第23話 ラキュアの案内 魔王城を進む

 魔界のモンスターは強かった。だが、本気を出したあたし達が戦えないほど強い相手でもなかった。


「エクスカリバー!」


 あたしの振るう聖剣から光の刃が迸り、戦場の敵を薙ぎ払っていく。

 ちなみにエクスカリバーと叫んでいるが、この聖剣の名前をあたしは知らない。ただ聖剣としか聞いてないので。

 だが、名前を叫ぶとやる気が出る。やる気は大事だ、パワーが出る。パワーは敵を倒す力となる。

 あたしはやる気になって敵を蹴散らしていく。


「極炎符、火の鳥!」


 天馬の投げた紙が空中で鳥の形となって折られ、炎を纏った火の鳥となって戦場の敵を焼き払っていく。


「ビッグトルネード!」


 美月の魔法? 化学で気圧でも変化させて起こしたのだろう巨大な竜巻が敵を巻き込んで吹き飛ばしていく。

 あたし達の戦いは順調だ。大分ザコが減ったなと思ったその時、魔王城の扉が開いて知っている奴が姿を現した。


「あなた達、戦いはそこまでです。持ち場にお戻りなさい」


 黒い服をまとったあいつは吸血鬼のラキュアだ。屋敷で暴れたあいつの名前をあたしは忘れない。

 やはり吸血鬼といえば漫画やゲームでも高位の存在のようにここでも偉いようだ。場のモンスター達が一瞬で言う事を聞いてこの場を去っていった。

 部下を下がらせてから彼女は偉そうに手で髪を払って言った。


「光栄に思いなさい、あなた達。魔王様がお会いになるって……」

「面白い、1対1でやろうってわけね」

「え? 話をちょっとお!」


 先手必勝。あたしはすぐに駆け寄って剣を振り降ろす。だが、身軽なあいつには避けられた。

 剣撃がさっきまで奴の立っていた場所を抉り、彼女は何か文句を言ってきた。


「話を聞きなさいよ、あなた達。魔王様があなた達に……」

「美月!」

「任せて! もう飛ばせない!」


 話は後で聞けばいい。あたしは別に1対1でやるとは言ってない。こいつが手強い事は分かっている。

 美月の投げた鎖が避けたばかりで次の行動を起こせないラキュアの体に綺麗に巻き付いて彼女を地面に引き倒した。


「ぐひゃあ!」

「よくやった二人とも。後は俺がやる!」

「どふぇいいい!」


 天馬の棒が勢いよくさっきまでラキュアの顔があった地面を叩く。鎖で翼まで縛ってるのに避けるのが上手い奴である。

 でも、これで終わりよ。


「チェックメイト!」


 あたしの聖剣がラキュアの避けた先の地面を突き刺し、彼女の逃げ道を塞いだ。鎖で縛られて倒れながらラキュアはとても驚いた顔をしていた。

 鎖で翼まで縛られては飛んで逃げることも出来ない。吸血鬼なら蝙蝠に変身しそうな気がするが、その時はすぐに刺すだけだ。

 あたし達は三人で奴を見下ろした。


「さあ、あんたのボスのところに案内してもらうわよ」

「怪しい真似をすればすぐに焼く」

「音波ももう効かないからね」


 見下ろすあたし達にラキュアは顔を震わせて叫んだ。


「だから、あんた達を案内する為に来たんだってばああ! あんた達、人の話を聞きなさいよおお!」


 何とラキュアは魔王のところまで案内してくれるという。だから周囲の魔物達も下がらせたんだとか。

 誠意を見せてくれるならそれでいい。美月が鎖を解いてやってあたし達は彼女に案内してもらう事にした。

 いつでも斬れるように心構えはしておいて。


「背後から殺気を感じるのですけど」

「気のせいよ。さっさと案内して」


 あたし達は魔王城の玄関を抜けて中へと入っていく。




 不気味な悪魔の像が並ぶ廊下をあたし達は歩いていく。辺りを照らすのは炎の灯りだけで電球とかは無いようだった。

 先導するラキュアは敵意を見せていないし辺りから殺気も感じないが、あたしは一応罠が無いか警戒する。


「トラップとかは無いでしょうね」

「ありませんわよ。わたくし達が日常的に使う場所ですのよ。あったら落ち着かないではありませんか」


 確かにそんな物が自分の家にあったら気分が落ち着かないだろう。あたしだって自分の屋敷にトラップなんてあったらそわそわとして落ち着かないと思う。

 仕掛けようとすれば両親だって反対するはずだ。

 ゲーム的にはありそうな気がするんだけど。こんな面倒で長いダンジョンの一番奥で暮らしているなんてボスの生活って大変そうと思ったものだ。

 今は現実に注意して案内するラキュアのあとをついていく。不意にあたしの横で天馬が動いた。


「ぎゃふん!」


 いきなり前を歩くラキュアを背中から押し倒し、そのまま首根っこを抑え込んで警戒するように四方を見た。だが、辺りには燃える炎と暗い廊下の壁があるだけだ。

 彼は警戒を緩めて立ち上がった。


「気のせいか。何かあればこの妖を盾にしようと思ったんだが」

「酷い! だから罠なんて無いって言ってるでしょおおおが!」

「悪かったな。職業柄、妖の言う事は疑う達なんだ」


 天馬は謝って彼女の首根っこから手を離した。あたしは天馬でも早とちりするのかと思ったが、気づいていなかっただけなんだ。

 魔王の放った小さな使い魔が廊下の陰からあたし達を監視していた事に。




 魔王はその様子を玉座に座ったまま映像で見ていた。


「勘の鋭い奴がいるようだな。後は来てからのお楽しみとしておくか」


 魔王はそれ以上の深追いを選ばなかった。指を弾くと静かに自分の使い魔を影に沈めて下がらせた。

 元よりこんな物は軽い余興だ。無理を通す必要など何も無かった。

 魔王はただ静かに笑いながら来る物を待ちわびた。




「今度こそ先に進みますわよ」


 倒された事で少し乱れた服をパンパンと叩いて直すラキュア。

 また歩き出す前に、今度声を上げたのは美月だった。


「怪しい物を持っていないか調べた方がいいと思うわ」

「ええ!? わたくしは何も持っていませんわよ」


 ラキュアの驚く反応からはそれが本当かどうか分からない。美月は見破ろうとするかのように詰め寄った。

 彼女は探偵だ。人を見抜いて犯人を追い詰める力がある。


「そういう人が一番怪しいの。敵を呼ぶ笛とかトラップを発動させるボタンとか持っているかもしれない」


 あたしと天馬はうなずきあい、左右からラキュアを抑え込んだ。


「ちょちょちょ、ちょっとーーー」

「あんたに疚しいところが無いならきちんと取り調べを受けられるはずよ」

「場所が妖の本拠地だ。念を入れるのは悪い事ではない」

「えええ!?」


 ラキュアは驚きながらも自分が潔白だと主張したいらしい。逃げ出す事はしなかった。犯人としては懸命な態度だ。


「わたくしはあんた達を案内しに来ただけなんですけどー!」

「職業柄、物を隠すのには慣れてるから。あたしがきちんと調べるよ」

「「任せた、美月」」

「え!? ちょ、ま、ひえーーーっ!」


 美月はラキュアの体を隅々まで調べていった。結果、魔物を呼ぶブザーやトラップを発動させるボタン等は持っていないようだった。

 取り調べが終わってラキュアは息を荒げて床に膝をついた。


「ぜはーぜはー、気が済んだら今度こそ先に進みますわよーーー! いつまでもあのお方を待たせるものじゃありませんわーーー!」


 彼女はちょっと涙目になっていた。


「あのお方」

「妖の王、魔王か……」 

「どんな奴なんだろうね」


 廊下の奥からは言いしれぬ闇を感じる。

 さすがにこれ以上ここで時間を使うのは得策では無い。あたし達は薄暗い廊下を進む事にした。

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