第5話 救出劇

 ジョニー達三人はヒーラーちゃんを山賊に渡し荷車を曳いて移動を始めた。


(こいつらの事は後回しにして、取り敢えずはヒーラーちゃんを何とかしなきゃな)


 山賊の仲間は今は五人か。

 取り敢えず鑑定をして見た。


 ふむ、レベルは高くても十五だな。

 この世界の奴らは俺のレベルから考えると半分だから、そんなに強く無いな。


 ヒーラーちゃんは猿轡さるぐつわをされ両手足も縛られた状態で男二人に担がれてた。

 担いでる男たちは服の上からだがヒーラーちゃんの豊満な胸などを好き勝手に触ってる。

「許せないな。黒猫な俺ならこいつらを殺しても別に罪にはならないか」


 何故そんな思考になるのかも不思議だが、黒猫になった事でその辺りの道徳的な概念も変化があるのかな?


 俺は、物音を立てない様に恐らくアジトへと戻って行ってる山賊どもの後ろを、ミスリルエッジを咥えて追跡した。


 ヒーラーちゃんが意識を取り戻したようだが、今置かれている状況にどうしようもない事を悟り、その目から涙がこぼれた。


 俺は、静かに走り寄ってバドゥと呼ばれていたその中のリーダー格の男の喉を断ち切った。

 血が噴水の様に飛び散りこと切れた。

 罪悪感も恐怖感もわかない。


 慌ててヒーラーちゃんを下に落として俺を見た残り四人が「なんだこの黒猫……おいやっちまえ」と言いながら得物を持って俺を取り囲む。


 俺はミスリルエッジを咥えたまま、一人ずつ止めを刺して行った。

 全員を倒し終え、落とされたヒーラーちゃんの元に行き手足の拘束をミスリルエッジで切って解放した。


 自分の手で猿轡を外すと、ヒーラーちゃんは俺に「あなたは私を助けてくれたの?」と話しかけてきた。

「そうだ」と返事をしたつもりだったが、その場に流れた音は「ニャー」だった……


 俺は取り敢えず、ミスリルエッジをインベントリにしまい、ヒーラーちゃんの手を舐めた。

「ありがとう、君は私の王子様だね」そう言いながら豊かな胸に抱きしめてくれた。


 その時、森の中に「ガサガサ」と言う音が響き、狼の魔物が六匹ほど現れた。

「フォレストウルフ」レベル12と脳内に表示される。


 ヤバいなこいつらと戦うのは何とかなるがヒーラーちゃんを守りながらは厳しいかも。


 そう思ったが、狼たちは俺達二人には見向きもせずそこに倒れていた山賊達を食べ始めた。


 俺は「今のうちに離れよう」とヒーラーちゃんに声を掛けたが、その場に流れた音は「ニャーニャニャ」だったぜ……


 ヒーラーちゃんは衝撃的な光景を前にして、顔が青ざめたが俺を胸に抱きしめたまま、ゆっくりと森の出口に向かって後ずさって行った。


 狼たちに追われることも無く、無事に森の外に出る事が出来た。

さて、ジョニー達を許すわけにも行かないな。


 そのままファンダリアの街の方向へ向かって歩き始めたヒーラーちゃんが俺に話しかける。

「ありがとう。君のお陰で助かったわ。私はねマリアって言う名前なの。良かったら私の側にずっと一緒に居て欲しいな」


 俺はマリアの頬をペロッと舐めた。


「ざらざらしててくすぐったいよぉ、それはOKの返事なのかな?」


 今度はコクンと頭を下げた。


「君言葉が解るの? 凄い賢いんだね」


 そう言われたから、なんとなく胸を張ってみたぜ。

 そのまま二人で街道を街に向かっていると、荷車を曳きながら街に向かっていたジョニー達を見つけた。

 手ぶらで歩くのと、荷車を曳きながら進むのとでは、速度が違って当然だな。


 俺はマリアに草むらに隠れるように身振りで一生懸命伝えてインベントリからミスリルエッジを取り出し口に咥えた。


 マリアの表情はかなり青褪めている。

 鑑定したマリアはまだレベル5しかない。

 自分で仕返しをする事なんか到底無理だろう。


 俺は草むら伝いに奴らに近づく。

 そしてジョニーの足をめがけて、素早く切り付けた。


 ジョニーの右ひざから下が離れ落ちた。

 いきなりの事に、リンダとジェシカの二人が悲鳴を上げた。


「お前ら二人も同罪だ」と脳内で呟き、荷車の下から再び飛び出してリンダの右腕と、ジェシカの左腕を斬り飛ばした。


 俺は静かにその場を立ち去り、マリアの元に戻る。

 マリアが意を決した様に三人の元に近づいた。


「あらジョニーさん達、天罰でも当たったんですか?」


「お前はマリア……どうやって逃げ出したんだ。頼む助けてくれこのままじゃ三人とも死んでしまう」

「あら、私を山賊に売り飛ばした人のセリフとは思えないですね? 勝手に死ねばいいのに。でも足を失ってみじめに生きていく事の方があなたの罰には丁度いいかもしれないわ。命だけは助けてあげる。そこの二人もね」


 そう言い放って、ヒールを掛けて血を止めた。

「これで取り敢えずは死なないはずよ。帰り着くまでに魔物に襲われなければね。そう言えば私の冒険者証が無くなってるんですけど、ジョニーさんがお持ちになってたりしませんか? それと今の治療はパーティメンバーには無料ですけど、赤の他人には有料ですから一人五万ゴールドで十五万ゴールド請求させて頂きますね。後、先にギルドに戻って今日の出来事は報告させていただきますので、ギルドに戻って来たら捕まるかもしれませんよ?」


 そう言いながら、ジョニーの腰に付けたバッグから、マリアの冒険者証と、十五万ゴールド分の金貨を取り出して、その場を後にした。


 俺はマリアの後をゆっくりと歩いて付いて行く。

 俺がジョニー達の横を通ると、リンダが「ヒッ」と声を上げたが、知らん顔をして通り過ぎたぜ。


 街の外まで辿り着くと、再びマリアに抱かれて街へと入って行った。

 マリアが俺を抱いたままギルドに入り、ギルドの職員と何かを話していたが、職員からプレートを貰ってシルバーのチェーンを通して俺の首に掛けて来た。


「あのね、従魔登録をして、プレート掛けて無いと街の中だと色々と問題があるみたいだから、これを掛けててね。後登録に名前が必要だったから勝手に決めちゃったよ? あなたの名前は『テネブル』だよ。これからよろしくね」

 俺は「ああ、こちらこそよろしくな」と答えたが、その場に響き渡った音は「ニャニャァ」だったぜ……

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