第4話 人の世のしがらみ

 神殿で保護されてから、私の楽しみの一つは大神官様のお姿を見つける事だった。


 その美しいお姿をひとめ見る事が出来ると、とても幸せな気分になった。


 一年が経ち、痩せていた身体も少し肉が付き、私の髪も長くなった。すると、世話をしてくれる巫女様や神官様が、目も髪も、とても美しいですねと言ってくれるようになった。


 誰かには、『陽だまり姫』様に雰囲気がよく似ていると言われた。


 母様に似ていると言われるのは嬉しい。母様はその美しさゆえに、いまでも絵姿が出回っていると聞いた。


 伯爵様には、私の目や髪の色を汚いと忌み嫌われていたので、悪い色なのかと思っていたけど、神殿では皆さまからとても綺麗な色だと言われた。


 良かった、嬉しい。母様の大好きな父さまの色なのだ。


 ただ、伯爵様が嫌いだっただけなのだと分かって安心した。



 それから大神官様は、私には後ろ盾がいない事を心配して自分の姉の養女にすることにしたと言われた。


 私の出自は誰にも口外される事なく、大神官様とキルス様しか知らない事だった。


 だから、加護持ちらしい遠縁の娘を養女にしていたのだという事にすると言われた。


 自分の家から加護持ちが出たというのは、社会的地位の飾りになるそうで、なにも不思議な事ではないそうだ。


 キルス様に教えてもらったけど、大神官様は王様の二番目の王子様で、10才で神殿に来て、19才で大神官様になったそうだ。



 そして、キルス様は特級神官の位を持たれているけど、特級神官とは、大神官の下の位で、この国では3人しかいないらしく、その下に、一級、二級、三級、四級・・・三十級という風に序列がある。


 試験はかなり難しく、異例の速さで、飛び級で受かったのは大神官様で、その次がキルス様らしい。


 キルス様以外の特級神官様はお年を召しているそうだ。


 大神官様は、精霊の加護を二つも持っているので、一番目の王子様より人気が高かった。それで国が揉める事を嫌って神官の道を選ばれた尊いお方だそうだ。


 お姉さんが1人いて、この国の公爵家に降嫁されているので、そこの養女にするといわれるのだ。


「どうして私に後ろ盾がいるのですか大神官様?」


「そなたが心配なのだ。もうすぐ加護の鑑定があるが、もしも私の様に複数の加護を持っていれば、そなたが女性だという理由で欲しがる者が多く出るだろう。聖女に選ばれれば王族も加わるかもしれぬ。それ程に精霊の加護を複数持つ者は稀有であり、権力を持つ者には魅力があるのだ。守るのならば私一人より、力の強い貴族の後ろ盾があった方が良い」


「わかりました。大神官様。でも、ご迷惑ではないでしょうか?」


「私と姉は幼少より懇意にしている。気の合う者同士でお互いの事はよく分かっている。そなたの事も気に入るだろう」


 そんな事があるなんて知らなかった。


「はい、ありがとうございます。よろしくお願い致します」


 私が略式の拝礼をしたら、頭を撫でてくださった。


 この方の傍にいられたら、とても幸せだと思う。


 

 それから、少しして精霊の加護の鑑定が行われた。


 大聖堂で私だけの鑑定が行われるのだ。


 大神官様とキルス様、他は特級神官のお二人が立ち会われた。


 これは大神官様のご配慮によるものだと聞く。


 

「この水晶に、手を翳すのだ」


「はい」


「万物には全て精霊の力が宿る。そなたを加護する精霊は四大精霊のうちのどの力なのか分かる」


 私が手を翳した大きい水晶の玉は目まぐるしく色を変えながら光始めた。


「何と!」


 キルス様の声がした。


「「おおおっ」」


 特級神官様二人の声もする。


 私は眩しくて目を瞑ってしまった。


 ―――――カッ!!!


 より一層大きく光が増すと、少し収まったので目を開けた。


 水晶は虹色に輝いていた。


「フェリーチェは、四大精霊全ての加護を持って居る。これは大変な事だ」


「大神官様どうされますか?」


 すぐにキルス様がおっしゃった。


「私と同じ二つの加護持ちだという事にする。皆、よいな?」


「「「「はい、大神官様の仰せのままに」」」」



 大神官様の危惧はその後、大神官様が思っていたよりも酷い事になってしまった。


 大神殿に、恐ろしい数の貢ぎ物が貴族達から私宛に送られて来るのだ。私の事は伏せられているのに、何処から漏れたのか、複数の加護持ちが聖女候補として大神殿にいると噂が流れたのだ。


 貢ぎ物は大神官様の命で全て送り返された。大変な労力がかかったのだ。



「キルス、この噂の元は特級神官二人であろう?」


「・・・他には考えられません。片方だけなのか、それとも二人共なのか。どうやら貴族と癒着があると見た方が良いと思われます」


「うむ、フェリーチェに警護を付けた方が良いな」


「神殿騎士を二人付けましょう」


「それがよい」


 神殿付きの騎士は女性と男性ひとりずつ私に付けられた。大神殿の中でも必ず二人がどちらか付いているという形だ。


 仮にも特級神官が情報の漏洩をしているのならば、他にも協力者がいるだろうと思われるそうだ。


 特級神官が二人、大神官様に呼ばれ、問いただされた。


「何を仰います。私達は貴方様の僕、それをお疑いになられるとは何と最早嘆かわしい」


「左様に御座います。私達をお疑いになる前にその若造を調べてみられたらどうですか?」


「ほう、私がそなた達を年寄りだからと甘やかして好きにさせていたのが宜しくなかったのだろうな・・・言った事は無かったが、キルスはな、私の乳兄弟だ。私の為に身分を隠し、神殿に入った者よ。それを疑えと申すのか?」


「えっ!?それは、一体どういう?」


「精霊の加護の力を見せる事は控えていたが、そなたたちには見せる必要があるらしい」


「水よ戒めとなりこの者達の足を縛れ」


「な、なな何で御座いましょう!」


「ひっ、なにやら足に巻き付きましたぞ」


「精霊は、守護する者を害する者は冷酷に排除する。今後、神殿内の秘密を漏洩する事は相成らぬ。そなた達の足首が千切れて落ちるだろう。死ぬまでその印は消えぬ。信じられなければ試してみよ」


 年寄り二人の両足首には黒い、棘(いばら)が巻き付いた様な痕が残った。



 

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