第三節 伝授

「ぐうっ……!」


 重量の乗った大盾の一撃を受け、ゲルハルトのAsrionアズリオンは大きく態勢を崩す。


「ただの打突でこの威力か……!」

「動揺している暇は無いぞ、ゲルハルト!」


 アルフレイドはさらに追撃を仕掛け、大上段から大剣を振り下ろす。

 ゲルハルトは急いで、大剣で防御するが――


「ぐっ、なんて重い一撃だ……!」


 歯を食いしばるほどの膂力である。

 自身の愛機の力を味わうことになるのは、これが初めてだった。


「ゲルハルト、お前のAsrionアズリオンにある頭部のそれは、飾りか?」

「ッ!」


 アルフレイドは純粋な疑問ではなく、装備の自覚を促すために敢えて問いを発する。

 気づかされたゲルハルトは頭部をアルフレイドのAsrionアズリオンに向けるが、アルフレイドは既に大盾を――逆手に持ち変えた上で――ゲルハルトのAsrionアズリオンの腹部に向けていた。


「気付くのが襲いぞ、ゲルハルト!」


 そのまま容赦無く、光線ビームを放つ。

 ゲルハルトのAsrionアズリオンのどてっぱらに、巨大な風穴が開いていた。


「しまっ……!」

「踏ん張っててゲルハルト! ダメージはボクが修復するから!」


 腹部どころか背中まで貫通した光線ビームの一撃だ。Asrionアズリオンであってもフレームを破壊され、まともに戦える状態ではない。

 しかしパトリツィアは、そんな大破と言えるダメージを受けた状態からも、一瞬で機体を修復してみせた。


「よし、動く……! 助かるぞ、パトリツィア!」

「気にしないで、ゲルハルト! それよりも、戦いに集中して!」


 機体が修復されたのを確かめて、ゲルハルトは今度こそ自身のAsrionアズリオンを後退させる。

 アルフレイドも深追いせず、態勢を整えた。


「父さん……父さん、おれがまだAsrionアズリオンを貰ってなかったときは、どれだけの鍛錬と経験を積んできたんだ……?」

「どれだけ……か。今のお前よりは、遥かに多く積んでいる」

「やっぱりな」

「だがな、ゲルハルト。聞け」


 アルフレイドは話の途中に間をおいてから、続ける。


「お前は確かに7年もの空白期間がある……。しかしお前には、リラ殿という素晴らしい師がいる。何より、守護神の……我が妻であるAsrielアスリールの加護が、もたらされている。後は私の技を受け継ぎ、おのが力となせ。それが守護神の御子みこたる、お前に課せられた義務だ」

「なら、父さん。知っている限りの技を教えてくれ。おれがちゃんと、受け継ぐからさ」

「ああ。受け止めろ、ゲルハルト!」


 話が終わるのと同時に、アルフレイドが突撃を仕掛ける。

 ゲルハルトはまたも真正面から受け止め、鍔迫り合いにならんとしたその時――


「はぁっ!」


 アルフレイドのAsrionアズリオンが構える大剣が、淡く輝く。

 そのまま二振りの大剣が激突するが、ゲルハルトのAsrionアズリオンが構える大剣は一方的に切断された。


「!?」


 ゲルハルトは間一髪で反応し、大盾を振り上げて迫る大剣を止める。


「……せいっ!」


 そしてそのまま、ゲルハルトのAsrionアズリオンは一気に大盾を左に振るう。さしものアルフレイドも対応しきれず、つかが持っていかれた。アルフレイドのAsrionアズリオンから、大剣を一振り奪い去ったのだ。


「ッ、ゲルハルト……やるな。まさか“輝刃きじん”を防ぐとは」

「いや、一瞬でも遅れていれば右腕は持っていかれていた。父さんの技は、やっぱり本物だ」


 一歩間違えればどうなるか分からない恐怖に冷や汗をかきながらも、ゲルハルトは攻撃の手を緩めない。

 だがアルフレイドは、大剣を失いながらも平然と、ゲルハルトの攻撃を捌いていた。


(こちらは二刀流なのに、まるで優位に立った気がしない……! どれも易々と受け流される……!)

「力に任せただけでは、この守りを抜ける事は出来んぞゲルハルト!」


 アルフレイドのAsrionアズリオンは、片手だけで大盾を保持している。

 なのに平然と、ゲルハルトのAsrionアズリオンのあらゆる攻撃を捌き続けているのは、ひとえに彼が生前に積み重ねてきた技量ゆえであった。


「それに、Asrionアズリオンの盾が2つあるのは、飾りではない。その真価を、今見せるとしよう」


 アルフレイドは依然として攻撃を捌きながら、Asrionアズリオンの右手を後方に突き出す。

 わずかな時間で、小盾が右手に握られた。


「聞け、ゲルハルト。盾は万能の武器なり。それは防ぐだけにあらず、叩き、切り、刺し貫く事が叶う。ゆえに」


 漆黒の結晶を展開したアルフレイドは、一瞬の隙を突いてゲルハルトのAsrionアズリオンから、大剣をもぎ取る。

 そしてそのまま、遠くへと放り捨てた。


「二刀流として扱う事も容易い。さあ、空いた右手に盾を取れ。大盾のみでの戦い方を、存分に伝授しよう」




 ゲルハルトはまたも威圧感に呑まれながら、Asrionアズリオンの右手に盾を握らせ、結晶を伸ばした……。

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