Dice-12:助言は/静謐に


 おおむね五、六分もかからずにそれぞれの「試合」は決着していく。「投入口」から各々「ダイス」を投げ入れ、その出目はどうやってるかは分からないが、瞬時に認識が為され、ボウル横に設置された小さなスコアボードのような画面に表示される。


 ボウル底面は落とし穴のように(もう少しいい例えがあるかも知れないが)ぱかりと中央部が割れ落ち、下から「賽」が回収されるようだ。そしてそれぞれの手元に自分の……赤なら赤、青なら青のものが転がり出て来るという仕組み。うーん、ハイテクなのかローテクなのかよく分からない機構だ。だがそれによって対局者がやることと言ったら、「賽」をつまみ上げて投入シュートするだけ。それをどちらかの「ライフ」が「0」を割るまで続けられると。


 この上なくあっさりなゲーム内容だ。投入口からボウルへと繋がる「筒」は直径が5cmくらいなのだが、「賽」を投げ入れるといい感じにランダムに中で跳ね回ってから、ボウルへと転がり出てきている。そして相手のと勢いよくぶつかって、ボウル内を乱反射する時もあった。狙って特定の出目を出すことは、まあ無理と言わざるを得ない。


 ゆえに司るものはやっぱり「運」のみとしか言いようがないが。


 初っ端の「Aグループ」の対局者たちも、皆一様に困惑気味の表情や所作でこの「試合」に臨んでいるように見える。勝ち負け、そしてそれによる結構な多額の「賞金」やら「負債」やらが発生しているにも関わらず、どこか現実味の無さそうな反応で皆、粛々と行っているようだ。


 何か、解せない。気のせいか?


「……相棒、まずは俺が行ってくる。お前さんは俺の『対局』もそうだが、他のも出来るだけ『観察』してみてくれ。何があるやも知れんしな」


 ぐいと背筋を伸ばして傍らのアオナギが気合いを入れたようだが、その言葉は落ち着き凪いでいるように思える。策は……まあ無さそうだ。大丈夫なのだろうか。


 そんな、もわりとした一種異様な空気の中、二番手、「Bチーム」の対局開始が告げられる。アオナギの【169】はうしろの方のボウルにて執り行われるようだ。僕はもうさりげなさも何も無く、そのボウルが見える所まで接近する。その周囲の4つほどのボウルも視界に入る位置。ここなら色々と窺えそうだ。窺えたところでどう、っていうようなことはもう詮無さ過ぎて思考することをやめている。


【169:544422:5-】

【139:664221:1-】 


 ほぼほぼ何も盛り上がりも無く、第一投はそこかしこで行われていたわけで。アオナギはこの上ない上々の滑り出し。自分の最強の【5】を相手の最弱の【1】に当てるという、出来過ぎの結果。これもしや「策」によるものだったりはしないよな? アオナギの不遜そうな顔は常時のことなので、その心情は慮り得ないが。


【169:544422:5-4-2-2-4-5】

【139:664221:1-2-1-2-6-1】 


 その後も淡々と。相手の【6】が確率よりも出なく、自分の【5】がいい感じで出たことが勝因だろうか。終わってみればアオナギ残りライフ「8」の快勝。うん、しかしてそこに作為性やらは見て取れないな……他のボウルで行われていた試合に関しても、圧勝・辛勝どちらもあったものの、「確率」ということで片づけられる事象だ。


 結局分からないまま。目が合ったアオナギも首を振る仕草。「分からない」ということと解釈した。


 そうこうする内に、今度は僕の番だ。自分の数字……【068】の書かれたボウルを目指す。


「……」


 対局相手は既にボウルの向こう側に腕組みをして待っていた。細身の長身……の女性。茶色がかった髪はショートで少し広めの聡明そうな額が露出している。銀色の金属フレームの眼鏡の細いレンズの下には、真っすぐに向けられているものの、そこから表情なんかは窺い知れないような眼光があるばかりで。


 まあ自分とは合いそうにもないな、とかどうでもいいことを思い浮べていたら、


「……木星さんに、気を付けろ」


 いきなり僕にだけ聞こえるくらいのそんな、低い声で意味不明なことを告げられたのだが。「もくせいさん」……と確かに言った。「どせいさん」なら知らなくもないが……いやそれより何より、何で僕に話しかけてきた? 揺さぶりとかか? でも、僕の心理なんかは全く影響を及ぼさないと思うが……


 読めない。ひと声発してからは、その長身女性はむっつりとこちらの返答を待っているようにも思えない無関心無表情で対峙してくるばかりなのだが。


 一体……としか考えられない状況に落とし込まれているような気がして。


 大丈夫だろうか、僕は。果たして。


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