第14話 本社はいい人そうなフリがお好き

8月になり、気温はさらに高く夏が加速していく


恭介が指示出しに就くことも増え、城崎と共に練習を踏まえ指示出しポジションを固めていった


閉店後

「輪番店休?」


事務所にて社員が集まり話しあう


「今年は震災があって、電気の消費量を抑えなくてはならないとお達しが来てる。特にパチンコ屋の使う電気量は膨大だ。そこで、近隣店舗で照らし合わせて、月に何日かの店の休みを交代で作っていく事になった」


鏑木からの説明だった


確かに、まだたまに余震もある位だ

生活の事を考えなければ、何日かとか言わず、何ヶ月か休みにした方が良いとさえ思う


「細かい事はこれからだが、その1日を利用して本社の部長が何か催しを考えているみたいだ」


「……」


店舗の飲み会も多いうえ、せっかくの休みになぜに部長に気を使わなくてはならんのだ


それは正直な感想だったが、口にも顔にも出さないよう恭介は努めた



時間を奪うことが叫ばれ、飲みの場やプライベートの大事さが国として叫ばれるようになっていくのはもう少し後の話である


「もちろん、違う業務のない社員は参加」


嫌な響きだ


恭介はその後しばらく早番に入る事になる

早番業務も経験しておく必要性がある


何度か入った事があるが、早番の入場抽選という作業が嫌いだった

「なんであんたが抽選やってんだよ?女は?」

「俺はこの店に可愛い女目当てに来てるんだよ」


客から見れば、パチンコ屋の男の店員は必要ない


気持ちは解るが、あえてそれを言ってくることが恭介には理解出来なかった


入場抽選とはそんな言葉に耐える時間だった


しかし、ある程度業務を遅番で身につけていた恭介は、最初は雰囲気が違う早番のスタッフとも息が合うようになってきていた


特に


吉岡さんと仲村さんとは話も合った


吉岡さんはAKBで言えばまゆゆのような人当たりの良さがあった、ルックスもアイドルのような女性。反面、ギャンブラーとしての一面もあり彼氏がヒモだという噂だ


仲村さんは同じ歳の既婚者で子持ち。入ったばっかの時の恭介は気の強い仲村の言動が常に怒っているように聞こえ苦手だったが、仕事を覚えるにつれさりげないフォローを常にしてくれている事に気付く。

スタッフというより女性として接すると凄く照れる一面がある



そして輪番店休は訪れた


まずはナタデココの休みで、公約通り、本社部長の催しで、店舗スタッフ全員でバーベキューが開かれた


社員は鏑木以外へ参加したが、驚いたのは早番、遅番のスタッフもほとんどの人が進んで参加した事だ


相澤は「これも仕事」と言い切り率先して上司に酒を注ぎに行っていた

なんという社交性だ


吉岡は率先して肉を焼いていた

8月の猛暑の中大量の汗をかきながら、肉の煙に燻されながら最初から最後まで

惚れてまうやろ


子供のいる仲村は不参加


城崎や山本は始まる前と後でパチンコを打ちに行っていた

休みの日でもパチンコって、好き過ぎ


上田主任や藤原は部長の機嫌取りに忙しい


安河は普段とあまり変わらないが、酒も強く、恭介ともよく話した


「お金ないからこういう時にいっぱい買う」と言っていたスタッフもいた


スタッフが嫌じゃないならまあ良かった


しかし恭介は1つ気になっていることがあった


腰を痛めた時の労災の話、未だになんの音沙汰もないこと


そして


参加を強制した鏑木が、仕事はないのにいない事


不満や疑念が募っていくのを感じながらも

スタッフ達との談笑でそれを紛らわした




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る