第14話 帝都病院 ①

――ねぇ、知ってる?

都心から少し離れた墓地に幽霊が出るって噂。

なんでも何かを探しているらしいよ?何かは分からないけどね。



♂♀



――その日、アヤ達は健診に来ていた。

なんでも都心の若い女性を対象に健康診断を行っているそうで、同じくカホ、サナ、ルカも病院に来ていた。


「では、説明の後はそれぞれ分かれて検査をしますね」


そう言った壮年の看護婦長は微笑む。

現在三人がいるのはロビーから少し離れた総合室らしく、説明を受けたのちグループで分かれることに。


アヤは聴力測定ちょうりょくそくてい


カホは心電図室しんでんずしつ


サナは視力測定しりょくそくてい


ルカは身体検査しんたいけんさ


最後に全員が婦人科へ向かう流れだ。他の健康診断の参加者もこの四つに分かれて並んでいた。すると看護婦長は全員が必ず婦人科での検査を受けてほしいと念を押した。


「女性というのは非常に負担のかかり易い体質を持っておりますが、私たち医師や看護師はそんな女性の皆さまの体調を改善したい一心で御座います」


看護婦長は若き参加者女性陣を優しく見つめる。現代社会を生きる女性に寄り添える看護師でありたいと言った彼女に四人は不思議な気持ちだ。まるで何かを悟った様子でもある。

ひとまず全員は他の看護師の案内の元、各診療所へ向かうのであった。



♂♀



「では、耳に此方の機械を当ててもらって……」


アヤが入った診察室は耳鼻科。そこで聴力測定を行う。

か細く小さな音を聞きながら、聞いたらボタンを押す。アヤは難なく健康として終えたが、一部では何度もやり直しをしている女性が。


「聞き取り辛いですか?」


付き添いの看護師が問えば女性は頷く。


「後程検査結果をお伝えしますので、検査はここまでにしましょう」


看護師はカルテに何かを記入するとにこやかに言った。

アヤを含め10名程度の対象者はそのまま別室へ向かう。

廊下ですれ違った医師や点滴スタンドを引く患者、休憩スペースで寛ぎ談笑だんしょうする人達の光景に、どこか違和感が。


「……」


普通の病院のはずなのに。

アヤは眼科から出てきたサナを見た。


「サナ」


声をかけるも彼女は此方を見なかった。それどころか他の対象者の女性達も反応しない。

声が小さかったかな?アヤは再びサナを呼ぶも。


「次は眼科で視力検査ですよ」


付き添いの看護師によって遮られた。


(どういうこと?)


自分とサナの距離は結構近かったし、向こうも自分達の存在に気が付くだろう。

アヤは能力を使うことにした。

これからサナはどの診療科に行くのかを予測するためだ。


(方向からして2階…?)


丁度傍にあった病院の案内板を確認する。2階には心電図(MRI)の診療科があった。確かそこにはカホが向かったはず。

心電図以外の診療科は1階なので後でカホに会えそうだ。


「次の方向はどっちですか?」

「……右」


視力も問題なく健康とみなされた。

途中対象者の女性一人が目が悪いからと言って眼鏡を鞄から取り出した。

付き添いの看護師はそうですか、とまたカルテに何かを書き込む。


「あの」

「なんですか?」


アヤは看護師に尋ねる。一体カルテに何を記入しているのかと。

先ほどからこの看護師は自分達の行動や動作、また検査の時何かしらの出来事にあった場合に書かれたカルテが気になっていた。


――まるで、みたいに。


「皆さんの健康状況を記入しているだけですよ。特に岩鍛代いわきたいさんは非常に健康ですね」


健康であることはいいことなのだが、この看護師の笑みが不気味に思えてきた。

それに自分に反応しなかったサナのことも気がかりだ。残りのカホやルカも大丈夫なのだろうか。


「では次の検査へ行きますね。もしお手洗いに行きたい場合は声をかけてください」


そう言った看護師にアヤは声をかけた。すぐに戻ってきてくださいね、と告げる看護師の言葉を背に速足で向かう。


(ほんと、気味が悪い)

「あの……」


少し休憩してから戻ろう。そう思った矢先だ。

鏡越しに見えたのは聴力測定で何度もやり直しした女性と視力検査で眼鏡を取り出した女性の二人。

どちらも顔を青ざめており、もしかしたら気分が悪くてトイレに来たのだろうか。


「あの、もしかして……貴女は能力者ですか?」

「……何故、そう思うんですか?」

「なんとなく、です」


聴力測定の女性=川端チヅルが言う。

視力検査の女性=立花チホはアヤに、自分達は能力者を嫌う差別者ではないと言った。


「移動の時、貴女は誰かに声をかけていましたよね?」

「はい」

「でも、反応がなかった。違いますか?」


アヤの行動に対し誰も反応がないことを彼女たちも不審に思っていた。


「前からこの病院で怪しい噂が絶えないという情報を元に、個人で調査をしていたんです」


どうやらチホは警察官だった。懐から警察手帳を見せてくれた。

そしてチヅルはサナと同じ班に友人がいると言った。


「怪しい噂とは一体…?」

「この病院の近くにある墓地で、変死体が多く見つかっていると報告があったんです」


変死体は手足が全て逆方向に捻じ曲げられていたらしい。そして墓地に投げ捨てるように放棄された死体は全て身元不明の遺体。

チホは怪しいと思い単独で調査を行うためにこの検査に参加したという。


「……そろそろ戻った方がいいかと。あの看護師さん、なんだか怖くて」


チヅルが言うように、そろそろ戻らなければあの看護師に怪しまれるだろう。


(協力者が増えたのは嬉しい誤算、ということかしら)


アヤは手洗い場を後にした。

――そこで聞き耳を立てた人物がいるとは知らずに。

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