Dice-14:再開は/急転に


「ああ!!」


 顔の周りでうわんうわんと何かハエが羽ばたいているような音がしている気がして、思わず右手で払うような仕草をしたら、声も出てた。


「っとぉ~大丈夫か相棒? これ以上ないほどの『腰が抜ける』サマを見たけどよぉ~」


 軽く手首を掴まれる感触。視界はまだぼんやりと薄いオレンジ色に包まれていて何も判別できないが。


「……」


 どうやらカーペットの上に仰向けで倒れていること、そして件のアオナギが僕の顔を見下ろしているだろうことは、その声の出どころから判断できた。


「立ち眩み……ですかね? ええと……意識は大丈夫でしょうか、『財津ザイツ 宗示ソウジ』さん?」


 例の黒服のうちの細身の一人が僕に向けてそんな声を落としてきたことを、ようやく焦点が合ってきた視界で確認する。って言うか、いや名前とかってやっぱり運営側には割れてるんだね……しかも割り振られた「番号」とは別の方法で認識されている感もある。まったくもって油断は出来ないし謎だな……


 しかし、自分の名前を呼ばれたおかげで、なんか意識がしっかり戻ってきたように感じる。


「……」


 とりあえず、身体に異状は無い。と思う。それよりも僕がぶっ倒れてからどのくらいの時間が経過した? 「試合」は? 負けになってしまったのか? まあほぼほぼ負けくらいのところまで押し込まれてはいたが。


「案ずるな、五分と経ってねえ。『棄権』みたいなことにはさせねえように踏ん張ってはおいたぜ。だからお前さんは気合い入れて『試合』の続きをやりゃあいい」


 僕の腕を引っ張って起こしながら、アオナギはそんな風に目くばせしてくるが。ありがたいっちゃあ、ありがたいが、ここから、いけるのか?


「……」


 でもやるしかないことは分かっている。妙に、頭の中が清々しい感じだ。何だ? 例えるなら、頭の中の「棒」みたいなものに輪投げの「輪っか」みたいなのがすぽと嵌まったような感覚。いや、だいぶそれは意味不明だな。でもそんな「選ばれた」、みたいな感覚。


 急激にやる気みたいなものが漲って来た。傍らのアオナギが慄くくらいのきびきびした動作で、台の上に排出されていた自分の「賽」を掴む。目を上げると、そこには先ほどから微動だにしていないんじゃないかと思わせるほどの、腕組みした細身眼鏡女性。律儀に待っていてくれたとは。


 

【159:555411:4-5-】(10)

【068:855300:0-0-】(1)


 状況は先ほどと変わらず最悪。でももう臆するな。僕は女性に軽く会釈をしてから、「筒」向けて賽を放り込んでいく。そして、


 【1】 対【3】。初めて上回った!! 勢いをかって、さらに次も【1】対【5】!! 


 残りライフ、「4vs1」まで、引きずりおろしたぞ!!


 次は【5】対【5】の引き分け、その次も【5】対【5】の引き分け。しかして。


【159:555411:4-5-1-1-5-5-】(4)

【068:855300:0-0-3-5-5-5-】(1)


 何て言うか、確率に忠実になってきたんじゃないか? てことは? そろそろ来てもいいのでは?


 頭の中が強烈な「全能感」に満たされていくようで。僕は自然と笑みの表情を形作っていたようで。相手の女性は逆に引きつった顔をしている。


 【5】対【8】!! からの? ……【5】対【8】。やはり。


【159:555411:4-5-1-1-5-5-5-5】(x)

【068:855300:0-0-3-5-5-5-8-8】(1)


 相手の最強を、自分の最強で打ち破る。出来過ぎに思えるほどの逆転劇に、それでも心の底は凪いだ僕がいる。ひょっとして僕は、とんでもない「能力」みたいなのを手に入れたんじゃあないか? 主催者が冒頭で「超能力」云々言ってたけど、まさにそれ、みたいな。


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