Dice-01:ルール説明は/冗長に


 「ステージ」向かって右側は全て窓……というかガラス張りになっていて、タイル張りの植え込みに緑があしらわれているのが窺える。陽光はだいぶ翳ってきていて夕方ごろということは分かるものの、目に見える範囲に時計の類いのものは無いので正確な時間は分からない。ソファに座ったまま、自分の身の回りをさりげなく探ってみたが、着ているものは見覚えのある白い半袖シャツの下に灰色Tシャツ、黒ジーンズという無難ないつもの格好であったものの、ポケットに入れているスマホや鍵や定期入れなどの私物は何ひとつ無かった。


その事象が、やはりこれはのっぴきならない事なのだということを突きつけてくるようであり、少しまた背筋の辺りがぞわとなる。しかし、


<こ、こ、今宵はですね、み、みなさんに簡単な『ゲーム』をしてもらいます>


 スクリーンの中の「主催者」とやらは、たどたどしいながらも自分のペースで話を進めようとしてくるらしい。「ゲーム」……これまた状況シチュエーション的にはありがちな展開だが。


「……」


 対象となる「者」の姿が露わにされ、そしてその人物がひと目、危険そうでは無さそうな雰囲気を醸し出していることから、場の緊張はどんどんほどけていっているかのようだ。スクリーンに着目しながらも、ソファを立つ者がちらほら現れ、円卓からグラスを取ってワインを注いだりしているのも中には。


 何だこの空気……そういうのが「手」かも知れないとか、思わないのか……得体の知れない場で、供されたものを即、口に出来る勇気は僕には無かったので、若干呆れ気味で見ていたが、即効性のナニかは少なくともないようで、表面上は和やかとも思える感じに落ち着いてきている。いいのか? これで。


<わ、私は子供の頃から、『ボードゲーム』が好きでして。とは言え一緒に遊んでくれる友達も家族もいなかったものですから、もっぱら『一人何役』もこなして楽しんでいたわけですが>


 そんな中でも、主催者の要領を得ない話はずるずると続いている。「モノポリー」でもやらせるつもりだろうか。でもこのホールにいる「参加者」らしき頭数は、さっきからざっと数えていたが150強ってとこだ。一同に、は無理そうだから何人かグループに分かれてやらされる? いや……どんな顔しながらやりゃあいいのやら。


<あいや、うまいこと話が持っていけないな……ええー、今宵使うのは『サイコロ』のみの、極めてシンプルな『勝負』。基本、『一対一』の>


 いやいやいや、本当にぐだぐだだな。皆目何をやるか伝わってこないのだが。しかし「サイコロ」……「丁半」とか「チンチロリン」とか、どうしても博打的なものが思い浮かんでしまうが……違うっぽいな、「基本一対一」じゃないしな……というか早く本質というか根幹的なことを説明して欲しい。


<サイコロ……皆さんも見慣れたこれ!! ……分かりますよね、1から6までの数字が六面にそれぞれ記されている……これを見ている時にですね、ふと、ある疑問が湧いたわけです>


 ……長い。前置き。いい加減イラついてきている輩も見受けられるが、同感。気を持たせる言い方をおそらくは無意識でやっているのだろうが、こういう場では逆効果だ。


<『目』の総数は『21』……これをですね、もし自由に割り振った場合……その場合、使用できうる数字の範囲は『0』から『9』までと拡張してですね、そうした時に……『最強』の『布陣』というのは何であるのか、それを知りたくなったと、そういうわけです……>


 主催者の言っていることの三割ほどしか理解は出来なかったが、ふと頭を掻こうとして上に上げた左腕が胸の辺りの何かに引っかかる。


「……?」


 シャツのポケット部に、よくある「名札」のようなものが付けられていた。2×5cmくらいの細長く小さいタイプ。材質はメタリックな感じでやや高級そうに見えるものの。


【068:855300】


 そこに刻まれた、数字の羅列の方が気になる。というか重要なのだろう。だがまださっぱりだ。ままならない説明を、聞き続けるほかは無いか……僕は注意深く、主催者の言葉に耳を今まで以上に傾け、内容の把握に努めるモードに入る。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る