第32話 星々の追走

「はわぁ~気持ちいい。」


「ふ~、心地良い湯加減であるな。」






ロゼッタとセリスはクラインとベルトレが壊した壁をセリスの魔法により修復し、元よりも豪華になった風呂場でくつろいでいた。そんな中で、セリスは問いはじめた。








「そういえば、ロゼッタよ?何故わが主殿を召還したのか?ソナタ等の旅の目的はきいたが、異世界からの召還にはわらわの知る限り、かなりのリスクが伴うと思うのだか?」


ロゼッタに問うセリスはそのまま続けた。






「元来異世界より招かれた者は、その後理より外れた力で猛威を奮い、この世界に良くも悪くも多大な影響を与えるというが、その為の召還には術者、もしくは魔方陣を描いた者の死と隣合わせで、魔力不足や、召還儀式の失敗にはかつてかなりの者が命を落としたと記憶しているが?」








セリスの言葉に真面目な顔つきでロゼッタは返答した。




「私は国から命からがら逃げ出し、その道中でもクライン以外の者は追っ手により次々に命を落としていったわ。その中には、私の母上もいたわ。母までも亡くし、魔導禁書を携えて逃げるだけの日々の中である女性に出会ったの。彼女は伝導者と名乗って陣を描いた紙と共に、私にこの旅の意義を再認識させてくれたの。元より失っていた命を皆が紡いでくれた。だから、一ノ瀬と出会う事ができたの。勿論セリスにもね!」








ロゼッタの話しを聞いたセリスは、少し愉快そうに口元を緩ませ、ロゼッタに言葉を伝えた。








「そうか。わらわもソナタ達と巡り会えて心より嬉しく思う。そろそろ上がらぬと湯中りしてしまうな?早めに明日に備えようぞ!」








セリスの言葉を皮切りに、二人は揃って脱衣場に向かった。それから暫くした後、一同は各部屋ごとに休んでいたが、一ノ瀬は外から聞こえてきた音に寝ぼけ眼になりながらもゆっくり起き上がった。


(何だこの音は?)


そう思い、関所の内側の窓から外を確認した一ノ瀬が見たものは、一台の荷馬車が十台程の武器を装備した荷馬車と空をとぶ百以上の魔族と思われる者達からこちらに向かって逃げている光景だった。








「どうなってるんだ?!こっちに逃げて来ているみたいだけど!?」




〈ガチャッ!〉




「一ノ瀬!こちらに何者かが、!起きていたか!?」








一ノ瀬の元にベルトレが慌てた様子で入って来た。一ノ瀬が既に目覚めていたのを確認し、直ぐに身支度をするように伝えてきた。












先頭の荷馬車の中では三人の女性が乗っていた。一人は頭と腰から猫のような耳と尻尾を生やし、純白のドレスに映えるような金色の長い髪にティアラを乗せ、齢二十代ほどの見た目には、悲しみを映す柔らかな瞳を宿していた。その横には、同じ位の年のメイドが、犬のような耳を垂れ下げて、赤い髪を上品に後ろでまとめており、ティアラの女性を安心させる様に抱きしめていた。






「エリシア様、もうじき関所です!そこまで行けば門番達がいるはずですのでもう少しの辛抱です!」




犬の耳を生やしたメイドがエリシアと言われた女性に抱きつきながら言葉を発した。しかし、その言葉を否定するように二人の目の前の青の長髪から黒いウサミミを生やし、杖の様に剣に両手を乗せた女騎士が鋭い目と共に口を開いた。








「リム、恐らく奴らは我が国の関所を既に陥落させているだろう。最悪挟み込まれる可能性もある。先程確認したが、この時期に両方の扉を開ける事はまずないはずだが、関所は大きく開門しており、関所内から明かりが見えていた。最悪の場合、私が時間を稼ぐ間にエリシアと共に森へ逃げるのだぞ?」








リムと呼ばれたメイドは瞳に涙を目一杯ため、目の前の女騎士を見つめた。それと同時にエリシアと呼ばれたティアラを頭に乗せた女性が口を開いた。








「アテナ。貴女は確かに国一の強さを持つ正に剣神と呼ばれるに相応しい騎士です。ですがあの群衆を相手に勝機はあるのですか?もし、そうで無いのならば、非力なわたくしより、貴女達がこの魔導禁書を持って逃げる方が合理的でしょう?」








エリシアはアテナと呼ばれた目の前の騎士に問かけたが、アテナはエリシアに厳しい目を向け言葉を返した。






「エリシア、これは私自身への罰でもある。この国を裏切ってしまった事への。、、お前はこの国の次期女王になる者だ!その命を、私に守らせてくれ!」








アテナの言葉にリムは我慢出来ずに涙腺を崩壊させ、エリシアは何かを決心し、アテナに向けて微笑みを浮かべた。








「アテナ貴女は何時も自分を犠牲に戦ってきました。貴女は誰も裏切ってはいません。皆それは分かっているでしょう。だからこそ、民から剣神と称えられたのでしょう?貴女に罪があるというのならば、真に償わなければならないのは王族の中でも次期女王となる私の使命でしょう。」




「それは、、、!」


〈ドカーン!〉








アテナが何かを言いかけた時、荷馬車が音を立てて倒れた。そこは日中一ノ瀬達が埋葬した墓地の近くだった。荷車から出て来た三人の前には実に百は下らない敵が夜空に浮かぶ星のように魔法陣を展開させながら押し寄せ、魔法を荷車の周囲に打ち続けていた。二人を逃がす事も出来ずアテナは決意を固め、リムとエリシアの前に立ち、静に鞘から剣を抜きさった。


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