俺、すみぺに会わねえといけねんだ

星空ゆめ

第1章 日常編

第1話 街中、寂れた家、そして生きがい。


 


「でさー」


 


……


 


「わかるー!」


 


………


 


「行くべ行くべ」


 


…………


 


…うるさい


うるさいうるさい


うるさいうるさいうるさい


うるさい、そうだうるさい。なにがって、女だ。女はうるさい。うるさいと感じるのは、そうだな…会話。会話の中身がないからだ。会話に中身があれば、身のある話だったら、それが何人だろうが女だろうが関係ない。でも、女だ。特にこういった、舗装された道しか歩けないような女。1km以上歩けないような、いやちょっと道に偏りすぎてるけど。とにかくそういった軟派な女だよ。軟派な女の話してることを聞いてみると、これがとにかくつまらない。そんなこと声に出して、発声してなんになる?というようなことばかりだ。そんな中身もクソもない話をぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、よく飽きもせずぺちゃくちゃぺちゃくちゃと。俺がいた大学でもそうだった。女はつまんねえ話しかしないし、そしてそんな女をよいしょしてちょっとでも関係にこぎつけようとしてる男どももつまんねえやつしかいなかった。俺は絶対あぁはなりたくないね。あんなつまんねえ女に媚びてるようなつまんない連中には。つまんねえ話しかできないくらいなら口を閉ざしていたほうがいいし、つまんねえやつらとつるむくらいなら俺1人でいたほうがいい。なぜって、それが正しいからだよ。俺は正しいことをしている。部室でたいして可愛くもない女を必死になって囲ってたあいつらとは違う。俺は自分を曲げなかったんだ。だから、その結果がどうであれ俺は正しかったんだよ。俺が、俺だけが正しかったんだ。俺が…。


 


気づくと家の前まで来ていた。夕日も暮れかかり、ただでさえボロい我が家は一層の侘しさを醸し出している。といってもそこはまだアパートの入り口で、自分の家といえるわけではないが。錆びてぼろぼろになった階段を上り、狭い通路を渡って扉の前に立つ。


「ただいま」とは言わない。言ってなにになる。寂しさがより際立つだけだ。電気をつけると古い電球に小さな蛾がパタパタと集まってきた。


うざい


寝転がって空を仰ぐと、蛾は視界のちょうど真ん中に位置して、嫌でも羽のはためきを眺めることになる。


うざい


うざいうざいうざい


「死ね!」と叫びながら蛾に向かって手元にあった雑誌を投げた。蛾は空気の流れに乗ってひらりと雑誌をかわし、かたや雑誌は重力に身を委ねそのまま顔に落ちてきた。

「あぶっ」

嘲笑うように飛び続ける蛾の姿が、大学の女たちと重なる。わたしは清潔ですよと、蝶のようだと主張していても、その実女は蛾だ。汚く、ほかの男の手垢にまみれた、汚い蛾。

「ぶっ殺す」

しばらく失くしていたと思われた生きがいをこんなところで発見した。蛾だ。この蛾を殺すこと。起き上がって、雑誌を手に取った。俺は雑誌を開くと、そのまま蛾に目掛けて雑誌を押し当て、パタンとページを閉じた。「ザマアミロ!!!」おそらく蛾はページの間に挟まれてぐちゃぐちゃになっていることだろう。ただでさえ汚い蛾の、さらに汚い姿など見たくもないので、ページを開くことなくそのまま雑誌を捨てた。ゴミ箱に葬られる一瞬、表紙に映った水着姿の女がこちらを笑ってみていた。


「二度と入ってくんじゃねぇ!」


そしてまた生きがいを失った。

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