第13話 空中戦

「まったく、一撃で魔導禁書がある所まで爆発させるつもりだったのに、今の衝撃で表皮に傷を入れる程度にしかならないなんて、、」


「何だ、もう終わりか?軍の配下達から黒煙の魔女と言われているわりには大したこと無いように見えるが?」








空中に浮遊しながら、魔族の男女がやり取りをしており、女性の魔族の額には一本の角を生やし、胸元が開いた魔女のような服をみにまとい、燃え盛る炎のような色のロングヘアーをたなびかせながら、片眼が潰されていてなお、冷ややかな美しい瞳で自分が放った魔法に対し、不満げな表情を見せていた。








「今のはただの肩慣らしよ。」


「あまり遊ぶなよ。たとえろくな魔法も魔力もなくても、ワラワラと集まって来たものたちを相手にするのはかなり面倒だ。」


女性の魔族に話し掛ける男性の魔族は、頭部の右側に角を生やし、目元まで伸びた髪の間からはクールで冷徹な印象を与える容姿をのぞかせ、足首まである黒の布に金の刺繍がされてあるローブをはおり、さも面倒くさそうにぼやいていた。








「大丈夫。禁術にも劣らない闇属性の上位魔法を見せてあげるわ!」


その言葉と共に女性の魔族は、目の前に立つ大樹の上に巨大な三層の魔方陣を出現させた。


「おい、その魔法は!?」


男性の魔族が何かを悟り声をかけた瞬間、魔法陣からは大樹を上から押し潰す様にとてつもない重力を発生させた。みるみるうちに軋み出す大樹の真ん中には左右に引き裂く様に亀裂が入り出した。








「もう一押しね!」


女性の魔族が更に魔力を込めかけた時。下から三股の槍がものすごい勢いで飛んで来た。その槍を女性の魔族の目の前で男性の魔族は片手で掴んで止めてみせた。二人は槍が飛んできた下を確認した。そこには、二人に向かって飛んできているベルトレがいた。








「何だ?あの茄子みたいなやつは?」


男性の魔族はベルトレを見て声を出したが、その後につづくように鳥人族の足で掴んでもらい、荷物を運搬するように運ばれる二人を見据えるクラインと一ノ瀬がいた。二人の魔族の元にたどり着いたベルトレは怒気を含んだ声を発した。








「久しぶりだな、(レドナ)(マルクス)!その後その片腕と片眼の具合はどうだ?」


「「!!」」


その言葉を聞いた二人の魔族のうち、マルクスと呼ばれた男性の方の魔族がベルトレに答えた。








「君は、ベルトレかい?なんだいその姿は!ずいぶんと可愛くなったものだね?」


過去にベルトレにより片腕を落とされたマルクスは憎しみを噛み殺すように挑発した。その間も大樹への魔法を止める事無く、レドナと呼ばれた魔女は目線だけをこちらにむけ、喋り出した。








「お久しぶりね、ベルトレ~。その姿から察するにあなた誰かと使い魔の契約をかわしたんだ!かつて魔族の軍を率いてたあなたが、今や遣わされているなんて、滑稽だわ!」








二人の挑発を、受け流すようにベルトレは静かに片手を前に出し、魔法を発動させた。


「貴様らの狙いは大樹の中にある魔導禁書だろうが、アダムとイヴの命が宿るあの本は渡さない。ときに、軍を引き連れずに、二人だけで再び訪れたのは数年前の失敗から王に罰でもくらったからか?そんな貴様らこそ、魔族の忠実な犬としての鏡だな!w」








その言葉にブチキレた二人を他所に、ベルトレは魔法により出現させた水の剣を幾本も出現させ、一斉に二人を目掛けて放ったが、マルクスは瞬時に魔法により、光のバリアーを展開させその攻撃を防いで見せた。


「使い魔になったことで、幾分か力が落ちているようだけど、なかなかの威力だね。流石は水陣の導師と呼ばれていただけの事はあるね。でも、それでは私一人すら倒す事は難しいですよ?」








その瞬間、マルクスは自身の足元に魔方陣を展開し、自身を囲うように光のリングを出現させた。マルクスが、手を動かすと同時に目にも止まらない速度で光のリングの一部が細長く変化し、(ドスッ)という音をたててベルトレを貫いた。


「ぐっ!!」








「そう言えば、この魔法は初めて見ますよね?これは光属性の上位魔法なんですが、光をリング状に束ね、思うままに変形操作が可能なんですが、使いこなすのに苦労させられましたよ。貴方の最後に見せられて良かったです。」








マルクスのその言葉と同時にベルトレは気を失いながらも大樹に呼び掛けた。


「、、、イ、ヴ、、、、。」


そのまま前のめりに地上に向け落下して行ったベルトレに一ノ瀬が叫んだ。


「ベル!?」








クラインは地上に居るロゼッタとレイヤによびかかけ、まっ逆さまに落ちるベルトレに魔法で地面との衝突を緩和させるように叫んだ。地上に待機していた二人は共に魔法を唱え、レイヤの光の魔法によりベルトレを光で包み、ロゼッタは風の魔法で下から突風を起こし、さらに小人族が数名で、自然の魔法を発動させ、落下地点に背の高い草花を発生させ、ゆっくりと光に覆われたベルトレをその場に落ち着かせた。








ベルトレの安否を確認した一ノ瀬は、胸を撫で下ろした。


「無事でよかった。ベル、大丈夫だからな。直ぐに終わらせる。」








今なお光のリングに囲われ不敵な微笑みをうかべるマルクスを睨みつけた一ノ瀬は全身に力が宿る感覚を感じ、無意識に両足に付与した魔力で、空中を蹴り鳥人族の元から一瞬でマルクスの目の前に移動していた。


「なっ!!?」


「うおおおおおお!!」(バキッ!)






瞬きをする間もなく目の前に現れた一ノ瀬にマルクスが驚愕の顔を見せた次の瞬間、魔力を纏った一ノ瀬の拳が為すすべの無いマルクスの頬を鈍い音をたてながら殴りつけ、吹き飛んだマルクスは、今尚大樹に魔法を放ち続けているレドナに向かって飛んでいった。レドナはマルクスを受け止めるために魔法を解除した。その瞬間を見逃さなかったクラインは一ノ瀬の背後から鳥人族と共に現れた。








「いくら大バカ者であっても、ベルトレは私たちの仲間!その仲間の故郷一つ守れずに仲間を語る資格はない!廃人と化し消し炭になれ!」








クラインは二人を目掛けて自身の魔力を魔法に変換し、巨大な火の鳥を出現させた。火の鳥は二人をめがけ突っ込んでいったが、直撃の寸前にレドナは魔法を放ち、衝突の直前で爆発させた事により、直撃を回避した。








空中で起こった大爆発を集落の皆は静かに


見まもった。

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