しらたまにちぎりパン

あかはし陽菜子

第1話 英会話とハワイとスイミング

そうだ。英会話を勉強しよう。

英会話を勉強して、ハワイに行って、

肉とエビとパンケーキをお腹がちぎれるくらい食べよう。


それから、スイミングも習いたい。

子どもの頃習っていたのに、もう25m泳げるかすらわからない。

それに、平泳ぎのテストに合格してすぐにやめてしまったから、バタフライなんてチンプンカンプンだ。


もっとやりたいことを見つけて…もっと…やりたいことをやって…それから…


「山本さん、山本奈々さーん」


名前を呼ばれ、彼女は力なく立ち上がった。

これから彼女は死刑宣告を受けるのだ。


白く光るライト、

白く眩しい白衣、

目の前の医師は穏やかな顔をしていたが、彼女にとってはあまりに白すぎ、目が痛かった。


「山本さん…やはり今回も残念だけど…赤ちゃん…心拍が見えないんだ…。」

こんなに目が痛いのは何もかもが白すぎるせいだと思っていたのに、

こんどは息までうまく吸えない。

自分が声もなく泣いているのだ、と一瞬遅れて気がついた。


「初期の繋留流産だからね…この週数は何があるかわからないし、山本さんのせいでもない。

自然に起こってしまう、淘汰なんだよ。」


医学に基づいたその慰めも、彼女にはどこか遠く聞こえていた。


「それで…処置なんだけど、やっぱり早いほうがいい。そのままにしておくこともできるけど、突然大量に出血してしまうこともあるからね。明日入院、明後日の朝一番で処置しよう。またスタッフが説明するから、待合室で待っていてくれるかな。」


死刑宣告が終わった。

お腹のおおきな、幸せを体現したようなひとたちのたくさんいる待合室で、

自分もそうなると信じて疑っていなかった彼女はひとり、隠すこともなく泣いていた。


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