Dice-08:札交換は/無反応に


 結果として、僕とアオナギの「名札」同士を、あえて黒服の視界内で大袈裟に手渡し交換したわけだったが、何もお咎めは無しの完全スルーであった。


「……」


 僕の手の中には今はアオナギのものだった【169:544422】の札が。呆気ないほど拍子抜け、といった感じで「交換」は為すことが出来た。うーん、じゃ最初に割り振られたのは何だったんだってことにもなりかねないけど。


「まあ……交換が可能だからって、『必勝』とはいかねえとは思うんだよな……そこがやっぱ分かんねえとこだ……曖昧としてやがる。いや、それすら織り込み済みなのかも……んんんん……掴めねえ。掴ませようと促してくる割には明確じゃあねえところが何ともいやらしいぜ」


 僕のだった名札をつまんでひっくり返して裏側を見てたりしていたアオナギは、どちらかと言うと、不服そうな面持ちだ。またひん曲がった顎を右へ左へ寄せたりしている。


「ある出目に対して有利な出目があるか……っていうのは、本当にあるんでしょうか……僕は『平等』では無いといいましたが、出目を選んで出せるわけじゃないのだったら、やっぱり『運』なのかも……」


 何でも言え、とのことだったので遠慮なく、そんな頭の中にぼわりと浮かんで来た、取っ散らかったままの言葉を吐き出していくのだが。


 俺らのでちょっと考えてみるか、と二人分の名札をソファの肘掛に並べて見せるアオナギ。そのバックでは、運営―主催者の、一次予選……「第一局」の組み合わせ抽選をこれより行いますからねーとの、何やら呑気そうな声が響いてきている。少し考える時間はありそうだ。僕はその書かれた数字に着目する。


【855300】と【544422】。


 結構、違ってくるもんなんだな……というのが第一印象。「合計21」の組み合わせが「174種」もあることも意外だったが。試しに両方共、6桁の数字を合計してみるとどちらも「21」。当たり前か。


「【8】っつー『大砲』持ちのこっちは、その反面、【0】ふたつっていうリスクを負ってるように見えるな。逆にもう片方はガチガチにガード固めてるように見える」


 アオナギの直感的に過ぎるイメージだったが、そう言われると何となく「個性」みたいなものが浮き上がっても来るようだった。そして。


「これ同士の対決だったら、何て言うか、『引き分け』になりそうな……いや、ただ左から出目の多寡を見て行っただけなんですが……」


 もう僕もがんがん意見未満の言葉を垂れ流している。でも確かに引き分けになるんだ。【8】と【5】では【8】の勝ちで【5】の方が「マイナス3」の負け……っていうのをずっと見ていくと、「ライフ10」始まりとして6戦したら「5対5」になる。数字にばらつきがあっても割とまとまるもんだなあ……とか感心していたら。


「……そいつは全ての組み合わせで言えるんだなこれが。最終的には帳尻が合う。合計がみんな同じだからだ」


 そうなのか。試しに【654321】というスタンダードな出目を頭に思い浮かべて、それと名札のふたつとをぶつけていっても引き分けだった。何だ、いい発見かと思ったら大したことじゃあ無かった。僕は少し赤面する。


「ま、それじゃあ勝負になりようもないからの、サイコロっつうランダム性なんだろうよ。それに『ライフ10』っていうのも絶妙だ。例え【9-0】がぶつかったとしても一撃では勝負はつかない。そこにゲーム性、みたいなのが介在してくるって言えるのか? その意図はまあやっぱ不明だがよお」


 アオナギはそう言葉を発している間も、ずっと左上方を睨んで何事かを考えているようだ。でも、ランダム性頼りになるってことは結局「運」ってことにならないか……


 思考がひとところを回転していて、何とも言えない乗り物酔いしたような気分になってくる。


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