モドラー孵化

 管制室に集められモドラーの卵の現状を説明がなされる。


「──以上のことから数日中に孵化すると考えられます」


 その内容に緊張が走る。モドラーの卵が出現し2週間、突然の孵化ふかの兆候に皆が驚き慌てている。


「これまでの傾向から卵出現から孵化までの時期が短くなってきているのは指摘されていましたが2週間での兆候は予想を越えています」


 観測班の責任者が神妙な面持ちで話す。


「孵化の効率化……」


 三滝指令が呟く。


「孵化を効率化するなど可能性としては低いのでは? このたびの気温や湿度など周囲の環境の変化が要因ではないかというのが我々の見解です」

「まあその線が無難か」

「いえ、三滝指令の柔軟な発想はいつも驚かれます。生物の進化の過程で孵化の効率化というのはある話です。モドラーの進化のスピードを考えれない話ではないです」


 観察班の責任者の言葉にメンバーはしきりに頷く。

 そんな様子を余所に瑠璃はモドラーの卵のライブ映像を見ていた。


(あの中からモドラーが出てくる。そしてそれを迎え撃つ。出来るのか自分に。リアルなシュミレーションやメカモドラーと違う本物との戦闘)


 考えれば考えるほど不安になってくる。心なしか体が震えて……ふるえて? ふる……


「おい、寧音。なにしている」


 瑠璃の体に背中をつけ擦り寄っている。そしてゆっくりと右手を挙げてくるので瑠璃はなんとなくその手を握る。

 手を握ったままくるっと振り向いた寧音は物凄く嬉しそうな顔で瑠璃を見た後すぐにアネットを見て瑠璃と寧音の繋いでる手を指差す。

 少し離れたアネットが両手でバツをつくって何かを必死に否定しているようだった。


「お前達なにやってんの?」


 不思議がる瑠璃を無視して寧音が繋いだままの瑠璃の手を頬に寄せてスリスリし始める。


「ちょい、おまっ! なにをしてる」


 手を振り払おうとする瑠璃の手を離すまいと必死にしがみつく寧音。

 その2人の手をアネットが握り引き離そうとする。


「瑠璃から手を離すデス」

「繋いだこの手は離さないんだぁ」

「いてててて、お前ら痛いって」


 管制室で騒ぐ3人の頭が諸星に叩かれることによってこの不毛な争いに終止符がうたれる。


「いったぁ」

「アウチデス」

「いてっ」


「お前らいい加減にしろよ。少しは緊張感を持て」


 怒る諸星の後ろで港がクスクス笑っているのを寧音は見付け頬を膨らませる。


「まあいいじゃないか諸星くん。これぐらい余裕を持ってくれないとモドラーに対抗なんて出来まいて」

「ですが三滝指令このままでは示しが……」


 2人が話すのを見た寧音が話しに割り込んでくる。


「三滝指令! 過去の資料調べていたら見つけたんですけど、三滝指令と諸星教官ってモドラーを討伐したことあるんですよね。経験者の話しを是非聞かせてくれませんか?」


 三滝は寧音の質問に何ら驚くこともなくニコニコとしている。


「ああ良いとも。ただ私らは残念な事に直接モドラーを目視して戦った訳ではないしあまり記憶がないから参考にならないかもね」

「?」


 疑問符を飛ばす寧音に三滝が笑いながら参考にならない意味を教えてくれる。


「モドラーに眼力があるのは知っているだろう。それに対抗出来るのが15~20歳の男女なのも知ってるね。

 だけどいきなり操縦者として若い15~20の子を投入する訳にはいかない。

 そこでメインカメラで映したものを変換しゲームの映像みたいにしてモニターに映して直視しないようにして戦ったんだ。

 だから本物は映像でしか見たことないのだよ」

「そうなんですね。でも実際に戦ったんですよね」

「確かにそうなのだけどあまり記憶がないのだよ。1ヶ月程行方不明になっていたと資料に載っていただろう。あの前後の記憶が曖昧でね」


 三滝が申し訳なさそうに謝る。


「俺にいたってはなにも記憶がない。こっちに戻ってきた時には重傷ですぐに入院したし気付けば病院だった」


 諸星の説明に寧音は残念そうな顔をする。


「有益な情報が手に入ると思ったんだけどなあ、ざんね~ん」


 項垂うなだれる寧音。そのとき管制室に緊迫した通信の声が響く。


 〈──こちら青ヶ島観測班、緊急連絡。モドラーの卵に変化あり。孵化の可能性あり。至急対策を。繰り返します──〉


「なに!? バカなもう孵化するだって」


 観測班の責任者が慌ててどこかに連絡を取りはじめる。周りの隊員達も緊張した面持ちで待機する。

 オペレーターの人たちは情報収集とその整理に慌ただしく動き始める。


「お前ら3人は一旦部屋に戻ってMOFU KUMAドック近くの待機所で待機だ。すぐ準備しろ」


 諸星の指示に従い3人は部屋に走る。



 ***



「緊張するね瑠璃」

「あ、ああ緊張するな」


 MOFU KUMAドックの控え室にて緊張した顔の瑠璃にさりげなくすり寄る寧音だがアネットは鼻唄混じりにごそごそなにかしている。


「出来たデス!」


 そう言ってアネットが右手に掲げるのはペンギンの便箋。頭に穴を開け紐を通しカラビナが取り付けてある。


「アネットなにそれ?」

「フフフン♪ これはルリリから貰った愛の証なのデス!!」

「ああそれ! アネットお前手紙書くって言ったろ」


 自慢げに見せびらかすアネットに対し悔しそうな寧音が瑠璃にしがみつきおねだりしてくる。


「ねえ、ねえ、るり~私もなんか欲しい!」

「何かって何だよ」

「あのペンギンより強いのがいい!! ヒョウアザラシとか」

「あるのかそんなの。しかもなんで強さを求める」


 待機所のドアが開き諸星が入ってくると今後の命令が出される。


「明日のお昼には到着する可能性が高いということですね」

「ああそうだ。現時刻をもってお前らの行動は制限され俺の指揮下で動いてもらうからな。とりあえずは寝て明日に備えろ。ただし緊急召集はあると思って寝ろよ」


 緊張した表情の3人は返事をする。



 ***



「寝れませんネ」


 フラフラとアネットが薄暗い廊下を歩き共有のラウンジに向かう。

 既に先客がいてボサボサ頭の眠そうな顔の寧音が薄暗い中ぼんやりテレビを眺めている。


「シズズも寝れないんデス?」

「う~ん、ねれない。寝てもすぐ目が覚める

 」


 2人でラウンジのソファーに座ってテレビの深夜のニュースをぼんやり眺める。

 ニュースは青ヶ島の実況中継を行っていてモドラーの卵に亀裂が入り赤いマグマの様な赤い光を放っているのを映し出している。


「夜だと光るからヒビがよく見えるねえ、ふわぁぁぁ」


 半分も開いていない目で大きなあくびを寧音がする。それにつられアネットも大きなあくびをする。


「シズズといると眠くなりマスネ」

「へへ安眠効果抜群……」

「寝たのデスカ?」


 静かになる寧音をアネットが覗くと肩をビクッと震わせ寧音が目を開く。


「うわっ?」

「ひゃう!? び、ビックリしたデス」


 驚くアネットを見て寧音が申し訳なさそうな顔をする。


「ごめん、操作ミスして死にかけた」


 しょんぼりする寧音。


「明日なんだかんだ言っても怖いデス。この日の為に訓練してきマシタ。メカモドラーも瞬殺して楽勝だって思ってマシタ。

 でも実際に本物が来るって言われたら体が震えるんデス」


「私も怖い。モドラーが来たらボコボコにしてやる! って思ってた。でもいざ本物が来るって分かったら怖い。

 いつも通りやれって言われるけどそんなの出来る訳ないし」


 2人共黙って膝を抱えて座り丸くなる。


「シズズはワタシが援護するデス」

「じゃあ私は背中預けてモドラーをアネットのとこへ行かせないよ」

「そして後ろにルリリがいてくれるから超安心デス」

「ああ! それ私のセリフ!」

「フフン! 早い者勝ちデス!」

「ぬわにぃ~」


 しばらく2人が言い争った後肩を寄せあい目を瞑る。


「疲れたら眠くなった」

「デスネ~」


 スースー寝息をたてて2人は寝てしまう。


 ──30分後


「眠れねえ。あいつらは今頃爆睡してんだろうな」


 瑠璃が薄暗い廊下を歩いていくとラウンジから光が漏れているのが見えた。

 不思議に思って近付くと肩を寄せ合い眠る2人を見つける。


「お前ら風邪……」


 瑠璃は起こそうとするが止めて一旦自分の部屋に戻り毛布を2人にかけて部屋に戻る。


「あいつらも不安なんだよな」


 部屋のベットに横になると少しだけ安心した瑠璃は浅い眠りにつく。


 翌朝、寧音とアネットが目を覚まし毛布がかけられているのに気付く。

 毛布をかけてくれたのは瑠璃しかいないという結論に達した2人はどっちが毛布を返すかを争うことになるが、出撃準備に追われ慌ただしくなりそれどこではなくなる。

 因みに毛布はこっそり瑠璃が回収している。









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