第19章 扉の向こうからの通信
いつも通り夜が明ける前に目を覚ます大翔。昨日は、城の料理をたらふく食べて満足して帰って来た。飛鳥のドレス姿もまだ鮮明に思い出せ、鼓動が早くなる。1度深呼吸をして落ち着かせる。
大翔は、夢を見ていないか思い出す。リンネとはあの日夢で会ってからまだ1度も会っていない。あの時のことは、しっかり覚えていたので夢を見ても忘れている訳では無いと思った。
「リンネにも何があったのか話しておきたいけれど、そう簡単には会えないか・・・」
体を起こして、朝の鍛錬を始める。久々に飛鳥と組み手もした。
「今更だけど、大翔にはかなり手を抜いて貰っていたのね。あまり、力の差が無いと思ってたのが恥ずかしいな」
「ふふん、俺の凄さが分かって貰えたかな?」
「はいはい、分かりましたよ。というわけで・・・隙あり!」
飛鳥は、大翔が完全に油断しているところに仕掛けたが、大翔はそれを難なく避けた。
「残念、隙はありません」
「やっぱり、ダメですか」
「もっと、鍛錬を積まなきゃな?」
「ええ、頑張るわ。そして、大翔と隣で戦えるようになってみせるから」
「期待しているよ」
格上の相手を見つけると敵わないと判断すると、諦めて逃げたり、何度も立ち向かうことなどしないものだが飛鳥は違った。飛鳥は、必ず大翔に追いついてみせるという気持ちで勝負をしていた。そして、その気持ちは大翔にとって感謝するべきことだった。本当の事を知っても前と変わらない接し方をしてくれていたことが本当に嬉しかった。
鍛錬を終えて朝食を取っていると、大翔は何か違和感を感じた。ズボンのポケットを探ると何か入っている。取り出してみると、何かの電子機器が入っていた。飛鳥はそれを見ると
「それ、スマホ?」
と言った。
確かに、黒い液晶画面と電源用のボタンが付いていた。だが、大翔はこの世界にスマホなんて持って来ていない。何だか嫌な予感がしていた。
「いや、多分スマホじゃない」
「そうなの? でも、スマホだったら向こうの世界と連絡取れたりしたのかな?」
「流石に出来ないと思うが」
そう、ただのスマホなら繋がるはずが無い。しかし、飛鳥の言葉を聞いて大翔はこの機械は向こうの世界と連絡が取れるものだと予測する。そして、誰がこれを入れたのか容易に想像が付いた。
大翔が、この機械をどうするか悩んでいると、音が鳴り電話が掛かってきた。画面には、『おじいちゃん』と書かれた文字が出ている。飛鳥も同じ画面を見て、何故電話が掛かってきたのか不思議に思い大翔に聞いた。
「電話掛かってきてるみたいだけど、・・・出ないの?」
大翔としては、正直出たくなかったがずっと鳴らされたままなのも辛いと思い電話に出ることにした。画面に出ていたボタンを押すと、立体的なモニターが出て来た。そのモニターに映っていたのは
「ハロ~~、大翔元気にしとったか? 大翔の大好きなおじいちゃんだよ~」
案の定、大翔の祖父である清志だった。清志は、笑顔で手を振っていた。
大翔は、電源のボタンを押すが映像は消えない。
「ああ、無駄じゃよ。わしが、終了させないと消えないから」
「じゃあ、電源のボタン付けるなよ」
イライラしているせいで大翔の声は少し震えていた。
「全く、いきなり電源を落とそうとするとは、何て奴じゃ。そんな子に育てた覚えは無いぞ!」
「孫をいきなり異世界に送った、爺さんにそんなこと言われたくないんだけど」
「おお~、無事に着いたか。良かったの~、わしはもう心配で心配でご飯がおかわり出来なくなってのう」
「朝・昼・晩はまともに食べてるじゃねーか」
「ちゃんと3時のおやつも食べてるぞ」
「聞いてねぇよ。それより、この機械なんだよ?」
「えっ? スマホじゃけど?」
「スマホで、どうやって異世界にいる人間と連絡が取れるんだよ」
「いや~、現代の科学は素晴らしいのう。異世界に行った孫と電話が出来るなんて」
「科学の素晴らしさは認めるが、スマホにそんな機能は無えよ」
「まあ、そんなことはどうでも良いんじゃけど」
大翔は、持っていたスマホを壊そうとする。それを見た飛鳥が慌てて止める。
「お、落ち着いて大翔」
「放せ、飛鳥。このじじいだけは許せないんだ!」
「おや? 誰か居るのか?」
「あっ、はい。私が居ます」
「おお~、これはこれは綺麗なお嬢さんじゃな。名前を伺っても宜しいかな?」
「えっと、空月飛鳥って言います」
「空月? ひょっとして・・・」
「知っているんですか?」
「有名な剣術の名家だったはずじゃが・・・、いや、止めておこう。わしは、世良清志。そこにいる大翔の祖父じゃ」
「清志さんですか、はい、覚えました」
「わしの孫がいつも迷惑掛けてばかりじゃろう? すまんなぁ」
「いえ、そんな、私の方こそ、迷惑を掛けてばかりで、いつも助けて貰っています」
「そうか、なら良かった。ところで、飛鳥ちゃんは、料理などは出来るかの?」
「はい、大したものは作れませんけど」
「いや、大したことあるだろ。この前食べたオムレツとか、めちゃくちゃ上手かったぞ」
「練習すれば、大翔も作れるようになるよ」
「何じゃ、大翔。飛鳥ちゃんの手料理を食べたことがあるのか?」
「ん? ああ、俺が異世界に来たばかりの時に世話になってな、今は部屋を借りて交代で料理作ってんだよ」
「ふむふむ、なるほど。飛鳥ちゃんや」
「はい、何ですか?」
「今、恋人はいるのかな?」
「へっ? い、いません。居ないからね!」
「いや、何で俺に言うんだよ」
「いや、その・・・」
飛鳥は、恥ずかしくなってその場にしゃがみ込んでしまった。
「大翔よ」
「・・・何だよ」
「わし、ひ孫が見たい」
「すまん、今、何て言った?」
「ひ孫が見たいと言ったんじゃよ。そうじゃのう~、3人はひ孫の顔が見たいかの~」
「どうして、そういう話しになったんだ?」
「えっ? じゃから、飛鳥ちゃんと結婚して――」
「何で! そうなる!」
大翔は、慌てて飛鳥から話しが聞こえないように距離を取る。飛鳥は、まだ恥ずかしさで固まっている。さっきの話しは聞いていなかったようだ。
「だって、お主らかなり仲が良さげじゃったから、てっきり」
「俺と飛鳥は、そういうのじゃねー」
「それは、残念。綺麗じゃし、スタイルも良いし、おまけに料理も出来て愛想も良い。大翔のお嫁さんにはもったいないくらいじゃ」
「だから、そういうのじゃねーって言ってんだろ」
「それじゃあ、お前は飛鳥ちゃんのこと、どう思っとるんじゃ?」
「・・・それは」
「ふむ、まあこの話は終わりにするとしよう。元々、別の話があった訳じゃしな」
「別の話?」
「飛鳥ちゃんにも話しを聞いて貰おう。戻ってくれ」
大翔は、飛鳥の方に戻った。飛鳥も大分落ち着いたみたいだった。スマホを机の上に置いて、大翔と飛鳥は椅子に座った。
「それじゃあ、話しを始める前にお主らが異世界に来て何を知ったのか、教えて貰えるか?」
大翔は、初めて異世界に来た日の事や幻影という黒い影の存在を知ったことを話した。
「ふーむ、随分と大変だったみたいじゃの?」
「私達が体験したことは、清志さんも知っていたんですか?」
「幻影という存在がいることは知っておった。もちろん、訪問者のこともな」
「じじいは、この世界に来たことがあるんだよな?」
「ああ、勇者として召喚されたよ」
「えっ? 私と同じ?」
「飛鳥ちゃんも勇者だったのかい。それは、ちょうど良い」
「どういう事だ?」
「これは、あくまでわしの推測じゃが、恐らく世界のバランスを元に戻すには、勇者と訪問者2つの力が必要なのではないかと思うのじゃ」
「訪問者だけじゃ、ダメだってことか?」
「分からんがその可能性は高い」
「そういえば、ギアード王が話してくれて物語の中ではもう1人の勇者が助けに来たって言ってた」
「その、もう1人が訪問者の可能性もあるのか」
「大翔と私が力を合わせて、その影を倒すってことですか?」
「いや・・・」
「訪問者は、1人しか世界に存在しないが勇者は1人とは限らない。魔王が今4人いるって言ってたこと覚えてるか?」
「あ、それじゃあ、後3人勇者を探さないといけないってこと?」
「最低でも、3人だ。もしかしたら、それよりも多く存在しているかもしれない」
「そんなに多かったらどうやって、見つけたら良いのかしら?」
「勇者は、お互いに引かれ合う存在らしい。他の国に行けば見つかる可能性も高いじゃろう」
「じじいの時は、他に勇者がいたのか?」
「いや、わしの時はいなかったようじゃ」
「それじゃあ、これから私達はこの国の外に出て同じ勇者を探すことになるってこと?」
「まあ、そうなるな」
「どちらにせよ、勇者は魔王を倒す存在でもあるからの~。国の外に出るのは決まっているようなものじゃろ」
「そうですか」
「なあ、じじい」
「ん? どうした?」
「じじいは魔王を倒したのか?」
「・・・どういう事じゃ?」
「ギアード王が言っていたのは魔王を倒した時に魔力を使って、元の世界に帰すっていう話しだったからな。実際は、どうやって帰ったのか気になっただけだよ」
「そうか、その王様が言っている方法でわしも元の世界に帰って来たんじゃよ」
「それじゃあ、私魔王よりも先に影を先に倒した方が良いのかな?」
「いや、多分だけど、先に魔王のところに行った方が良いと思う」
「そ、そっか。う~ん、色々な話しを聞いて何だかよく分からなくなってきたな」
「ほっほっほ、それじゃあ、今日はこのくらいにしておこうかの」
「すみません、清志さん」
「構わんよ。わしもいきなり現れてすまんかったの」
「全くだ、俺はまだ許してないからな」
「別に、お前には言うとらんわい」
「ああ、そうかよ」
「それじゃあ、わしは電話切るけど、大丈夫か? 寂しくないか?」
「良いから、早く切れ」
「やれやれ、相変わらずじゃな。それじゃあ、飛鳥ちゃん、わしの孫をよろしく頼むな」
「えっ、わ、分かりました」
「それじゃあ、またの~」
最後は、陽気に別れを言って電話を切った清志だった。
「今の人が、大翔のおじいちゃんだったんだね」
「出来れば知られたくなかったけどな」
「でも、私は話せて楽しかったよ?」
「それ、本人の前では絶対に言うなよ。調子に乗るから」
「ふふっ、分かった」
大翔は、清志が電話を掛けてきたことを嫌がっていたみたいだが、飛鳥は、大翔と清志のやり取りを見て、少し羨ましくも思っていた。
その日は、清志から聞いたことが何処か本や記録として残っていないか、城の書斎に向かったが、これといった物は見つからなかった。
そして夜、大翔はベッドで寝ていたが何かに気付いて話しかける。
「こっちは、もう夜だぞ? 何か用事でもあるのか? じじい」
大翔の後ろには、スマホの映像を使って現れた清志がいた。
「わしの帰り方を聞いたのは何故じゃ?」
「始まりの樹のことを知っていたってことは、少なくとも普通に戻った訳じゃないと思ったんだ。だから、聞いたんだ」
「そうか」
「多分、俺を異世界に飛ばす時に案内した部屋、あの部屋から戻って来たんじゃないのか?」
「ああ、そうじゃよ。・・・影に挑み情けなく負けたわしは、もうすぐで本当は死んでしまうところだった。じゃが、誰かがわしを助けてくれて気付けばあの場所にいた」
「よく、あの場所がもう一度異世界への道になるって覚えてたな」
「覚えていたわけじゃない。ただ、その日になったら体が勝手に向かっていたんじゃよ」
「おかげで、俺は良い迷惑だけどな」
「そうじゃな」
「じじいからは、まだ聞きたいことがたくさんあるけど、今日はもう眠い。また、今度だ」
「ああ、分かった。・・・もう一つ聞いても良いか?」
「ん?」
「あの娘は、元気じゃったか?」
「リンネは、少しは元気になったと思う」
「そうか、リンネというのか。良かった」
「もういいか?」
「ああ、ありがとう。大翔。おやすみ」
映像を映していたスマホの電源が切れて、清志の姿も消えた。清志は、もうそこに居なかったが大翔は
「・・・おやすみ、じいちゃん」
と言った。
大翔の顔は、心なしか笑っているように見えた。異世界で本来聞くことの出来ない声を聞くことが出来たのは前代未聞の出来事だろう。大翔は、清志に文句を言うことが多かったが心の底では、喜びを感じていた。
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