第22話 今更何を言っている

退職願いを出した後山本と牛丼を食べて帰った

山本は、なぜあのタイミングで出したのかを恭介に聞いた


「木咲さん達を思い出した。あいつの当たり前が哀れに見えた。目標も達したし、もういいと思った。僕が入社する前に震災が起きた。当たり前にあると思ってた卒業式は消えた。自分の時間は、自分や好きな人の為に使いたい」


話を聞きながらも山本は終始震えがおさまらない様子だった

「店長に言い返すとは思わなかった」

との事だ


家に着いたのは10時、14時には起きてまた出勤しなければならない


フラフラだが、どうでもよかった

遅刻したっていい


そんな気持ちでシャワーを浴びてベッドに入る


だがきっちり14時の目覚ましで目が覚めた


生真面目な自分に苦笑しながらも恭介は準備する


恭介が出勤するとそこはいつものナタデココの雰囲気だった


わりかし急だが上田主任が九州で開店する新店舗の店長に抜擢されたようで、挨拶もそこそこに九州へと異動し少しバタバタしてるくらい


余談だが、城崎はその店で働く事になったようだ


今現在、港区ナタデココには役職も少ない状況だ、まあシフトが回せない程ではないが


遅番のスタッフが集まってきて、朝礼が始まる。どうやらまだ退職願いを出した事は誰も知らないようだ


というか、そもそも店長の鏑木が来ていない


今日は出勤のはずだが、まあ別に珍しい事じゃない


そんな事を考えていると、朝礼で藤原が

「今日からしばらくは練習の為にも山本さんに指示出しをしてもらうから。皆も協力するように」


…伝わっているかもな


その日は久しぶりに島割りに従う形で2コースに入った


「(久しぶりだな、見なきゃいけないとこが少ないから楽だけど、自由に動けないってこんなに窮屈だったんだな)」


などと思っているうちに


「班長」


「はい」


「冴島さんに別件で頼みたい仕事があるから、状況見て抜けさせて下さい」


「了解しました」


藤原が野原に対しそんなインカムを入れた

野原はまだテンパっている山本をフォローするようにホールに入り、恭介を倉庫に行くよう指示した


まあ、仕事じゃないだろうな


恭介はそう思いながら倉庫に向かった


案の定、藤原がした話は昨日出した退職願いの事だった


「まあ、仕事なんてないんだけど、昨日退職願いを出したと聞いて。せっかく成長してきているのになんでなんだろうと思って」


「…成長…ですか。辞めると言った途端そういう言葉を使い始めるんですね」


「いや、そういう訳でもないけど、ここの役職は皆冴島さんには期待してるし、気を遣わずに色々なチャンスも与えてたと思うんだよ。で、力も付いてきてるのになぁと」


「チャンス?なんのですか?」


「え?なんのって、出世した時に困らないように色々な仕事を先回りして与えたり…」


「それがチャンスですか?僕がどうしたいのかとかを聞いたこともないのにそれがチャンスなんですか?」


「いや、会社員なんだから当然上に行くのは1つ目標としてあるじゃない」


「ならはっきり言いますが、僕にはないです。それが退職願いを出した理由です」


「……もう引っ込めるつもりはないの?」


「今更何を言っているんですか。ホールに戻ります」


藤原を置いて恭介はホールに戻った。


藤原との会話が理由かは解らないが、その日から恭介には残業や新しい業務など一切させないとの伝令が鏑木から全社員に伝わった


12月までもう少しの


寒い時期であった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る