砂瑠璃

糸杉賛(いとすぎ さん)

ガンム

出会い

その昔、アザクラとういう山にガンムという男がいた。細い体は鍛え上げており鋼のように硬かった。短髪黒髪、黒い髭。腕っぷしは強く、若者を引き連れ山の民を守っていたが、周辺の賊から、東新とうしんの国王を守ったことで宮中で武官となった。




ガンムにはジアという心優しく美しい妻がいた。ガンムはジアを幼少の頃から大事にしており、大人になると当たり前のように娶った。20年以上一緒にいるが、まだ子はいない。


ガンムは、山の民の中でも豪族の出であり、母親のムニは長子のガンムに跡継ぎのないことを嘆き、ジアに冷たく当たった。




それを知ったガンムは母を許さず、ジアと、ジアに役立ちそうな手伝い達を連れて家を出た。


ジアは病気がちだった。過保護なガンムに動くことをきつく禁じられていたのだが手料理を作ったり、刺繍をしたりガンムの好きなものだけを、時間をかけて作った。


広く住み心地のいい邸宅だった。下働きも最小限でジアはガンムさえ留守がちなことがなければ幸福の最中にいた。そしてある日、匂いにつられたのか、小さな子供が庭に紛れ込んできた。




そこらの子供は袖のないチョッキを着物の上に重ねているが、その子のチョッキは朱色に黄色と高価なもので、しかも上の髪をちゃんと頭の上で結い、残りの長い髪を綺麗に垂らして大人のジアと同じようにしていた。ガンムと同じ豪族の出だろうとジアは思った。



なかなか可愛い顔立ちをした、人懐こい口達者な女の子で、勝手に庭に入ってきてジアを一目見るなり懐いた。そしてその幼子はあっという間に、ガンムの留守の間、寂しい思いをしていたジアの慰めとなっていった。


「あなたはどこから来たの?名前は?」



足をぷらぷらさせながらジアの餅菓子をおいしそうに食べるシュウシュウにジアは尋ねた。



「シュウシュウ。あっちよ。あっちのおうちから来たの。あなたはここへ来たばかりね。お姫様のように美人だとわたし、ずっと思っていたの。前に見かけたわ。わたし、そのとき、このお庭にこっそりいたのよ。青い花の前にいたのよ。あなたをはそれは美しかったわ」



シュウシュウは言った。言いたくて言いたくてたまらなかったのだ。




ジアが「まあ」といって笑うとシュウシュウは勢いついて、「目がきれい」「髪がきれい」「絵の中の人だと思ったわ! 」などと思い付くまま喋るのだった。ジアはそれほど整った顔をしていたのだ。ジアは甘い餅のおやつをシュウシュウにまたひとつ渡した。シュウシュウは益々ご機嫌になった。


「私、あなた達がきたところを見てたのよ。この家が建てられた時も知ってるわ。一緒にいる将軍は、恐ろしい顔をしてるけど。あの人、あなたのお父様?」


「まあ!」


今度はジアは大きな笑い声をあげた。


「そんな、違うわ。あの方は私の大事な旦那様ですよ」



ガンムとジアは四つしか歳が違わないのにとそれは心でジアは呟いた。ガンムが聞いたら何と言うか。


笑いすぎてジアは軽く咳き込んだ。




咳だけが続き、静かな庭に響き、シュウシュウは小さな手でジアの背中を撫でた。


「ご病気? 私、あまり来ちゃダメ? 」


「いいえ、大丈夫よ。シュウシュウ。優しくて頭のいい子なのね。いつでも歓迎するから遊びにいらっしゃい。また、お餅をあげる」



シュウシュウはにっこりした。



「あなたの旦那様がいないときにくるわ!

だって、怖いもの。あのね、私、たくさんお話知ってるの。多英たえいがいつも私のお話やお喋りに感心するのよ。だから、あなたも気に入るわ」

 


乳母でもいるのだろう。ジアはシュウシュウを観察して思った。いいところの娘だろう。おしゃまで、素直な可愛いシュウシュウをジアはすぐに気に入った。

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