018「この指輪は一体何なんだろう?-5」

部屋の中央に立ち、ゆっくりと深呼吸をして眼を閉じる。


「我は汝と契約を望む者 我は汝と虚構と幻想の果てを目指す者 我は汝と想像と創造を築く者」


眼を開き、灰銀の色をした本を手にして魔力を通す。


「汝は我との軌跡を示し 我は汝との奇跡を示す」


最高に厨二らしく、無駄にかっこよく、無意味に難しく。


「模倣を積み上げ 贋作を並べ立て 現実を突き崩す」


こいつが望んでいるのはそういう物で、こいつが欲しているのはそういう者だから。


「誓いを此処に 決意を此処に 意志を此処に」


なら、俺はこいつにそう振る舞わなきゃいけない。


「我が名はヴィル 我が名を刻み 我が名に応えよ」


だから、お前も応えてくれよ?血を吐きそうなくらい恥ずかしいんだから。


「…………幻視ファントムヴィジョン図書館ライブラリー!!」


名前を告げた途端、身体からがっつり魔力を持っていかれた。


手に持っていたはずの灰銀の色をした本は淡く光を放ちながらふわふわと浮いている。


あー、駄目だわ立ってられない。


のろのろと床に座り込む、身体から魔力が枯渇するとこんな感じになるのね。


身体が怠い、動きたくない。


ふわふわ浮いていた本から光が消えてゆっくりと落ちて来たので、手を伸ばして捕まえる。


「なんか、装飾が増えてる?」


色は相変わらず灰色のような銀色だけど、黒で装飾がされて何やら高級な感じに。


表紙には【Phantom Vision Library】って筆記体で無駄にかっこよく書いてある。


あ、背表紙にも書いてあった。


裏には何だこれ?


「丸めた紙と万年筆か?」


裏表紙の中央辺りに丸められて紐で括られた紙と万年筆が描かれているけど、何のシンボルなんだろ?


本の中身はどうなったんだろうか。


最初のページには前書きの厨二文章、そこからページをめくっていくと、そこにあるのはぎっしりと書かれた文字。


「灰かぶり……マッチ売りの少女……人魚姫……桃太郎………金太郎……神隠し……狂宴の月………蒼穹………神々の黄昏………ポーション初級編?」


なんだこれ?題名か?


試しに灰かぶりの文字をなぞりながら魔力を込めてページをめくる、次のページからは灰かぶりの物語が綴られていた。


ページを戻しポーション初級編の文字をなぞりながら魔力を込めてページをめくる。


「………レーラさんの店で読んだポーションの作り方が書いてあった本と同じ内容だ」


数が多過ぎて全部は試せないけど、これはたぶん間違いない。


「これは想像以上だわ」


図書館というのは伊達じゃない。


「これ、前世を含めて俺が今までに読んだ本が全部記録されてないか?というか、本だけじゃなくてアニメとかエロゲのタイトルまであるんだけど」


魔力を流すとアニメが再生されるのだろうか?


「これが幻想と現実を蒐集する機構なら、模倣と贋作を研鑽する機構ってのは………」


ろくに魔力残ってなさそうだけど試せるかな?


想像するのは一振りの刀、炎を纏い、神を宿した少女と闘いを駆け抜けた刃。


無垢な魂は使命に燃え、出会った灯火から人を知り、恋を知り、愛を叫んだ少女の武器。


あらゆる困難と魔を自在に斬り裂き、折れず、曲がらず、ただひたすらに使い手を求め、己が認めた主の刃であり続けた刀を模倣して贋作として再現する。


「炎を此処に、叫べ」


手にしている本がバラバラにほどけページが舞い、集まりながら姿を変えていく。


「……………………綺麗だな」


風に遊ばれる花弁のように、何枚ものページが舞っている。


その光景に目を奪われていると、気が付けば手にしていた本は抜身の刀へ姿を変えていた。


「模倣した物語に登場する武器を贋作として作り出せるのか、すげぇな」


怠さの引かない身体で立ち上がり、刀を軽く振ってみる。


なんか、刀の形になったら本の姿をしていたときより重くなってんだけど、重量まで変わるとかファンタジーは何でもありなの?


何度か刀を振ってみる、男としてはまだそれほど身長が高くはないこの身体からすると結構この刀って大きいんだけど違和感なく振るえる。


「刀としては重いのに……………軽く感じるというか、すごい振りやすい」


冒険者になる為に何年も前から冒険者ギルドで剣の訓練はしてきた、訓練を指導してくれている先輩冒険者達から才能がないから剣を使うことは本当に諦めた方がいいと言われ続けていたけど。


刀なんて今まで持ったことなかったのに、自分の思った通りに動かせる。


楽しくなってきたので色々な方法で刀を振っていく。


何となく出来る気がしたから、ポケットに入れてあった銅貨を一枚取り出して宙に投げて刀を走らせてみるとスパッと二つに斬れた。


「何これ凄い」


自分でやったけど、何でこんなこと出来るのかがさっぱりわからんぞ。


二つに斬れた銅貨を拾う、切断面が綺麗すぎて怖いぞこれ。


剣の才能もなくて、魔法も使えるかわからなかったから冒険者として本当にやっていけるか結構不安だったけど、これなら何とかなるかもしれない。


「……………………………あれ?」


唐突に手にしていた刀の形が崩れ本のページに変わり、左手に集まって指輪へと形を変える。


もしかして、これ時間制限があるのか?


んー、それならそれでどれくらい使えるかとか検証する必要があるな。


ガクリと身体から力が抜けて、そのまま意識が落ちかかる。


あー、刀振るのが楽しくて忘れてたけど……魔力ほとんど残ってなかったんだっけ。


魔力が減ると身体が怠くなるんだから、魔力無くなったら意識落ちますよねー。




結構いい音をさせながら床に倒れた俺は、そのまま意識を落とした。

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