星を啄む鳥

 投げられた閃光弾の眩い光と共に翠達は走り始め小型プラトンに向け銃弾を放つ。数発の銃声が響く。



 人気ひとけのないドックで迷うことなく目当てのものを探し当てる翠。


(量が少ない。MOFU KUMAで装填出来る量ではないから銃弾に詰め込もうかな。それに地上に出て撃つより下から根に撃つのが効果的かもしれない)


 数個の小瓶を別のケースに移すと手に持ち立ち上がる。


 カチャッ


 翠の頭に銃口が向けられる。


「説明してもらおうか。さっきのはどういうことだ」


 左の太ももには穴が空き、背中や右足は服や皮膚が溶けている。


「どうって、作戦成功させるために1番効率的方法を取っただけですよ」


 翠が胸元のナイフを抜くと諸星の銃を払い走りながら数回発砲し物陰に滑り込む。


「くそっ! 資料で読んではいたがここまで強いとは」


 悔しがる諸星に物陰から2発の弾丸が飛んできて胸にめり込む。先ほど翠が隠れた場所と違う位置から飛んできたことから素早く移動しているであろうこと測できる。胸を押さえ周囲を見渡す諸星に焦りの色が見える。


「諸星さん、痛がるふりとかいいですから。血なんか出てないでしょう。

 それよりなんで私についてきたんですか?」

「なにを言っている」


 諸星が自分の胸を押さえていた手を広げ見る。血など一切ついておらず胸からも血は出ていない。

 閃光弾を投げて通り抜けようと走ったとき翠に撃たれた足からも溶かされた皮膚からも血は出ていない。


「これは……どういうこと  だ」


 翠が諸星の前に姿を表すと諸星の手に持つ銃を撃って手から弾き、そのまま眉間に1発撃ち込む。


「諸星さんはもう死んでるんですよ。前のモドラーとの戦いで死んだのです。その死体に別の意思が宿り動いてただけ、そう聞いてますけど?」


 眉間に穴を空けたまま立っている諸星に翠が再び銃口を向ける。


「それで何の用でしょうか? 私は作戦中で忙しいんです」

「人類 …… 違うお前 目的はなんだ」


 諸星の質問に銃口を向けたままの翠が小さくため息をつく。


「簡単です。瑠璃さんが欲しい。そして新たな人類を増やしてたいそれだけです。

 逆に質問です。なぜあなたは、こんなまどろっこしいやり方をするんですか? あなたなら人間なんてすぐに駆除出来るでしょうに」


 諸星が黒目のない目で翠を見つめる。


「わたし は誰の味方 でない 平等 住むもの自身 の力…… ただ 人類 せい 不調 でも 尊重 だから決めた」

「なんだかまとまりませんね。つまり邪魔だけど人類を尊重しようと思ってこのようなゲームを持ちかけ人類側が応じた。そんなところですか?」


 諸星は黙って頷くとその拍子に右腕がズルリと落ちる。


「体 限界 ルール は同じ あと 3」


 次の瞬間、諸星の額を弾丸が貫通しその反動で倒れる。そんな諸星を見て翠が微笑む。


「後2体ですよ。もうすぐ終わらせますから」


 倒れた衝撃で諸星は体がバラバラに崩れ転がる頭と翠の目が合う。


「進化 みせて もらう 自力の」

「ええ、楽しみにしてて下さい」


 翠は部屋にあった液体燃料をまき部屋の配線を撃ち火花を散らせ引火させる。

燃える火を背にして廊下を駆けていく。



***



(こっちに2体……迂回しますか)


 迂回しながらふっと上を見上げる。


(根っこ? こんな場所まで飛び出てるなんて植物とはなんて生命力の強いことなんでしょう)


 蔦が伸びてくるのをのけ反って間一髪避ける。


「なぜこっちに気付くの!?」


 翠が違う道へ逃げようとすると小型プラントンが1体モゾモゾと移動してくる。


「読まれてる? でもどうやって……」


 翠が天井から少し飛び出ている根っこを撃つと緑色の血を流しながら逃げるように上に引っ込んでしまう。

 それに合わせ小型プラトンが目的地を失ったかのようにその場を行き来し始める。


(根っこが逃げる……なるほど)


「通信が入れば良いんですけど……植物型モドラーの本体は下。おそらく根っこです。もう一度言います、モドラーの本体は根っこです」


 耳の通信機を押さえながら返事を待つが聞こえてこないのでそのまま研究室まで駆け込む。

 銃弾に毒薬であるCHNOを詰め込み銃に装填したちょうどそのときだった。

 頭上で揺れを感じる。地下の基地はシェルターになっている為揺れは小さいが天井から埃がパラパラと落ちてくる。


(地下でこの揺れ……地上で大きな爆発があったということ。ミサイル類は条約で使用出来ないから何が爆発したのか。自爆……とか)


 確認したい気持ちを抑え天井を見上げながら根の量が増え密集する方向を探し進む。


「電気室……」


 翠が電気室のドアを開けると中には根っこが突き刺さり宙にぶら下がっている人たちと数体の小型のプラントンが壊れたオモチャのように同じ場所をぐるぐる回っていた。

 一体の小型プラントンに物陰から毒入りの銃弾を撃ち込むともがきはじめ、やがてぐったりする。


「効果は抜群ですね。これならいけそうです」


 翠が大きい根に向かって次々と毒入りの銃弾を撃ち込んでいく。

 少しバタバタと暴れた後、腐った根が崩れ落ち上から降ってくる。


「想定してたより抵抗が少ない。さっきの爆発でこのモドラーは大きなダメージを受けて今はそれどころではないといった感じですかね」


 あっさり終わったことに少し拍子抜けしつつも残りの銃弾をまだ生きている根と小型プラントンに撃ち込んでいく。


「雑草はちゃんと枯らさないといけませんからね」



 ***



 祈るように待つ港が非常用ハッチを叩く音に視線を移す。数人の警備員と三滝が向かい何やらや話してやがてハッチが開くと疲れた感じの翠が入ってくる。


「翠大丈夫? 途中から通信も通じないし監視カメラも見えなくなるから心配したのよ!」


 涙ぐむ港に力なく笑いかける翠は暗い声で伝える。3人の警備員が小型の植物モドラーに溶かされ死んだこと、一緒にいった諸星もCHNOを手に入れるため翠を庇って死んでしまったことを。

 話している途中で涙を流し出す翠を港が抱き締め慰める。


「翠、辛いときにこんな報告聞きたくないでしょうけど寧音が……まだ確認はしていないけどそのね……」


 言葉に詰まった港が肩を震わせ泣き出すと翠が目を丸くして信じられないといった表情で訪ねる。


「まさか……寧音ちゃん死んだの?」


 頷いて泣き崩れそうな港を今度は翠が抱き締め優しく頭を撫でると涙を我慢するように上を向く。そんな2人を見て管制室にいる皆が泣いたり苦悶の表情をみせたりする。



 翠は上を向いたまま横目でモニターに映る2匹のクマを見て僅かに口角をあげる。



 ──あと1人

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