返事

「梅岡さん直りそうデスカ?」


 アネットがMOFU KUMA用ドックで梅岡に心配そうに聞いている。

 いつもの楽観的回答はなく渋い顔の表情が答えを出しているのだが、分かっていても言葉として聞くまでは信じたくないアネットが祈る様に梅岡を見る。


「前もちょっと話したがMOFU KUMAってのは4体ある。それぞれが操縦者に特化した仕様となっていて替えの部品が無いのが現状なんだ。

 モドラー襲撃を一年のスパンで計画してたから尚更な」


 分かっていた答えでもハッキリと告げられるとショックは大きい。

 肩を落とすアネットに梅岡が謝ってくるが梅岡のせいじゃないと言いドックを出ていく。



 ***



「はあ~アーマーモドラーを討伐できて喜んでましたがもう時間がありませんネ」


 休憩所の自動販売機でジュースを買って飲むアネットの表情は暗い。

 アーマーモドラーを討伐して4日後、青ヶ島は再び噴火し卵を生み出した。

 孵化は1週間後の予定となっているがそれまでにファンキーグマの左腕を直す手立てがないのが現状だ。

 それ故アネットは落ち込んでいた。


「はぁ~」


 大きなため息をつく。


「アネットもそんな顔するんだな」


 瑠璃がアネットの隣に座り缶のプルタブを開けるとジュースを飲み始め、一息つくとしばらく缶を眺めてようやく口を開く。


「なあ次の出撃は俺が前に出る。だからアネットは休めよ」

「なっ! ワタシも出るデス! 上の方からも出るように言われてマス。いくらルリリの頼みでもききませんヨ!」


 アネットが声を荒げ反論する姿に少しだけ驚いた顔をした瑠璃は声を殺すように笑い出す。


「な、なんデス。ワタシおかしいこと言ってないデスヨ!」


 まだ笑っている瑠璃に不服そうな顔をで文句を言うアネットを見て必死で笑いを堪えながら瑠璃が謝る。


「ごめん、ごめん。アネットもそうやって怒るんだな。なんかさいつも俺の言うこと全部肯定してくるのにしっかり自分持ってるんだなって思ったら可笑しくてな」


 きょとんとするアネットに瑠璃は言葉を続ける。


「あのさ、もっとお前らしく接して欲しいんだ。気のせいかも知れないがアネット無理してないか?」


 アネットは首を振りながら否定するが、涙を目に溜め我慢しているのが分かる。

 そんなアネットをそっと抱き寄せて胸元で泣くのを堪えるアネットの頭を撫でる。


「次の出撃アネットが後ろで狙撃してくれ。そして指示を出して欲しい。正直この2戦ともアネットの指示がなければ倒せていない。負担をかけるが頼らせて欲しい」


 アネットは瑠璃の胸元で無言で頷く。


「それと前の返事。もう少しアネットのありのままがみたい。それで答えさせてくれ。まあ今のままでも……」


 涙目のまま顔を上げたアネットが瑠璃の襟首を掴み揺らす。


「い、いまなんて、なんて言ったデス? ちょっと聞こえませんデシタヨ! もう1回!」

「ああもう、また今度な。とにかく今は出撃だろ! 左腕が使えない状態だろうけど守るからしっかり狙いつけて援護してくれよ」

「うん」


 今までに見たことない笑顔で答えるアネットを直視出来ない瑠璃が視線を反らす。



「いたっ」


 アネットが頭を押さえる。


 ──僕が守るからこっちにおいでよ


「!?」


 ──何でアネットちゃんはいつも隠れてるの?


 〈だって皆と違うから。目の色も、髪の色も〉


 ──僕はその色好きだよ。一緒に遊ぼうよ。


 〈でもいじめられるから〉


 ──僕が守るから大丈夫。ほら行こう!


 〈うん〉


(今のは? いったいなんデス……)


「おい! 大丈夫か?」


 瑠璃に肩を揺さぶられて我に反るアネットの前には心配そうに覗き込む瑠璃の顔があった。


「だ、大丈夫デス。嬉しくてついクラってき……うわっ!?」


 瑠璃がアネットの頭に優しく手を置く。


「そういうとこな。辛いことは辛いって言えよ」

「分かりマシタ……話すデス」


 アネットが頭に置かれた瑠璃の手にそっと手を重ねる。



「…………」


 そんな様子を廊下の影で見ていた人物はソッとその場を去っていく。



 ***



 その日の夜、突然モドラーの卵の孵化が始まる。その為に呼び出され向かうアネットに寧音が後ろから声をかける。


「アネット出撃するって本当?」

「本当デス。でもワタシが後衛にまわるので大丈夫デスヨ!」


 明るく答えるアネットだが寧音の表情は冴えない。


「私のせいでごめん」

「それはいいって何度も言ってますヨ。それよりは次を倒して今度こそお休みもらうんデス!」


 いつになく明るい感じのアネットを見て寧音が不思議そうに聞いてくる。


「ねえ? アネット何か良いことあった?」

「ふふ~ん♪ 秘密デス!」

「あぁその感じ、瑠璃関係だ!」

「どうでしょかネ」


 上機嫌なアネットを見ながら寧音は呟く。


「瑠璃は渡さないからね」



 ***



 卵を破り3度目の孵化を見る瑠璃達は少し慣れてきたのか驚きが少ない。


「なんだか一回り小さくないか? それにこの爪と牙、鋭いな」


 諸星がモニターを見て感想を言うそのモドラーは顔が丸みを帯び厚みが増している。ワニ言うより恐竜に近い形状となり、口は短く鋭い牙がモニター越しでもよく確認出来る。

 体は一回り小さくおよそ35メートル程。蜥蜴の様なギラギラ輝く鱗を持ちしなやかな体つきをしている。

 1番の特徴である爪。手首の上が盛り上がってそこから手を覆うように伸びるバールの先端に似た形状の爪。


 〈新型モドラーの到達到達予定時間は2308ふたさんまるはちです。〉


 港の緊迫した声が残された時間が無いことを知らせ皆が準備に取り掛かる。

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