第13話 美少女後輩に会話と笑顔を添えて

「そういえば先輩、校外学習どこ行くんですか?」


班決めが完了した次の日、俺はいつものように中庭近くの段差に腰掛けて昼食を食べていると、ふと思い出したように聞いてきた。


あの初対面以来、特に示し合わすこともなく2人で昼食を摂るようになって約2ヶ月。


何か起こるわけでもなく、ただお互い段差の端っこに座って弁当を食べる。そんな側から見れば味気のない食事。けれど特にここを離れる理由が見当たらなかった。


まぁ有り体に言えば、悪くない空間であったのだ。


「先輩?」


「……ん?あぁ、校外学習な。白馬村でアクティビティ体験だとよ」


「へぇ……。先輩アクティビティとか全然似合わなさそうですね」


「うっせぇ。自覚あんだからこれ以上掘り下げてくんな」


「あっ……すみません。日陰者の先輩に対して酷いことを……」


「おいこら。さらに追い討ちかけてんじゃねぇか」


チラッと横を見ると、音無は楽しそうに声を殺して笑っていた。


やっぱこいつ美人だよなぁ。


艶やかな黒髪にくっきりとした二重の目。鼻もすらっと一本の筋が通ったように整っており、顔のパーツどこを取っても褒め言葉しか出てこない。


まぁそんなこと言ってしまうとセクハラだのなんだので騒がれるから絶対に言わんが。


「つうかお前もこんな日陰で毎日飯食ってるってことは実は日陰者なんじゃねぇのか?」


「むっ。失礼な。私にだって友達ぐらいいますよ!ここは居心地がいいので毎日来ているだけです。というか先輩こそ絶対友達いないでしょ!」


「そんなことねぇよ!クラスで話すやつぐらいいるっての」


「……先輩?イマジナリーフレンドは無しですよ?」


「ちげぇから!実在するから!」


やめて!そんな目で見ないで!


「あ、先輩先輩。私、五平餅いいですよ?」


「あん?なんの話だ?」


「もー。お土産ですよ!」


「なんでお前に買ってこにゃならんのだ」


「お世話してるじゃないですか」


「お前がいつ俺にお世話したんだよ」


「日陰者の可哀想な先輩と毎日お昼ご飯を食べてあげてます」


「後から来たのお前の方だろうが……」


つうか五平餅ってチョイスが渋すぎんだろ。いいのか女子高生。


「知ってると思いますけど、私達は北海道ですよ」


「あー、らしいな」


「らしいなって、先輩去年行ったんじゃないんですか?」


「ん?あぁ言ってなかったっけ。俺2年から編入してきたんだよ」


「え、そうだったんですか!?どうりでこの学校のことについて疎いなぁと思ってたんですよ。前はどこの高校に通ってたんですか?」


「いや、通信制の高校に通ってた」


「あ、そうだったんですか」


音無は興味津々だったが、それを聞いて少し申し訳なさそうに前を向き直した。


全く。これだから憎めないんだこの後輩は。


「お前が思ってるようなことはなかったぞ。ちょっと事故にあって高校に通うのが当分難しいってなったから、ちょうど引っ越しすることになってたし2年からの編入に向けて通信制にしたってだけだ」


本当のところはそうではない。けれど音無の不安を取り除くのがこれが最適解だろう。


「そうなんですか。もう怪我の方は大丈夫なんですか?」


「あぁもうとっくに治ってる。体育だってバリバリ動き回ってるしな」


「ふふっ、先輩ドッチボールとかでも端っこで当てられないようにするタイプでしょ」


「ふっ、甘いな。俺レベルになると最初から外野に出とくかすぐに当たる」


「チームプレイとしては最悪ですね……」


そんな言葉のキャッチボールも、予鈴を合図にして終了する。


「んじゃ、また明日な」


「はい。また明日です」


そう言って俺は先に立ち上がって教室へ戻ろうとする。しかし音無に呼び止められた。


「あ、先輩!私からのお土産、楽しみにしてて下さいね!」


「なんだ、蟹でもくれんのか?」


「カニカマでいいですか?」


「カニカマの主原料って最近じゃ蟹じゃなくてスケトウダラっていう魚のすり身らしいぞ」


「えっ、詐欺じゃないですか」


「ま、カニ風味蒲鉾なんだし、ミラノ風ドリアみたいな感じで蟹を感じれればいいんだよ」


「ぷっ、なんですかそれ」


吹き出す音無しだが、途端に俯いてソワソワし出した。顔もどことなく赤くなってきている気がする。


「せ、先輩。その……」


「は、はい。なんでしょう」


その緊張感が俺にも伝わってきて、ついつい敬語を使ってしまった。


え?なに?俺なんかした?


「……れ、連絡先!お、教えていただいてもよろしいでしょうか……」


徐々に声が小さくなっていたが、俺は別に難聴系主人公という訳でもないので普通に聞こえた。


「あ、あぁ。なんだそんなことか。ほれ」


そういって俺は携帯を手渡した。


「え……。携帯って普通人に渡せるもんなんですか?しかもロックかかってないし……」


「まぁ見られて困るもんもないしな。それにこういうのは音無の方が使い方わかってるだろ」


「私をなんだと思ってるんですか……。まぁいいですけど」


音無は慣れた手つきでで俺のスマホを操作していく。


「はい、完了です。メッセージするんでちゃんと返して下さいね?後連絡先少なすぎません?」


「はいはい。別に無くても困らないからな。最小限で良い」


「女の人が多いのはちょっと気になりましたが、まぁ許しましょう」


「なにを許されたんだ俺は……。てかなんで連絡先なんて聞いてきたんだ?」


「えっ!?いや、えっとその……あ、写真!校外学習の時に写真とか送ってもらえたらいいなぁなんて!」


「お、おぉ、そうか。分かった。写真は送るよ」


「ぜ、絶対ですからね!後メッセージも!」


「はいはい、分かってるっての」


そうして俺たちはいつものように教室へと戻る。


なんかあいつ今日変だったよな。ま、いっか。

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