第8話 服部さんと幽霊


 俺がエントランスで悩んでいるとそこに服部さんの姿が見えた。

 仕事終わりかな? 相変わらず眠そうな目つきをしている。


「おはようございます、服部さん」


「おう、おはよう。昨日はよく眠れ……ん?」



 服部さんは俺の隣を凝視している。貞代はかなり霊圧の高い地縛霊なので、どうやら服部さんにはうっすらと姿が見えているらしい。



「あれ、おじさん疲れてんのかな……黒い影みたいなのが見える……」



 服部さんはしきりに目頭を揉んでいる。その顔は寝不足と疲労が溜まっているせいか、少しげっそりしていた。

 下手に怖がらせるのもダメだよな。それに巻き込むたくないし。

 俺は無言で姿を消すように貞代に目配せすると、彼女は少し悩んだ顔をしたがすぐに親指を立ててきた。


 あれ、ちゃんと伝わったのか……? 何か猛烈に嫌な予感がするんだけど。

 不安になって口を開こうとした瞬間、驚愕の事態が発生した。貞代がクッキリと姿を現したのだ。



『初めまして! 貞代と申します~』


「おぁあああっ!?」



 貞代の言葉に服部さんの目が見開かれた。これは完全に見えてる。

 お前、何やってんの!? 霊感の低い服部さんにもバッチリ見えてんぞ!?



「貞代、何やってんだ!? 姿見せてどーすんだよ!?」


『え? さっきのジェスチャー、姿見せろって意味じゃないんですか?』



 きょとんとした顔つきでそんなことを言う貞代に俺は天を仰いだ。

 これでは犯人を捕まえるどころか余計警戒されるだけではないか。

 案の定、貞代の姿を見てからというもの、服部さんの顔色がどんどん悪くなっていく。


「うぅ……急に寒気が……吐きそう……」


『大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ』



 貞代が心配そうな表情を浮かべながら、服部さんの背中をさすっている。その姿はまさに慈愛に満ちた聖母マリアそのもの。

 でも服部さんの不調ってお前のせいなんだけどな。背中を擦ってもらってる服部さんの顔色がどんどん悪くなってるし。


『あ、ありがとう……貞代ちゃん……? 君は優しいね。でも今は近づかないでくれるかな……?』


『どうしてです? 具合悪いんだったら私が看病しますよ?』


『いや……その……』



 服部さんが困った顔で俺を見る。そんな目で見られても俺だってどうしたらいいのか分からない。とりあえず、服部さんを落ち着かせよう。


「服部さん、お疲れのようですし、とりあえず座って話しませんか?」



 俺はエントランス前のベンチを指さした

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