10話 冒険者の階級


 翌朝、目覚めた僕とノルンは早々に宿屋を後にした。


「今日はどうするの? 冒険者なんとかってところに行くの?」


 ノルンは僕に問いかけてくる。


「そうだけど……いやだ?」


 もしノルンがいやだと言ったら、僕はその意見を尊重するつもりだ。薄々感づいてはいたけど、僕には冒険者としての才能がないみたいだし……。


 ミルヴァから更に大河沿いに進んだ場所にある村で、ひっそりと暮らそうかな……。もしくは、このままここで武器や防具に魔力付与エンチャントをする仕事に就くっていう手もある。


「いやじゃないよ。私……冒険者になりたい。そういうの……ちゃんとしなかったせいで捕まっちゃったから」


 そういえば、そんなことを話してたな。ノルンがいやじゃないと答えたので、僕が頭の中で考えていたことは全て無駄になった。


「それに……私、ロロの力になりたいの」

「ノルン…………面と向かってそんなことを言われると恥ずかしいよ……やめてよ……」

「ふふ」


 まあ確かに、ノルンには冒険者としての適性がありそうだし、ギルドで登録しておいた方が良いか。


 そうしておけば、僕が死ぬようなことがあっても食いっぱぐれるようなことはないだろう。


「でもロロ……冒険者って何なの? どうして登録しないと迷宮に入っちゃダメなの?」


 首をかしげるノルン。……そこからか。


「一番の理由は、迷宮がそれだけ複雑で危険な場所だからってことになるかな。基本的に、最深部まで調査された迷宮の地図は冒険者の間で共有されるんだけど、仮にもし、冒険者登録をしていない人が勝手に迷宮に入り込んで、破壊行為や盗掘行為を行った場合、地図が不正確になって迷宮の管理ができなくなっちゃうんだ」

「ちょっと難しい……」

「ま、要するに安全のためだよ」

「なるほど」


 どうやら理解してもらえたみたいだ。


「それじゃあ、冒険者は?」

「冒険者っていうのは、この国の許可のもとで迷宮を探索して資材や宝物を持ち帰ったり、魔物を倒して町の安全を守ったり、迷宮について調査したりする人たちのことなんだ」

「うん……」

「冒険者になればギルドで色々なサポートを受けることができるんだ。依頼を受諾したり、探索された迷宮の地図を買ったり、他にも実力に応じて色々と」

「やっぱり難しい……」


 頭を抱えるノルン。


「要するに捕まらない遺跡荒らし」

「なんとなくわかった!」

「そう……それはよかった……」


 僕が頑張ってした説明は全て無駄だった。僕……説明下手なのかな……。


「でも、もし捕まりそうになったときはどうやって冒険者だって知らせるの?」

「いい質問だね、ノルン。冒険者になると、身分を証明するペンダントがもらえるんだよ!」

「なんかすごそう……!」


 目を輝かせるノルン。


「加えて、ペンダントは階級によってその材質が変わっていくんだ」

「階級?」


 僕の言葉にノルンは首を傾げた。


「階級っていうのは冒険者としての実力を現すものだよ。全部で十階級あって、カッパー青銅ブロンズアイアンが下級、シルバーゴールド白銀プラチナが中級、魔銀ミスリル堅鋼アダマンタイト賢石オリハルコン、が上級、そして最上級の珠玉ジェムの順番に上がっていくんだ。まあ……一人前の冒険者として認められるのは中級からかな」

「ロロはどこなの?」


 その質問を待っていた。


「僕は中級のゴールド! 冒険者としてはそれなりに腕の立つ方なんじゃないかな。上級の人たちはもはや人間じゃないし!」

「すごいよ、ロロ」

「ふふ、そうでしょ。その証拠にここに金のペンダントが――――」


 ない。


「あ、あれ……?」

「どうしたのロロ?」


 きっと、グールの幻影に襲われた時だ。必死に抵抗するあまりペンダントを落としたことに気付かなかったんだ。


「……なくした。ペンダント、なくしちゃった」

「あらら」

「登録し直し……」


 ちなみに、ペンダントを消失した場合はパーティを組んでいる仲間に証明してもらえば再発行できるが、見捨てられた僕にその手は使えない。


「うぅ……あそこまで上り詰めるのに……だいぶ苦労したのに……何回も死にかけたのに……」

「仕方ないよロロ。元気出して?」


 ノルンが落ち込む僕の背中をさすって励ましてくれた。


「うん…………そうだね……」


 思えば、身の丈に合わない階級だったのかもしれない。これからは大人しく安全な迷宮での薬草採取や鉱石の採掘といった、簡単な依頼で生きていこう……。


 あれこれ話しながら歩いているうちに、とうとう冒険者ギルドについた。


 僕はノルンを連れて冒険者ギルドの中へ足を踏み入れる。

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