召喚から始まる異世界生活

アンドリュー

第0話 プロローグ

高校への身仕度をするブレザー姿の青年は使い慣れた教材を鞄に詰めていた。用意を済ませた青年は、簡単に一人分の朝食を用意し、手早く食事を済ませた。








洗い物をする青年の背には2つの椅子がテーブルを挟む様に置かれ、その内の一つの椅子には、うっすらと埃が積もっており、暫く動かされていないのが伺える。








洗い物を済ませた青年は居間にある三段ボックスの上に置かれたあどけない笑顔を見せる少女の写真に手を合わせていた。写真の少女に向け毎朝必ず手を合わせる青年は目を開け言葉を発した。








「おはよう。兄ちゃんは今日夕方にバイトの面接があるから少し帰りが遅くなるよ。実家からの仕送りも大変だろうし、何時までも頼りきりじゃ迷惑をかけてしまうからな。採用されれば日に日に帰りが遅くなると思うけど、ちゃんと帰ってくるから待っていてくれ。」








青年は妹の写真に語りかけた後、鞄を手にして自身の暮らす2階建てのアパートの二階の部屋の扉を開き、通う高校に向かった。








高校に着いた青年は皆が向かう各クラスとは別の方向に一人歩みを進めた。目的の場所に着いた青年が開いた扉の上には【保健室】と書かれていた。その扉の中には白衣を着た長い黒髪の女性が何かの準備をしていた。背後で扉が開かれた音を聴き振り替えった女性教諭は、眼鏡越しに大人な女性をイメージする切れ長の目を此方に向けた。








「おはよう一ノ瀬君!今日も登校してきて偉いね!ちゃんと体操服は持ってきた?」








白衣の女性から声をかけられた青年は一ノ瀬と呼ばれた。その言葉に一ノ瀬は挨拶と返事を返した。








「おはようございます。保健室登校ですけどね。確か他のクラスが使わない時間に体育館で体を動かすって言ってましたっけ?一様持ってきましたよ。」










一ノ瀬の言葉に白衣の女性は返答した。








「一応体育の単位も無いと卒業できないからね!三時間目に二人でまあバトミントンでもしようと思ってるよ!教頭先生と体育の先生にも話しつけてるから!」








白衣の女性は一ノ瀬に説明を終えたのを皮切りに再び自身のデスクで授業の準備を始めた。一ノ瀬は保健室にある机に向かって歩みを進めながら、白衣の女性の背に言葉を投げ掛けた。






「マキ先生は他の先生と違って俺がクラスに行かない事を何も言いませんけど、教師の立場的には大丈夫なんですか?」








保健室に用意されたクラスと同じ机に慣れた様子で教材を入れる一ノ瀬は、白衣の女性をマキ先生と呼び疑問をなげかけた。










「まあ教師としてはあれだけど私は保健が担当だし何より、ショック療法で嫌いな食べ物を食べさせようとしても、最悪何にも食べなくなって拒食症になる事もあるし、食べ物一つにしても他の物で栄養を補う事はできるから、生き方や考え方も一択じゃないと私は思ってるよ!でも人を傷付ける事だけは駄目だよ!それは相手の選んだ道を妨害する行為だからね!」








マキ先生の言葉に少し肩が軽くなった一ノ瀬はほんの少し頬を綻ばせて自身の定位置となった保健室の椅子に腰を下ろした。






















日差しが赤みを含んだ頃、一ノ瀬は下校する生徒が落ち着いてくる頃を見計らい校舎を後にした。登校した道と同じ道のりを歩くその手には、学校から貰ったアルバイトの許可証と自身の履歴書が入ったファイルを携えていた。








(生き方や考え方は一択じゃない、か。でもこの日本で生きるには皆と同じ生き方以外は拒絶される。だから俺も過去に生きてしまうのかな?いや、俺が弱いからだろうな。でなければ、保健室登校なんかしてないし。)








一ノ瀬は一人思考を巡らせながら、夕陽に染まる街を歩きある場所で足を止めた。その場所は自身の住まうアパートと通う高校の通学路の中間辺りにある本屋だった。その入り口にはアルバイト募集の張り紙がされていた。










「これが俺が過去から今を生きる為の最初の一歩か。アルバイトなんて今時誰もがやってるけど、俺にとっては新しい世界の入り口なんだな。」








一ノ瀬は書店の入り口で独り言を呟いた。未だ過去にあるトラウマを抱える一ノ瀬は、少し書店に入る事をためらっていたが、自身を鼓舞するように胸中で気合いをいれた。








(よし!兄ちゃんは頑張るぞ!見ていてくれ!!)












ゆっくりと書店の入り口に歩みを進める一ノ瀬の前で書店の自動ドアが開かれた。その時扉の中から美しい歌と共に唐突に激しい光が放たれた。








(な、何だこれ!?眩しい!?)










一ノ瀬は眩い光に包まれた。

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