暮らしているのを妨害するとは」


「神父様、では?」


「良いでしょう。神は許さないでしょうが、わたしが許可します。アミューズメントパーク魔王城頑張って下さい」


「ありがとうございます、神父様」


「ただし、わたしの配下になってもらいますよ」


「えっ!」





 わたしは、死んだ魔物や、魔族までも治療すると共に、彼らに完全に人間に溶けこめるように細工を施した。そして、魔王にも。



 警官隊のトップが、近づいてくる。



「神父様、ちょっとよろしいでしょうか?」


「なんですか?」


「ここのスタッフですが、勇者カミヤが言うように、本当に魔族なんでしょうか?」


「いいえ、良く見て下さい。彼らが着ているのは、キグルミ。中は、人間ですよ」


「本当ですね。確かに」




 そして、勇者カミヤも混乱し始めていた。



「あれっ? おめー、魔族の気配が。あれっ?」


 魔王から、突然気配がしなくなって焦っているようだ。



「勇者カミヤも、混乱しているようです。今だったら、捕まえられますよ。ただし、勇者カミヤも、勘違いしただけなので、あまり厳しい処分は」


「わかっております。では、突入!」




 こうして、勇者カミヤは、逮捕された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る