06●『未来少年コナン』(5)メカのリアリティ…“白亜の美艦:ガンボート”

06●『未来少年コナン』(5)メカのリアリティ…“白亜の美艦:ガンボート”



●アニメ史上最も美しい軍艦


 次に、ガンボートです。

 作品に登場する唯一の戦闘艦。

 純白のその雄姿も、実にリアルです。

 “アニメ史上、最も美しい軍艦”と言えるかもしれませんね。

 いや、筆者はそう断言したい!

 

 たとえば、史上最高に美しい戦艦といえば、英国海軍の“フッド”がよく挙げられます。筆者の個人的感想は、ドイツ海軍の“シャルンホルスト”ですが。

 とはいえ日本海軍の戦艦も独特の様式美が魅力です。

 何にせよ、大切なのは視覚的バランス。

 宇宙戦艦にありがちな大砲ハリネズミ状態は、強そうに見えてもナンセンスです。砲塔の下には回転機構があり、給弾システムがあり、厳重に守るべき弾庫などが合理的に配されていなくてはなりません。

 見えない部分に必要なものはきちんと収まっていることを感じさせてこそ、メカにリアリティが備わるというものです。


 その点、真横から見たガンボートのフォルムは目の保養。

 砲塔や上部構造物の程よい高さ比率、船首とマストと船尾が形作る三角形のバランスのよさ。この美しさは絶品です!



 ガンボートのサイズは全長58メートル、排水量415トンとされ、中国の紅箭ホウチェン型ミサイル艇とドイツのゲパルト級およびアルバトロス級ミサイル艇をミックスしたような外観。


 船体だけみると、中国海軍の037型(海南:ハイナン型)哨戒艇(全長約59メートル、430トン、28ノット)とほぼ一致します。ただし1960年代のロートル船。海自さんの駆潜艇で“うみたか型”“みずとり型”も似ていますが、これも1950~60年代に配備され、二十世紀の内に退役した船です。


 ガンボートの主砲は艦首に76ミリ単装砲。艦尾に57ミリ単装砲。

 露天艦橋の左右に23ミリ単装機関砲。

 船体のサイズといい、搭載兵器とその配置といい、申し分なく“現実にあり得るデザイン”に収まっているところがキモですね。



●煙突の謎


 ガンボートの機関は“ディーゼルガスタービン”とされています。

 ただ、ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンは別物なので、おそらく本来の設計では、低速時はディーゼル、高速時はガスタービンに切り替える複合推進方式だったということでしょう。

 とはいえ最高時速24ノットというのは、ガスタービン推進にしてはあまりにも低速です。

 “大変動”時点にあたる2008年頃の現実世界では、各国の似たサイズのミサイル艇は30ノット以上があたりまえで、とくにドイツのミサイル艇は、ディーゼル推進のみで30ノット以上を達成していることから、軍艦としてのガンボートは低性能の部類に入っていたことでしょう。


 なお煙突に相当する排気口は、レプカたちが立つ露天艦橋の直後のT字形マストのすぐ後方のデッキハウス天蓋部分に、平面形のスリットパネルで設置してあるものと思われます。

 第17~18話で、ガンボートを上方から俯瞰するカットがあり、畳みたいな形のスリットパネルが一枚ないし二枚、描かれています。


 しかし通常、ガスタービンの排気は高温で、風向きによっては前方の露天艦橋へ逆流し、レプカが背中アッチッチの照り焼き状態になることが危惧されます。

 おそらくは、スリットパネルに至るまでの煙路に高性能な熱回収システムが仕込んであり、低温のガスのみを排出し、回収熱は船内で湯沸かしにでも再利用するのでしょう。

 いすれにせよ排気はできるだけ低温化しないと、遠方から赤外線感知される恐れがありますしね。



●ミノフスキー程度の電波事情


 現実のミサイル艇ですと、後部の57ミリ砲塔の前にハープーンかエグゾセ対艦ミサイルを四発ほど搭載していそうなものですが、この未来世界では誘導ミサイルは何らかの原因で、無用の長物化したのでしょう。

 おそらく超磁力兵器の開発の一環で、強力な電磁場ジャミング技術が広まり、電測兵器や電波誘導兵器が無力化してしまったものと思われます。

 ファーストガンダムのミノフスキー粒子撒き撒き状態と同じような環境ですね。たぶん。


 ガンボートのオリジナルな外見は、第19話でモンスリーの回想に登場しています。

 当時から白色の船体でしたので、軍艦仕様ながら、沿岸警備隊コーストガードに移籍していたのかもしれません。

 このときミサイル兵装は既に撤去済み(もしくは未搭載)だったようで、ミサイル誘導に必要なレーダー等の電測兵器が艦上にみられません。


 超磁力兵器使用後のアフター“大変動”世界では、おそらく随所に電磁波の異常現象が発生して、通信電波も阻害されているのでしょう。

 モンスリーがサルベージ船のテリットに渡した携帯無線機のように、電波の到達レンジが限られていて、たとえば水平線や地平線の向こうには電波が届かず、通信不能になる、といった制約があるものと思われます。


 それに加えて……

 “大変動”後は電子機器の製造がおこなわれておらず、無線機そのものが次々と経年劣化で廃棄され、わずかな携帯無線機のみが使用可能……という、心細い通信環境であるのかもしれません。



●“幻の第三対空砲”はレーザー砲である(断定!)


 電波事情の悪さゆえ、電子誘導兵器が無力化された世界。

 そこでミサイル兵装は撤去(もしくは最初から搭載せず)して兵員を収容できる箱型の甲板室を設け、対空砲火として、艦橋左右に23ミリ単装砲塔を、そして煙突にあたる排気口の後方に、第三の対空砲塔を設置したのでしょう。


 この第三対空砲塔(仮称)は、場面によってあったりなかったりするので、“幻の第三対空砲塔”と化しています。

 ということは……

 適宜、甲板室の上部から出し入れする“隠顕いんけん式”なのですね。

 この砲塔は、一見すると12.7ミリ連装機関砲のような印象ですが、もしかするとレーザー対空砲かもしれません。そもそも23ミリ単装機関砲だけでは航空機の迎撃に不足ですし、貴重な弾丸を猛烈に消耗しますので、できれば光線兵器が欲しいところです。

 三角塔に収納している四連装レーザー砲が機能していることを考えますと、ガンボートにレーザー砲を搭載していても、部品供給とか保守管理が可能でしょう。

 砲塔が隠顕いんけん式であることも、デリケートなレーザーシステムを保護するためと考えれば、妥当な搭載方式です。


 ガスタービンエンジンは一般に、民生の即応型発電機としても用いられていますので、ガンボートはもっぱら燃料を食わないディーゼル(これだけで最高24ノット出せる)で航進し、ガスタービンはレーザー対空砲の励起電力を得るための発電機として保持していたのではないかと想像します。


 なにしろ現実に二十一世紀現在、マイクロガスタービン発電機をハイブリッド車の電源として搭載する例があるほどですから。



 とはいえ、このサイズの軍艦としては速力も武装も平凡であることは確か。

 そこで事実上、最小限の近接防衛能力を有する沿岸警備艇……といった用法にとどまっていたのではないでしょうか。

 その結果、敵の主力艦に対する作戦にもちいることはできず、それゆえ“大変動”のときは戦闘に参加することなく洋上に生き残ったのではないかと思います。


 主力艦……というのは第1話で、のこされ島の海岸で廃墟化していた戦艦タイプの軍艦がそうでしょうね。

 背負い式の連装主砲など、見た目は第二次大戦的でボロッチイですが、なんのなんの、あの主砲は電子式のショックカノンで、対空砲はパルスレーザーかレーザーポムポム砲、そして煙突ミサイルを装備していたのですよ、きっと。

 ちなみに『宇宙戦艦ヤマト』は1974年に放映、劇場公開は『未来少年コナン』の前年の77年です。

 

 さてガンボート。

 軍艦にしては、かなり低い舷側に丸窓が並んでいるのが気になります。

 非常時に破損しやすく、浸水の原因になりますから。

 現実に存在するミサイル艇や哨戒艇などでは、窓を並べた船体には、まずもってお目にかかれません。

 ただ例外的に、冒頭で触れた、中国海軍の037型(海南:ハイナン型)哨戒艇(全長約59メートル、430トン、28ノット)だけは、その船体に丸窓がずらり。ただしこの哨戒艇はおもに1960年代の建造で、古すぎます。

 しかしながら、さすがにガンボート。

 必要に応じて丸窓を閉鎖する仕組みがあるのですね。

 第18話で外海へでる際に、モンスリーの指示で舷窓の自動閉鎖を行っています。


  

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