第10話 頭の整理

 竹千代は放心したまま座を持してきた。去る時の挨拶はしたが、何と言ったかは覚えていない。自室に戻って今、父と祖父から言われたことを整理することにした。

 このまま放心していても意味が無いと思い、少し気持ちを落ち着かせて整理することにした。これからの竹千代の人生を左右するものになりそうだから早めに考えをまとめておいた方が良いだろう。

 まず、祖父道閲と父信忠の関係だが仲違いをしているわけでは無かった。どうやら、安祥松平が松平宗家と言う立場になることに父があまり乗り気でないことが要因だという事だ。竹千代もどうしようかと考えたが、他家の事が良く分からないので結論が出せそうもない。しかし、いざという時はしっかりと見極める必要があだろう。味方と思っていたら面従腹背という事もあり得る話だ。むしろ、我が家こそがと思っている他家もいるかも知れない。どうするべきかと思ったが、むしろ敢えて自分から言わない方が良いのかも知れないと思いたった。我が家門が三河の松平を統帥すると、声高らかに言うのではなく周りの他家が押し上げていく形が理想であろうと。その中で賛意を示さない家に対して圧力をかけていくのが良いのではないかと考えた。

 ここまで考えてハッと、何をもう家督相続を終えたつもりになっているのかと自制した。せっかくまだ家督を相続していないため、俯瞰して物事を判断できる立場にいるのに、まだ描き始めてもない絵の完成の形を想像してしまっている。前のめりになるのはあまり良くないと、既に達観している。ただ、意外に自分が乗り気になっていることに気づいた。悪い気はしないという感じだ。少し恐怖も感じる。器かどうかは分からないが、権力に興味を持っている自分が怖く感じるのだ。いままでそういう風には考えてこなかったが、自分には支配欲というものがあるのだと気づかされた。度を越した欲は身を滅ぼしかねないと、書物などから学んできているためである。慎まねばならない。

 混乱してきたため、この問題はもう少し後で考えることにした。先送りではなく、今判断するには自分を客観的に見れていないと思ったからである。もう少し時間をおいた方がよいと考えた。

 次に井田野の裏話をいうことで聞かされた話であるが、そもそも合戦と呼べるものでは無かったという事だ。戦う前に既に決していたという事である。戦は謀略等により無血による決着が最上であるという事が学べた。どうも武家は腕力に頼りがちであり、確かに戦記ものを読んでも勇壮な武士たちの活躍が主である。次には鮮やかな戦略による知略による決着が記録として残るくらいで、謀略等の一見卑怯に思えることが実は最も効果的であること学べた。祖父も父も代々このようなことを祖先より教えられてきたのであろう。自分も今後の事を考えるとこれらを学ぶ必要があると思った。

 最後に整理すべきことは、松平が将軍にと言う立場を目指すという事だ。どう考えても荒唐無稽であり、目指すこと自体には意味がないと思う。意味は無いかも知れないが、意義についてはどうだろうか。征夷大将軍はこの日本における、武士たちを統帥するということになる。古来の征夷大将軍達は武家の官位としては頂点に立った時、天下の平穏を願っていただろう。しかし結果は争いが収まることは無く、戦乱の世の中が続いているだけであった。今もそうだ、恐れ多いが今の足利家は日本全体の武家を掌握する力は無く、家来たちの傀儡となっているのが実情だ。そもそも戦により領土を拡大したりするという行為が闇に認められているような世間においては、将軍としては機能していないと思える。ここは正す必要がるのは間違いないと思った。しかし、果たして我ら松平がそのような器であろうか。答えは出ない。が、家督を相続してのち、身にかかる火の粉は払っていかなければならない。そうしていくうちにいずれ征夷大将軍という立場にならなくてはいけない時が来るのであろうとも考える。ただし、名乗ればよいというのではなく、あくまでも帝から拝戴するものである。であるならば、家督を継いだ時に進むべきは京の方に行くべきだろうと思われた。申し訳ないが足利家は京より退出していただく必要があるであろう。将軍になれるかどうかは分からないが、進むべき方向はなんとなくだが定まってきた。まずは織田家をなんとかすべきであろうと。






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