026「俺が倒れた後のこと-1」

「ヴィル?」


『---所有者ユーザーの損傷が規定値を超えました』


「この声、何処から聞こえて来てるの……」


『---図書館ライブラリーへの接続アクセスを開始、接続不能』


『---再度図書館ライブラリーへの接続アクセスを開始、接続不能』


『---図書館ライブラリーへの接続アクセスを中止』


「………指輪?」


『---端末ターミナルの独立権限を行使』


「指輪が魔法を使ってる?」


「ヴィルが左手に指輪を着けてるのは知ってたけど、魔道具だったの?」


「でも、独自に起動する魔道具なんてヴィルは何処でそんな物を手に入れたのかしら……」


『---幻視ファントムヴィジョン図書館ライブラリー限定展開』


「!?」


『---物語の強制起動開始』


『---失われた大地の異能を模倣』


『---所有者ユーザーの分解と再構築を開始』


「ヴィル!?」


『---魔力の不足を確認。独立権限により端末ターミナルに貯蔵された魔力の使用を許可』


「嘘、傷が治って……」


「切り飛ばした手足を再生させた……違う、これは再生なんかじゃない」


『---所有者ユーザーの状態を確認』


『---確認終了』


『---所有者ユーザーの損傷は規定値未満に復元されました』


『---幻視ファントムヴィジョン図書館ライブラリー待機状態へ移行』


「…………………………ヴィル」


「呼吸は安定してる、あれだけの血を流したのに体温も血色も問題ない」


「―――――――――」


「………魔法で診ても、切り飛ばした手足の骨も神経も血管も綺麗に繋がってる」


「何なの………ヴィルの魔法じゃここまでは出来ないはず」


「指輪の魔道具の力?でも、ここまでの力を持つ魔道具なんて見たことも聞いたこともないわよ」


「そのガキのユニークスキルだろう」


「!?」


「よう」


「貴方、いつからいたの!?」


「そのガキを引き摺って来てぶん投げた辺りから」


「………それってほぼ最初からよね?覗き見なんて趣味が悪くないかしら?」


「気付かないお前が悪いだろ?」


「それは……えぇ、そうね」


「そのガキにやけに入れ込んでると思ってはいたが、酒を飲まなきゃ殴れもしないとは思ってなかったぞ」


「…………うるさいわね」


「世界を滅ぼしかけたくせに、甘い所はとことん甘いよなお前」


「世界を滅ぼしかけたことは、貴方にだけは言われたくないわよ!」


「はんっ」


「あーもう!仕方ないじゃない!!私がきちんと教えなかったからヴィルが危険な事を危険と思わずにやっちゃったのよ!!こっちが殺される状況でもないし、お酒入れて軽くでも枷を緩めないと子供を傷付けることなんて出来ないのよ!!」


「あそこまでやる必要があったのか?下手したら死んでたぞ」


「何をやっても叶わない相手がいるってのを体験することがどれだけ大事かは貴方も知ってるでしょ!」


「まぁ、お前がそう思うならそうなんだろうな」


「何よ!?というか、ユニークスキルってあり得ないでしょ」


「キャラ変わってないかお前?」


「うるさい!お酒入れてるって言ったでしょ!!」


「酒飲んだら性格を変質させられるように自己暗示でも組み込んであるのか?」


「だからうるさい!今は私の事はどうでもいいでしょ!!ヴィルの方が大事よ!!!」


「…………はぁ」


「それで、どういうこと?」


「だから、そのガキのユニークスキルじゃないのか?魔法じゃないならユニークスキルでしかあり得んだろう」


「ユニークスキルは有能であっても万能ではないことくらい貴方も知ってるでしょ?」


「なら魔法か?そのガキ、随分と珍しい魔法の使い方をしてたが」


「…………ヴィルは現代式の魔法が使えないのよ」


「……………はぁ?」


「ヴィルは現代式の魔法が使えないって言ってるの!」


「それこそあり得んだろ、現代式の魔法は種族を問わず簡単に魔法が使えるようにってジニスの馬鹿がやらかした結果だぞ?」


「知らないわよ。ヴィルが魔法を使えるくらい成長してから私も練習に付き合ったけど、現代式を使う為の構成は何一つ間違ってないのに何故か発動しなかったのよ」


「……………」


「何よ?何か言いたい事でもあるのかしら?」


「いや、二次性徴を迎えたかどうかの確認をお前がしたのか?と思ってな」


「……………殺されたいのかしら?」


「冗談だ。まぁ、お前に襲われて筆下ろしさせられたならガキも喜んだんだろうと思っただけだ」


「………本当に殺してやろうかしら」


「今のお前じゃ俺は殺しきれないから諦めろ」


「知ってるわよ!本当にムカつくわね貴方は!!」


「それで、魔法が使えないはずのガキが何で魔法を使えるようになったんだ?」


「ヴィルが諦めずに色々と試して練習したのよ。結果、ヴィルは普通に魔法を組んでから発動する事が出来ないって事がわかったのよ」


「……………………そうか」


「どうかしたのかしら?」


「気にするな、続けてくれ」


「そう?まぁ、いいわ。現代式の魔法はかなり自由に色々出来るのは貴方も知っての通り、でもヴィルはそこにある物に魔力を通して魔法みたいに使うことしか出来なかった」


「…………………」


「料理に例えるなら、魔力という材料を使って自由に料理を出すのがジニスの現代式魔法。それに対してヴィルは、その場にある材料でしか料理出来ないって言えばいいのかしらね」


「わかりやすいようでわかりにくい例えだな」


「コンビニで好きなお弁当を選べるのがジニスの魔法。その場にある食材を探して料理をするしかないのがヴィルの魔法よ」


「どっちにしろわかりにくいが……コンビニなんてもんよく出て来たな」


「貴方と話していたからかしらね?私も久しぶりに思い出したわよ」


「………………そうか」


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