Dice-05:相談は/細密に


「組むって言われてもですね……そもそもそれって大丈夫なんですかっていうところがあるんですが……」


 運営側の動向を視界の端に入れながら、僕は前を向いた姿勢のままで傍らのその長髪男にあまり唇を動かさずに言葉を返す。参加者が結託するっていうのが許されるのだったら、成り立たないことが多そうだ。それをおいそれと許すようには思えなかったわけで。こうして二人並んで喋っていることさえ、まずいんじゃないかっていう空気すらあるってのに。


「ま、そこんとこも試し試しいくしかないんでっつーので、こうして会話ふっかけたりもしてんだけどよぉ。割とスルーじゃねえか? わらわら『黒服』めいたのが配置されてるわりにはよぉ」


 間延びした声でそう告げられるが、確かにと思わされるところはある。長髪男のしゃがれた声は、僕の右斜め前方に直立不動で立っている筋肉質の長身の「黒服」のところにも確実に届いてはいるはずなのに、先ほどからまったくの無反応ノーリアクションだ。


「……思うに、あの『主催者』って野郎は、そういった人間の『行動』込みで何かを見極めようとしている気がしてならねえ。いや、もっと趣味悪く『観察』なのかも知れねえが」


 長髪男は、いまや僕の腰かけている一人掛けのソファの左肘かけ部分に腰を下ろしながら、手にしたワイングラスをくゆらせつつ、そのような余裕の物言いだ。内容はだいぶ意味不明だが。


「だとしてでもですよ? 結局は一対一の運否天賦ですよね。結託して対戦相手同士になったところで、どっちかに『負債』は行くのは必定。それをまあ事前に折半しようってことにしといても、プラマイゼロですよね? 意味が無い」


 でも僕も確実に「会話OK」である旨を試したかったので、少し声を張って「二人で話してますよ」空気を多分に滲ませながらそんな言葉を発してみる。あまり考えた末の言葉ではないものの。


「おいおいおいおい、『プラマイゼロ』なら御の字だろうがよぉ。こんな得体の知れない場で、稼いだろうみたいな考えでいるとは何とも豪胆だなぁ。ますます見直したぜ」


 長髪男も本心ではないだろうが、そのように返してくる。気持ち、声を腹から出しつつ。


「……勿論、それはそれでアリかも知れねえが、なにぶん今この場での初対面面子らだ。どうその約束っつうか『契約』を締結させていいかは分からねえ。確約が無いんじゃあ、負けた時に相手がバックれたらおしまいだしな。そこは結局成り立たねえんじゃねえかと、そう思ってる」


 と思ったら、今度は急に低い声でそんなことを。今までの声量ボリュームからするとほんとに注意深く耳を傾けていてやっと拾えるほどだ。なるほど、「黒服」が僕らの会話を聞いているにしろ聞いていないにしろ、今回の言葉は聞き取れなかったはず。それだけ前の会話との落差があったから。何か……いろいろ考えてるなこの男は……ぼんやりと流されるようにしていた僕とは大違いだ。


 でも。その言葉を額面通り受け取るとすると、尚更「組む組まない」も無いんじゃあないか?


「……そいつを見越してのこの『会話OK』なのかも知れねえがよう……考えをぶつけあえる相手ってのはいるに越したことはねえ。それにお前さんには何か、感じたモノがあるっていうか」


 下手くそな勧誘だったが、僕もこの男ならつるんで損は無いと感じている。アオナギだ、とその長髪男が名乗ったのを受けて、僕も自分の苗字を告げる。


「よっしゃ、相棒……まずはこの『第一局』とやらを……二人して勝ち抜くことから考えようぜぇ」


 こうして、唐突な共同戦線が張られたものの。


「……」


 この、「これ自体」については、まだまだ未知なところが盛りだくさんなわけであり。


 いきなり黒服らの手ずから運び込まれて来たいくつもの透明なドーム状の物体に面食らいながらも、僕は状況を把握することに努めることに決める。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る