責任

 巻き込んでしまったことを後悔している龍牙は、夜飛び出し、ナキムシさんと田中を探していた。


「なにか少しでも……」


 どこにナキムシさんが出るかも分からないまま家から学校までを往復し、細かく探していると、何かを引きずっている音が龍牙の耳届く。それはあまりにも小さく、深夜で静かになっている町の中でも耳を澄まさなければ聞こえないほど。


「違うかもしれないけど、とりあえず行って確かめなきゃ」


 音が聞こえた方向に行くと、地面には引きずった跡をなぞるように地面に血が伸びている。


「これって……」


 まだ変色していない血を辿っていくと田中の靴が落ちていた。


「出たばかりの血だ。ってことはここら辺にいる」


 更に探そうとするが、空がしらみ出したことで諦めざるを得なかった。


「昨日勝手に出たな!」

「そんなの僕の勝手でしょ」

「兄貴に言われただろ。おふくろを心配させんなってよ!」


 朝食を食べている間、鬼の形相で苛立っている四男。家の中で喧嘩をすれば物が壊れてしまう事を恐れて我慢していたようだが、外に出た途端、怒りと少しの心配をまじえた声で龍牙に問いただした。気まずそうに龍牙は顔をらすも、その態度に青筋を立てたけいが龍牙の頬を殴り、反対側の家の塀近くまで飛ばされる。


「いった……」


 隣の家の塀に当たらないよう踏ん張った痕跡が地面に残っている。何か硬いもので地面を引きずらない限りつかないような跡だ。


あごが外れたらどうすんのさ」

「この程度で外れるかってんだ」

 

 切れた口の端を手の甲で拭い、慶を睨む龍牙。朝から大声で喧嘩する2人の声に、周りの住人たちがなんだなんだと外に出てくる。喧嘩を止めるために龍が入ろうにも、ヒートアップしている2人には聞こえていなかった。


「でも、僕のせいなんだ。だから僕が見つけなきゃ」

「俺と兄貴に言われてまだ分かんねぇのか。これ以上言って分かんねぇならばらすぞ」


 夜な夜な出て霊を食っている秘密を言われたら困る龍牙は何も言えず、不服そうに黙るが、言われっぱなしが嫌なのか、慶のお腹あたりに蹴りをくらわせて何か言われる前に学校へ走って行った。その様子を見ていた龍は苦笑いをしながら、慶の隣に立つ。


「思春期かよあいつ」

「それくらいの年だしね」


 蹴られた所の汚れを落とすかのように手で軽く払い、龍と共に学校へと向かっていく。



「ムカつく」


 全速力で走って学校についた途端、周りにいた悪霊が近づいて来るが、呼吸と一緒に龍牙の腹の中に入っていく。善霊悪霊関係なく入っていくからか、直ぐにお腹を抑え、苦しそうに眉間に皺が寄っている。


「おーい、龍牙」

「坂口……平気で良かった」


 駆け寄ってくる坂口の姿を確認し、少しだけイラつきから解放されたのか、ホッと息を吐いている。


「聞いたか、田中が」

「うん。昨日連絡来た」


 教室へ向かいながら項垂れる坂口。向かう最中の廊下などでは、行方不明となった田中の話題で持ちきりだった。その声が聞こえてくるたびに坂口の頭はどんどん下に垂れていく。


「どうしたらいいんだよ……」

「探すしかない。けど、僕外出禁止令くらってる……」

 

 四男と龍牙がいつもどこかしらで喧嘩しているのは皆が知っていたが、禁止されるようことをする人物ではない人が禁止令を出されたことに驚いていた。


「なにしたんだ?」

「夜出かけたら馬鹿兄貴にバレた」

「おまっ! マジか」


 落ち込んでいた坂口が龍牙の言葉で吹き出し、笑い始めた。笑うなよと言いたげな顔で口を尖らせるも、先程の暗い顔よりはいいかと考えたのか、龍牙は口角を少し上げて笑った。普段笑うことが少ない龍牙の笑顔を、ごく一部の同級生たちが見られたのはここだけの話。


 昼休み、2人は弁当を食べながらどうするか話し合っていた。


「1人になったら危ないよな」

「うん。でも、田中が居なくなった原因を探さなきゃ」

「どうやって探す?」

「昨日出かけた時、田中の靴と血を見つけたんだ。今日は時間の許す限りそこを調べる」


 朝、龍牙のお腹の中に入ってきた霊がまだ残っていたのか、少しだけ苦しそうに昼食を取っている。無鉄砲な計画をしようとしている2人に「警察に任せた方がいいよ」と伊藤が声をかけてくる。


「警察じゃ探すのが遅くなる」

「でも、子供じゃ探すの限られてくるよ」

「大丈夫。僕に策がある」


 弁当を鞄に戻し、にやりと笑う龍牙に面白そうだなとノリノリな坂口が前のめりになりながら龍牙に近づき、「教えろよ」というが、その時まで内緒と人差し指を立てて口の前に出す。

 そんな二人の様子を見ていた伊藤が呆れた顔をして自分の席へと戻っていった。


 夕方となり、公園に向かっている坂口と龍牙。その場には何故か伊藤もいた。家は反対方向なのだが、心配で学校から公園へ追いかけてきたのだろう。


「別にいなくてもいいだろ」

「心配だし、危ないから」

「女性1人の方が危ないでしょ」


 どうにか帰らせようとするが、頑なに帰らず、どうするか坂口と内緒話をする為に伊藤に背を向けた。後ろでは何を話しているのと伊藤が2人に声をかけている。


「どうするよ」

「無理矢理帰らす?」

「あんだけ言ってんのに帰らねぇんだぜ?」


 腕を組み、首を傾げる2人。細く息を吐き出した龍牙が伊藤に振り向く。


「伊藤さんの親から責任とれって言われても僕ら取れないし嫌だから、帰ってくれない?」

「でも」

「帰らないなら無理矢理にでも帰らすよ」


 坂口に目を瞑っているよう言い、手で目を覆って見えなくしたのを確認すると、深く息を吸い込んだ龍牙の足元の影が揺らぎ、湯気のように立ち上がり始める。独立したその時から龍牙の足元から影が無くなる。


「そ、それって」


 湯気が人の形を成した瞬間、青め後ずさりをする伊藤。有無を言わさず、伊藤を抱える黒い何かは、公園の隣にある二階建ての家を悠々に飛び越えるほど飛び、学校方面へと向かっていった。


「もう大丈夫」

「伊藤は帰ったのか?」

「うん、無理矢理だけと帰したよ」


 坂口が辺りを見回しているが、2人以外は公園に誰もいない。


「時間限られているしさっさと探そう」

「龍牙の秘密も気になるしな」


 公園から出た2人は学校へと戻っていく道を細かく探索しながら戻っていく。

 

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