第二話 能力吸収(スキルドレイン)発動

 モンスターに追いかけられ民家に逃げ込むと、出てきたのは深緑色の髪をした、色白で小柄な女の子だった。

 ぱっちりとした目をキラキラと輝かせた様子がまるで人懐っこい子犬の様だ。


「ひとつ聞いて良いかな。 ここは……どこ?」

「ここは西の都から更に西のエルブ地方です。 周りには何もなくて説明が難しいんですよね…… 西の都からは馬車で2日程です!」


 どうやらここは人里離れた田舎らしい。

 見知らぬ土地への瞬間移動といい、さっきのモンスターといい、いったい何が起きているんだろうか。

——もしかしてこれが異世界ってやつか……?


「あっ、私はセリカと言います。こんなところまでお客さんが来てくれるなんて嬉しいです!」

「俺はレン、さっきまで家に居たのに気付いたらこんな所に居て困ってるんだけど……」

「気づいたら……? レンさんの”能力スキル”は空間転移テレポートなんですか?」


 能力スキル? そんなものはない、勉強も運動も苦手だ。

 でも空間転移テレポートなんて言っているし、この世界で言う能力スキルというのは俺が思っているのとはまた違う意味なのかもしれない。 


能力スキルって……?」

「え、分からないんですか!? もしかして記憶が……?」


 セリカは驚きながらも話を続ける。


「みんな1人1つだけ"能力スキル"を持っていて、空間転移テレポートというのはこの能力スキルの一つで、行きたい場所にひとっ飛びできる便利な能力スキルですよ! 試しにやってみますね」

「お願いしてもいいですか」

「まずは自分が行きたい場所をイメージして…… その後そこに自分が入れる大きさの輪っかをイメージします」


 セリカは目を瞑り説明している。

 その最中、俺の視界の中心に文字が映る。


 “能力吸収スキルドレイン発動 空間転移テレポートを会得しました”


 会得? 俺は空間転移テレポートできる様になったのか?

 俺の困惑はつゆ知らず、セリカは続ける。


「次にできた輪っかを複製して今の自分の前に置くイメージをすると……」


 セリカがそう言った瞬間、目の前に黒い大きな穴が現れた。


「これが転移穴ポートホールです!」


 にわかには信じがたいが、セリカの言ってる事は本当みたいだ。

 穴の中には外の景色が広がっており、入れば瞬時に移動できそうだ。


「俺も試しにやってみるか」


 セリカが呟いていた手順を試してみる。


「行き先をイメージして……どうだ!」


 自分がイメージした場所と目の前に細く強靭な糸が張られる感覚がした。

 そっと目を開けると、そこには先ほど見た様な黒い大きな穴が出現していた。


「あれ、本当にできちゃった……」


 目の前に現れた転移穴ポートホールにセリカも驚いている。


「すごい! レンさんの能力スキル空間転移テレポートなんですね! 私同じ能力スキルを持っている人なんて、お父さんお母さん以外で初めてみました!」

「どうやらそうみたいだな、でもこれなら能力スキルを使って家にも帰れるんじゃ」


 試しに現実世界をイメージしながら空間転移テレポートをしてみる。

 何も起きない。


「ダメか……」

「え、なんでなんでしょう……」


 もしやとは思ったが、そう簡単には現実世界には帰れないらしい。


「そういえばセリカはここに一人で住んでるのか?」


さっきから気になっていたが、この家にはこのセリカ以外に気配がしない。


「はい!今は一人で住んでます!」

「何でこんなところに一人で住んでるんだ?」

「2年程前に父と母が王都に招集されまして、私は一人でお留守番をしています! 毎月手紙を送ってくれていたのですが、半年前くらいから手紙が届かないので、忙しいんだと思います!」

「せっかく空間転移テレポートができる訳だし、王都とやらに行ってみれば?」

「私もできればそうしたいんですが、王都に行った事がないので転移先をイメージできなくて……」


 確かに行った事がない場所はイメージできない。

 便利な能力スキルではあるが、一定の制約はあるらしい。


 その時だった、突然背後から人の声が聞こえた。

 振り返るとすぐに扉が開き、鎧を纏った3人の兵士が家に入ってきた。


「見ろ、転移穴ポートホールがあるぞ、やはりここで間違いないみたいだな。 娘も空間転移テレポート持ちとは。 そこの少女、王都へ同行してもらう」


 そう言うと兵士はセリカに近づき、無理やり腕を掴んだ。


「え……?」


 突然のことに動揺したセリカは言葉を失っている様だ。

 王都に行ける、それはセリカが望んでいることだろう。

 だがこんな犯罪者の様な扱いを受ける必要があるのだろうか。

 もしかするとセリカは何か事件に巻き込まれているのか?


 俺はここで屈強な兵士に立ち向かう勇気なんてない。

 運動がからっきしなんだから、当然ケンカも弱い。

 セリカはまだ出会ったばかりの殆ど他人だ、俺が出しゃばる必要もない。


 セリカと目が合う。さっきまでの嬉しそうな表情は消え、

 不安に満ちた表情をしている。

 胸の奥からゾワっとした感覚が吹き出すのを感じる。


「待って下さいよ」


 思わず口から出てしまった。


「何だ? ガキが、テメェに用はねえんだよ。 面倒なことに巻き込まれたくなかったら何も見なかったことにして帰るんだな」


 紅い鎧を着た大きな身体の兵士が俺を睨みつける。

 あまりの迫力に身体が怯む。


「ちょっと落ち着いて下さいよ。こんな小さな女の子が何し……」


 ——突然腹部に鈍い痛みが走る、呼吸ができない。

 自分が殴られたということに気づくまでに数秒かかった。

 見事なボディブローだった。早すぎて見えない。


「めんどくせぇ、こいつ消しとくか」


 そう言うと殴ってきた兵士が細い針の様な変わった形の剣を引き抜いた。


「そこまですることはないのでは……」

「ここで殺すと後々報告が……」


 周りの兵士が制止するも、この男は止まらない。


「この四剣聖、アウゼスに殺してもらえるんだからテメェは幸せだよなあ。」


 アウゼスという男は狂気じみた笑顔を見せている。

 人を殺すことに何も躊躇がないのだろう。


「冥土の土産に俺の能力スキルを教えてやるよ。 

 俺の能力スキルは”高速振動バイブレーション"、身近なものなら何でも振動させる事ができる。

 ご想像の通り、この振動する剣は切れ味が抜群でな。

 斬られたことすら気づかない内に死ねるぞ」

「や、やめてください!!」


 セリカが叫んでいる。

 遠くに空間転移テレポートしようにもこの世界の事を知らなすぎて、咄嗟にイメージできる場所がない。逃げられない、戦えない。


 待てよ、一つ気になる事がある。

 セリカはさっき能力スキルは一人ひとつと言っていたが、本当にそうなのか?


 アウゼスが持っている剣がキィーンと甲高い音を放ち始める。

 床も、壁、そして俺の身体も小刻みに振動を始める。

 その時、先程と同様にまた視界の中心に文字が映った。


 “能力吸収スキルドレイン発動 高速振動バイブレーションを会得しました”


「試してみるしかないか……」

「反抗してくるか、それでこそ殺しがいがあるってもんよ。」


 アウゼスはゆっくりと剣を構える。

 俺はアウゼスの身体に意識を向ける。

 どこだ、どこに振動を送れば相手を無力化できる。


 ——そうだ、ここなら!

 手を相手の体に向け、振動を送り込むイメージを強く放つ。


「くらえ!! 高速振動バイブレーション!!」

「何っ!?」


 アウゼスは突然その場で跪いた。

 他の兵士も突然のことに動揺している。


「セリカ、こっちに来い!! どこでも良いから空間転移テレポートを!」

「わ、分かりました!」


 すると目の前に転移穴ポートホールが現れる。

 俺は走ってきたセリカを抱き抱え、穴の中に身を投げた。


〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜



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