第2話

コツコツと鉄の冷たい音を響かせお店に入ると,一斉に視線が彼女に向かって来た。

そりゃそうだ,彼女達には敵だからだ。同じ店で働こうがよっぽどでなければ皆が敵

さっきの一件があったからかマユは顔を俺に向け軽く微笑んだ。

敵地で他言は無用如く表情のみ。

それがここのルールでもあり,いかに自身をアピール出来るかにかかっている。

おれはマユの耳元で

「それでいいんだよ。マユいい感じ」

と,笑顔を向けていた

返事は無い。ただ彼女は優しい顔をしていた。


それから閉店までおれは外に居て店の中は分からなかった。たまに客を呼べた時店内に入ったが,接客をしていたのかあの顔を見る事は閉店まで無かった。


「おつかれー」


店内が明るくなりBGMが消える頃にはいつも

「あー…もう疲れたー」

そんな声しかない。

愛想紛れに

「おつかれ」

と言うと,あの客はどうだとか早く帰りたいの合唱。毎日そんなだから慣れたものだが,マユはもう店に戻ったのか姿は無かった。


なぜがっかりしてるんだろう…


あの子は決してナンバーを張れるような感じは無いしだからと不細工という訳でもずば抜けてもいない。ただ存在がない事が寂しかった。

系列店ではあるからまたいつか…そんな気持ちを持つしかなかった。


外はもううっすら明るみ始めていた。

送迎の為車のエンジンをかけに出ると同業者がわらわらといる。

「ねー飲みにいこーよー」

とあきらかに酔っ払ってる女の子の声まで聞こえる。


(ねー送迎何処まで出れる?)


インカムから聞こえた。

外せばいいもののいつ何があるか分からないと思うとつい付けたままになる


(店の子ならいつもので大丈夫っすよ)


(今日ヘルプ来た子居るんさ,送れる?)


あ…もしかして

(はい)

何故かいつも(うっす)と軽く言ってたのに,あの子の最初の言葉がふいに出てにやけていた

「なににやけてん!きもっ!!早く出してー」

そんな声が聞こえてたが,おれは辺りをきょろきょろ見渡し,その姿を見つけると顔が緩み自然と助手席を開けていた。


「マユちゃん。おいで」

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