第14話 理事長の権力

 いよいよ聖剣に一番だと選ばれた者としての使命が本格化する予感をあたしは覚えるのだった。

 とは言ってもモンスターが現れない事にはあたしのやる事は基本的には無いのだった。

 まあ、別にモンスターに現れてここで暴れて欲しいわけではない。来る物が来ないなら、あたしは当初の予定通りこの学園の生活を送るだけだった。




 何事も起きることなく教室に到着。まあ、それが普通なんだけど初日からいろいろあるとつい身構えてしまう物もある。

 中学校に通うのもすっかり慣れたものだ。ここは自分の教室。そんなホーム感を感じるようになった。


「おはよう、綾辻さん」

「おはよう、京ちゃん」


 後ろの席の京といつものように挨拶を交わし、席に着く。やがてチャイムが鳴って先生が来た。

 起立して礼して着席する。どこの学校にでもある普通の光景。

 さあ、勉強の前のホームルームの時間だ。今日はどんな一日になるのやら。日本一の中学校のお手並み拝見。

 そう思っていると、先生が始める前にある事を言った。


「今日は皆さんに新しい友達を紹介します」

「ん? 転校生かな?」


 ざわざわとなる教室。こんなところもどこの学校でも変わらないようだ。あたしもどんなニューカマーがチャレンジャーとして現れるのか気になった。

 さて、どんな奴が現れるのか。期待して見てみよう。


「笹原さん、どうぞー」


 何かどこかで聞いたような現実を思いだす名前を先生が呼んで、そいつは教室に入ってきた。

 今日は珍しく緊張した面持ち。小柄な少女だ。教壇に立って彼女はみんなに挨拶した。


「笹原美月です。パパに頼んでB組から転クラスさせてもらいました。よろしくお願いします」

「転クラス!」


 転校生では無かったよ。飛び級に続いて驚くことをする奴である。思いっきり知っている顔だった。

 天馬の方を見るとたいして興味のない様子。京は驚いているようだった。


「転クラス……って何?」

「クラスを代わってきたんでしょ」

「何の為に?」

「そんなのあたしも知らないよ」


 まあ、美月ならたいした脅威にはならないだろう。本当にならないか? 昨日帰りに問い詰められそうになったのは記憶に新しいところだった。

 少し気を付けた方がいいかもしれない。あたしは美月の脳内データを更新した。

 彼女は可愛いし小さいので男子も女子も喜んでいた。一部の真面目な顔をして喜んでいないのは興味が無いか年上が好きなのだろう。


「じゃあ、笹原さんの席は……」

「あたし、あそこがいいです」


 先生のサーチを遮って身軽な美月が駆け寄ったのは、あたしの隣のオタクそうな男子の席だった。


「ねえ、そこどいてくれる?」

「何で僕が。ここは僕の席だブヒー」

「どうしても駄目?」

「可愛い子ぶっても無駄だブヒー。僕は3次元なんて信じない。2次元だけが友達なんだブヒー」


 隣の席の男子はこんな奴だったのか。あたしはこのクラスは今日が初めてではないが、話した事の無い奴の性格までは知らない。

 話してみないと人って分からないものである。

 後ろの席では京が不思議そうな顔をしていた。


「ねえ、綾辻さん。3次元とか2次元とかって何?」

「漫画の話だよ」


 あたしはナンバー1を目指しているが漫画も読んでいるのでこうした知識は知っている。

 まあ、詳しく話すような事では無いだろう。たいして重要ではない知識だ。それよりも美月が動いた。

 彼女は仕方ないなあといった態度を見せると、懐から何かを取り出した。

 それを見えないようにグーにして握ると、男子生徒の前に突きだした。


「これをよく見て」

「それが何だって言うんだブヒー」

「さんはい。パーーーン!」

「ふほああああ!」


 いきなり美月が開いた手の平から紙吹雪が飛び散って、男子生徒は驚いて椅子から転げ落ちた。

 その隙に美月は椅子に座ってしまい、床に倒れた男子生徒を見下した。


「席を空けてくれてありがとう」

「ふん、こんな席欲しいならくれてやるブヒ。これだから3次元は嫌なんだブヒー」


 男子生徒はぶつくさ言いながらもこれ以上関わりたくないと思ったようだ。不満そうに後ろの空いている席へと向かっていった。


「ブヒって何?」

「方言かキャラ付けじゃないの?」


 京の疑問に適当に答える。

 席が取れて美月は満足そうに笑っていた。


「これからは一緒に授業を受けられるね、お姉ちゃん」

「お姉ちゃん!?」


 驚いた声を上げたのは京だ。いきなり後ろの席で大声を上げるものだからあたしも驚いたが、今は気にせずに美月と話した。


「あんた、何で転クラスなんてしてきたの」

「もちろん、お姉ちゃんに会う為だよ。パパに頼んだの」

「理事長め」


 あたしは将来の女王として今の権力者の横暴に憤りを感じてしまう。

 でも、美月を責めることではない。今の自分の小ささを思い知るだけだ。

 さすが中学校。小学校とは違う。

 思いながら一時間目の授業が始まっていくのだった。

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