第21話 全ての答え

 その日は、土地神様の様子がいつもと違っていました。

 日課となっている朝の街堀りには行かず、朝食をとっている聖女様とあたしの処へやってくると


「発見シタ」


 と、仰ったのです。


「何を発見されたのですか?」


「全テヲ」


 全てを発見した、とは何とも意味深な言葉です。

 全てってなんでしょう?

 蒸気を使ったお料理レシピの全てだったりするんでしょうか?


中央優先論理管理者セントナルプリセンダンスロジックアドミニストレーターガ必要。コチラニ来テ」


 ちゅう・・・かんりしゃ?え?

 今日の土地神様の言葉は難しくてよくわかりません。

 聖女様の表情を伺ってみますと、聖女様でもよくわかっていないのです。

 結局、二人で顔を見合わせてついて行くことにしました。


 土地神様の階段の上り下りの仕方は、ちょっと面白いのです。

 黒い石の急階段には横に溝があって、土地神様は両足の車輪を溝にカチリとはめ込めるようになっています。

 すると溝に完全にかみ合った車輪がゆるゆると回転して土地神様を地上へと降ろしていくのです。昇るときはその逆です。


 ただ、登りは動力が必要なようで蒸気が足りないと登り途中で力つきて地上までゆるゆると降りていくときがあります。2回ほど目撃しましたが、ちょっと土地神様は面目なさげでにされるのが、またかわいらしいのです。


 とにかくも地上に降り立ちますと、改めて神殿ピラミッドの高さと掘り下げた土地神様の労力の大きさに驚きます。


「すごいですね・・・100フィートぐらいありそう」


「そんなものでは済まないでしょう。もっとあると思います」


 毎日高さが変わるので正確なところはわかりませんが、王国のお城よりも高く立派な建物であることは確かです。


「それにしても、これだけ重そうな建物なのに砂地に沈んだりしないのでしょうか」


「リリア、おそらくピラミッドは見えているものが全てではありません。何らかの地下室か建物の土台となる構造物があるのでしょう」


「正シイ」


 土地神様が返事をすると、ピラミッドの地上部分の一部が音もなく開きました。

 黒い石が移動して入口が開いたのでなく、一瞬で石が消えて通路になった、という言い方が正しいかもしれません。


「コノ奥ダ」


 黒い石で出来た通路には石の隙間がぼうっと青い光が灯っているので蝋燭や松明は必要なさそうです。

 土地神様が立って歩ける程に高い天井の通路を、聖女様とあたしは覚悟を決めてついて行きました。


 迂闊だ、とか不用心だ、と言われればそれまでですが、あまりにも超常的な出来事で現実感が薄かったのと、これまでの土地神様の行動から酷いことにはならないだろう、という楽観があったからです。


 少し下りになった通路をしばらく真っ直ぐに歩いていきますと、、やがて巨大な空間に出ました。部屋ではありません。空間です。


 空間にも例の通路と同じ青い明かりが灯っていたおかげで、あたしは全景を見渡すことができました。

 高さも奥行きも外から見たピラミッドと同じくらいの広さに見えます。

 おそらくは黒い石のピラミッドはほとんど空洞で、この空間を覆うためのガワに過ぎなかったのです。


 その広大な空間の真ん中には、巨大な柱が束になったような円柱状の何か、がありました。

 円柱というには少し輪郭がぼやけているようです。


 聖女様と一緒に、あたし達は目をこらしながらゆっくりと柱に近づきました。


「これは・・・!」


「はぐる・・・ま・・・?」


 それは横向きになった歯車が何千、ひょっとすると何万も真っ直ぐに積み曲げられた構造物だったのです。その巨大な歯車の柱は隣の同じくらい巨大な歯車の柱と完璧にかみ合わさっていて、その柱もまた隣の歯車とかみ合わさっています。


 歯車の数は全体で難百万、見えていない部分も合わせると何億もあるかもしれません。

 とてつもない数です。

 青い光を反射する歯車達はどれもたった今製造されたばかりのように滑らかな表面を誇り、今にも協調して動き出しそうなのです。


「聖女様・・・これはいったい何でしょう?時計・・・でしょうか?」


「いいえ。これは・・・機械式計算機・・・階差機関ディファレンスエンジン・・・?それにしても何て複雑で巨大な!!」


 両腕を振りあげて、聖女様が興奮しています。

 眼鏡の奥の目が血走って、今にも鼻血を吹いて倒れそうです。


「全テヲ 見ツケタ」


 土地神様の言葉は、広大な地下空間に吸い込まれていきました。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「くそっ!無能どもめ!なぜ命令通りに動かない!」


 王子の軍団は孤立し敵軍の猛反撃に遭っていました。

 敵地の奥深くまで踏み込み過ぎた結果、ようやく戦力を糾合した敵軍の逆包囲を受ける結果になったのです。


「反撃せよ!」


 命令に従い大砲カノン王国小銃キングスライフルが火を吹きます。

 これまでの経験によれば、それで敵軍は崩れ包囲の一角に穴が開くはずです。


「なぜ崩れない!!」


 しかし敵軍の士気は高く一斉射では崩れません。

 戦列を維持しつつジリジリと寄せてきます。


 王国軍は宣戦布告なしの開戦と進軍の略奪で敵国の恨みを買いすぎました。


 今や戦争は貴族同士の権力遊技パワーゲームでなく、国家と国民の生存をかけた総力戦へと様相を変えてきていたのです。


 いかに武装が優れていようとも、山賊気分で弱い敵ばかりを倒してきた徴集兵と、国土と国民を守るために王国への恨みで団結した国民兵では士気が根本的に違います。


 武装で優位なはずの王国兵は気迫におされるようにジリジリと後退を続けます。


「なぜだ!なぜ兵は私の命令通りに動かないのだ!」


 王子様の叫びが戦場に虚しく響きわたります。

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