第34話 堕胎

 もう30も過ぎていたし、今更門限なんてものも特に無かったので私は自由に過ごしていた。


 毎回、一生懸命に恋愛しながら「付き合う」「別れる」を繰り返していた私をチラ見していたからだろう、この数年後に私はとんでもない事を言われる事になる。


 それは私が結婚して数年が経ち、それでも子どもが出来なかった事で言われた事だった。


「あんた、何度か子ども下ろしてるから、子どもが出来にくいんでしょう」


 と。耳を疑うという言葉はこういう時に使うのだろう。


 何言ってんだと、信じがたい事を聞いた気になった。


 もちろん私は一度も子どもを下した事は無いし妊娠した事もない。


 それっぽい話を母にした事もない。

 というか母に恋愛の話をした事もないのだ。


 全ては母の勝手な妄想と思い込み。


 私は呆れ過ぎて何も言えなかった。


 母と喋る気すら無くなったので、否定も弁解もしなかった。

 そのために過去の恋愛の事を母に喋るのも嫌だったのだ。


 母との距離が出来て、母に情が沸き始めていたのに「やっぱ母は毒親だった」と改めて認識させられるような発言に感じた。



 この時から更に数年後、またまた驚く事を母から聞く事になる。


 それは実家に帰った際、たまたま母と雑談していた際に母が自分の結婚前の恋愛を語り出したことだ。


 母に興味の無かった私でも、さすがに母の過去の恋愛話は好奇心が沸いた。


 その話によると、母が結婚前に付き合っていたのは良いところの坊ちゃんで、二人は結婚しようと思いその前に子どももできたらしい。


 けれど相手方の親に猛反対され、駆け落ちみたいな事もしたらしいが男性は最終的に母を捨て親に従ったという。

 それで母はその時の子どもを下したというのだ。



 ……それ私、初耳なんですけど。


 母はその時に子どもを下した経験があったので、私の前のお姉ちゃんを死産し、他にも流産を経験しているという。

 だから私が結婚後何年も子どもが出来なかったのは、子どもを下した経験があるからだろうと勝手に推測したらしいと分かった。


 私は価値観が広い方だと思うし、それなりに人生経験もあったと思うがさすがに40過ぎてから、自分の母親が悪びれもせずに堕胎経験をシレっと話すことには目が点になった。

 だけど何も言えず、ふーんと何も驚いてないフリをして聞くしか出来ないのだった。

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